彼女達の思わぬ未来
男性陣はちょっと鍛えればすぐに筋肉増強という夢のようなトレーニングがあるという噂に色めき立っていたころ、女子職員更衣室では張り詰めた空気が漂っていた。
「メアリア、ちょっと腰回りが細くなったんじゃないの」
「そうねえ、ミニアンこそ、腕がほっそりしたわね」
表情こそ笑みを作っているが、目が笑っていない。
ひりひりするような緊張感が周囲に漂っていた。
「あら、ミニオン、ちょっと太った」
「どこを見て言ってるの、元々よ」
たっぷりとした腰回りを撫でる。
太ったと言われた女はこめかみに青筋を浮かべる。
カラの指導は決して楽ではない、一人でやっていたら確実に全員挫折していた。それが曲がりなりにも続いているのはひとえに、自分一人脱落したくないという思いゆえだ。
最初に脱落するのが自分であってはならないという女達の意地の張り合いと、他の女が痩せて、自分だけが太っているという事態に耐えられない女心は複雑なのだ。
笑いさざめきながら、殺気立ったやり取りが続く。
「次の指導はヨガですって」
「ああ、誰かさんは身体が堅いから」
更衣室は一気に殺気立つ。
「そうかしら、でも足がつったって騒いだのはだれ」
一気に空気がぎすぎすした。
「あ、でもおやつが出るよね、むしろ、今日のおやつが楽しみ」
トレーニングの合間に出されるおやつ、それは異世界のご馳走だった。
今まで食べたことのないお菓子や飲み物は彼女達の心をわしづかみにしていた。
飴と鞭がよく効いていた。
その陰でウィスラー夫人が目頭を押さえていたことを彼女達は知らない。
このどこか鬼気迫るやり取りが、繊細な彼女の心をだいぶ傷つけていたのだが、そんなことに気が付く人はいなかった。
「あの、何ですって?」
カラはイリアス少佐の訪問を受けていた。
「彼女達の訓練は、成果の一つと考えていいと思われます」
カラがやっていたダイエット指導は、明らかに女性職員の筋力を増強させている。その成果を見える形にすべきだというのがイリアス少佐の提案だった。
「目に見える形ってどうやって、まさか他の基地の女性職員を連れてきて障害物競走をやらせるとでも?」
「障害物競走とは?」
「だから、障害ですよ、ほら、飛び越えたり潜ったり、そういう妨害を乗り越えた徒競走のことなんですけど」
「飛び越えるというと、何か置いてあるんですか?」
「ハードル競争ってないですよねえ」
ハードルを飛び越えながら走る競争のことを説明する。
「くぼんだ所に水が入ってたりするんですよね、その足元の悪いのを乗り越えたり」
「なるほど」
カラのとつとつとした説明をイリアス少佐は感心したように頷いていた。
「それで行きましょう、具体的に必要なものは?」
「とりあえず、参加者全員分のパンツスーツ」
スカートで障害物競走をやれなんて、どう考えてもセクハラだ。
そこまで考えてからは我に返る。
「あの、参加希望者を募るところから始めないと」
彼女達が反対したらそれで終わりだ。果たしてやってくれるだろうか。
「まあ、それはこちらの話の持って生きようですね、任せてください」
これでいいんだろうかと、カラは思わず天を仰いだ。