初歩の筋トレ
女子寮は六人部屋だった。三段ベッドが両側に、空きスペースが六畳ほど、窓際に書き物をする机が一つだけ。
ここに比べれば、カラの部屋はだいぶ豪華だ。
しかし、アニスのベッドは一番下。そして高さが絶望的に低い。
これでは腹筋運動をすれば頭をぶつけてしまう。
仕方がないとアニスの毛布を床に敷いた。
「アニス、ちょっと靴を脱いでここに横になってくれる?」
言われるがままにアニスはカラの言うとおりにした。
「まず、足を直角に曲げて、決して床から離さないように、そして腕は頭の後ろで組んでみて」
その様子をアニスの同僚たちは興味津々と言った風に見ている。
カラ自身が彼女たちにとっては見世物だ。
世にも珍しい転生者という見世物。
「では身体を起こしてみて、絶対に足は上に上げないで」
カラはまず、アニスに腹筋運動のやり方を指導する。
「お腹が痛いですぅぅ」
アニスが泣きごとを吐き出すがカラはこくこくと頷いた。
「痛くていいのよ、その痛みが腹筋を刺激した証拠なんだから」
十回ほどやらせてから、カラはアニスを起き上がらせる。
「これはお腹周りを細くするために必要なことなの。そうね、他にベッドの上でもできるやり方も教えようか」
そう言って毛布のほこりを払うと、ベッドに戻す。そして、アニスにベッドで寝るように指示した。
「今度も腕は頭の下で汲んで、今度は足を少し上げる」
カラはアニスの足をつかんで、あげる位置を調整する。
「そのまましばらくじっとしていなさい」
カラが命じるとアニスはしばらくじっとしていた。しかしだんだん顔が赤らんで爪先がプルプルと震えだした。
「うええぇ」
しばらく頑張っていたが足はベッドに落ちた。
「最初は長時間できないけれど、少しずつ時間を長くする努力をしましょうね」
ずきずきと痛むお腹を抱えて、アニスは上目遣いにカラを見る。
「この運動をした後ならお菓子を食べていいわよ、ただし何も運動をしていないときにお菓子を食べるのは厳禁、これを守れる?」
「どうしてですかぁ」
「そういうものだから」
ぷよぷよしたほっぺを軽くつつく。
「それから、お菓子は食べていいけど減らせと言ったわね、これをした後食べていいのは掌に乗る量だけよ」
アニスの口が声にならない悲鳴の形にゆがむ。
「これ以外、お菓子を食べながら体脂肪をつけるのを防ぐ方法はないわ」
アニスは涙目だ。
「この運動をするか、それともお菓子を食べるのをやめるか、決めるのは貴女ですよ、楽して痩せるなんて方法はあちらにもないわ」
ダイエットに王道なし、これを使えば簡単には詐欺だと思え。
それはすべてのスポーツマン並びにウーマンにとって当然の座右の銘だった。
その毅然とした横顔をアニスの同僚たちはじっと見ていた。
ダイエットは彼女たちにとっても重大な関心ごと、その転生者からの貴重な提言をある種の感動を持って彼女たちは聞いていた。
「覚えておきなさい、最後に決めるのは、あなた自身の意志だということを」
思わず気圧されるアニス。
「それでは、あと、私が教えられるのは別のトレーニングでしかないわ、どれも決して楽ではないのよ」
それだけを言ってからはアニスの部屋を辞した。
閉じた扉の向こうで、アニスとその同僚たちが深々と頭を下げていたことをカラは知らない。




