スポーツ理論 適当
軍人は、マクファ・リーンと名乗った。この国ではよくある、栗色の髪と薄い緑の瞳をした、彼は、精悍な顔を悩みに曇らせている。
「一つ聞きたいのですが、どうして体重を落としたいのですか?」
体脂肪率一桁ボディの彼が肥満に悩んでいるはずもない。
「私は竜に乗りますので、体重が軽いほうが、相棒である竜に負担がかからないのではないかと思うのです、それに戦いの場でも、機動性はあったほうがいい」
竜は一匹一匹決まった相棒がいるらしい。
「竜ってどのくらいの大きさですか?」
「最大種ですが」
タロはしばし沈黙する。言葉が出なかったのだ。
あのゴ〇ラなら、彼の体重が数十キロの範囲で増減しても、些細な誤差の範囲なのではないだろうか。
タロは乾いた笑いをこぼした。
「あのですね、カラの指導は体脂肪を落とすのが目的でして、そもそも体脂肪がない人間には効果がないんですよ」
タロは親切に説明してやる。
「体脂肪……」
そして筋肉で硬い自分の腕を撫でてみる。
「しかし、相棒の負担を少しでも減らしてやりたいんです」
その真摯な瞳に、タロの頭痛は増大した。
「いや、でも筋肉を落とすわけにもいかんだろう、必要があってそれだけの筋肉を維持しているんだから」
一見そうは見なくてもタロは年長者としての忠告をしてやる。
さてどうしたものかとタロは悩んだ。
カラがやってこないだろうかと期待して扉を見てみたが、その姿は全く見えない。
なんとか記憶を探って何かいい案がないだろうかと唸る。
不意に記憶の扉が開いた。
「ちょっと、俺を持ってみませんか?」
そう言って、タロは彼に身体を寄せた。
「持ってみるって?」
「俺を抱き上げてください」
タロはそう言って、身体を反転し、背中を彼の胸板に押し付けた。
唐突なタロの行動に、マクファは戸惑う。
「この姿勢のまま持ってください」
戸惑いながら、タロの胸に腕をまわした。そして一気に持ち上げる。
タロは持ち上げられながら一気に身体に力を籠める。数秒、それを維持した後、一気に身体から力を抜いた。
びくっと相手の腕に動揺が走ったのを感じた。
「じゃあ下してください」
腕が外れたので、タロはさっさと相手から離れた。
好き好んで男、それも筋骨隆々とした男と接触したいわけではない。
「重さが変化したでしょう」
人の身体は力を入れた時は軽く、力を抜いた時は重く感じる。
高校の時の柔道の授業で、そんなことを習った。
「身体をさばき方次第で、体重を軽く思わせることができるんですよ」
タロはそう説明する。
「それはどうすれば会得できますか」
早速相手が載ってきた。
「体幹を鍛えること、あとバランス感覚を鍛えることですかねえ」
適当なことを言ってけむに巻くことにした。すでに相手をすることに疲れている。
「これはバランスを鍛える道具なんですよ」
「カラに頼んでみてください」
そう言ってからようやく思い出した、さっさとカラを探しに行けと言えばよかったのだ。
タロに言えることは何もなかったのだから。
いそいそと去っていくマクファの姿を見送りながら、無駄な時間を過ごしてしまったとタロは後悔した。




