やってみよう
アニスは一週間で成果を出した。というか同僚たちが成果を見破った。
彼女たちはエプロンをつけている。そのエプロンの垂れ下がった部分が明らかに長くなっていることに気付いた。
ポチャっていた頬も多少へこんできたようだという証言もある。どうやら転生者のダイエット知識はかなりあてになる。
そう確信した彼女たちはカラの部屋に集結した。
一通りタロとの打ち合わせを終えたカラは自室に戻ろうとして、扉の前にある人ごみにしばらく困惑していた。
カラの姿を見つけた彼女達は大きく頭を下げた。
「カラ様、私達にもその知識を与えてください」
「は?」
「アニスが痩せたんです」
「アニスに効くなら私達だって」
口々にいあう彼女たちにカラは少し頭が痛くなった。
アニスの必死の様子に仏心を出したが、こういう事態は想定していなかった。
「これだけの人数に教えるとなると広い場所が必要だ、それに私には仕事があるので一人一人に教える時間はない」
それで断ったつもりだった。
「わかりました、なんとか使用していない時間帯の体育館の利用許可を取ります」
通じなかった。
「え、いやその」
腹筋のやり方を教えるぐらいならすぐできるが、この人数に指南するとなると相当な時間と手間がかかりそうだ。
「え、あの」
なんとか断ろうとするが、人数で押され、迫力で押され、口がきけなくなる。
『ありがとうございます』
そろった声で礼を言われ、カラがダイエット筋トレ指導をするのが決定になってしまった。
「嘘でしょ」
嬉々としてからの前を通り過ぎていく彼女達をカラは茫然と見送った。
本格的に痛み始めた頭を抱えてからは思わずその場にうずくまった。
翌日、カラはタロに相談してみたが、あっさり許可を出された。
「ええ?」
「いや、あっちの料理人と話がついたしな、カラちゃんがいなくてもなんとかなるし」
その言葉が胸に突き刺さったが、なんとか堪える。
「まあ、いいんじゃない。カラちゃんだって、前世の知識をこのまま朽ちさせたくないでしょ、これだって伝道だよ」
「ダイエットでも?」
「そう」
言われてカラはしばらくうつむいていたが、意を決したように頷いた。
「そうだね、やれる範囲で、やってみてからでもいいよね」
「俺は、健康増進以外の範囲で、やれそうなことをやってみる」
「なんかあるの?」
「今度はパウンドケーキでも進めてみようかと」
「あのタロ、パウンドケーキなんて高脂質なものだめだと思うんだけど」
今まで何を聞いていたとカラは驚く。
「カラちゃん、ここは軍隊です、アスリートの集団じゃありません、つまり任務の関係で遭難の危険性の高いこともあるわけ」
「そういえばそうだ」
カラは思わず手を打つすっかり国体選手の栄養管理のつもりでいた。
「だからダークフルーツケーキでも進めてみようかと思ってる」
パウンドケーキに生地の半分以上のドライフルーツの蒸留酒漬けを練りこんだダークフルーツケーキは保存さえ間違わなければ年単位持つ。
「生地とドライフルーツの糖分で炭水化物、卵とバターで蛋白質ドライフルーツはビタミンと食物繊維も兼ねているし、それなりの栄養食になるんじゃねえか」
「そうか、それは考えてなかったです」
軍隊というカテゴリで何があるか、カラはそこから考え直す可能性に思い当たった。
「とりあえず、メイドさん達に筋トレ指導してみたら、それで結果が出たらそれを成果にすればいい、メイドさんでもこうなるならってかたちでな」
そういわれてカラは納得した。
「じゃあ、やってみる」
とにかく挑戦しなければ何もならないと。




