午前の予定
基地は本当に広かった。鍛錬場の一角にたどり着いた時、カラはぜひゅーぜひゅーと明らかに大丈夫じゃない呼吸音をさせていた。
自転車を止め、体育館のような建物に入る。
一人だけ滝のような汗を流し、そのくせ顔色は青ざめているカラを受け付けの軍人らしい青年はぎょっとした顔で見つめる。
「いや、ちょっと疲れているだけだから」
あの辺境の地で、この体力のなさで、どう生き抜いてきたのだろう。
タロは本気で疑問に思った。
体育館のような建物はやっぱり体育館だった。
屈強な男達が、武器を手に戦っている。
手に持つ得物は丸い棒状になっているので、おそらく模擬戦だろう。
「あれ、どれくらい続けるんですか」
やっと呼吸が平静になってきたカラがアルスに尋ねる。
「大体、二時間はみっちりとやりますよ」
「なるほど、基礎訓練とかもやりますよねえ」
「基礎訓練と言いますと?」
「走り込みとか、ほら重い物もって負荷をかけるトレーニングとかですよ」
その言い方にタロはバーベルやダンベルを使った運動を想像した。
体育館の中を見た限りではそのようなものは置いてないが、もう一つ体育館があるのだろうか。
「走り込みはともかく、基本的に他はありません、あれだけですよ」
そう言って打ち合いをする軍人たちを掌で示す。
カラは衝撃を受けた。
「筋トレがないの?」
ありえない、軍人が筋トレをしないなんて。
「ほかに水中訓練と徒手空拳各党の訓練もありますが、それだけです」
軽く立ちくらみをおこしているカラに怪訝そうな顔をする。
「あれだなあ、明治まであった、柔術なんかで技は投げられて覚えろみたいなやつか?」
「それは聞いたことがあるわ、でもあれは故障が多すぎるから、やはり基礎訓練が必要と今の形になったの」
カラの目は座っている。
カラは本気で、この状況が心配になった。
やはり基本は身体づくりだ、故障の多いやり方で、軍人さんを育成していいのだろうか。
「そのやり方、おかしいとは思わないの」
「今までこれでやってこれましたから、別に」
アルスは真顔だ。
話し込んでいると、カラたちのほうに壮年の軍人が現れた。
アルスが、食事改善にやってきた転生者だと説明すると、何事か考え込むような顔で、カラたちを見る。
「転生者は年齢ではないとわかっているが、若すぎるな」
「それは今宵の晩餐を食べてから決められたらどうでしょう」
タロによる試作食事会の話を聞いて、彼は大いに興味を持ったようだ。
体育館を後にしながらカラは日本語で呟く。
「食事改善以前の問題だな」