午前の予定
爆音というべき鳴き声でベッドから転がり落ちた。
「さすがドラゴン、鳴き声も半端ない」
鼓膜がじんじんする。
どうやら、時報代わりにドラゴンに泣かせているらしい。
カラは何とか起き上がって身支度を整えた。
元々大して服は持ってきていない。初日に来ていたのは、母がかなり成功したと言っていた絣を使ったワンピースだったが、今日は自分で織ったタータンチェックもどきのシャツと無地のスカートという格好だ。
替えはあと二着しかない。
髪を結って、それから洗面台のある場所に向かう。
洗面台では思ったより人がいなかった。どうやらドラゴンが鳴く前に起きだすものがほとんどらしい。
洗顔と歯磨きを終えて、タロと合流する。
タロはウィスラー夫人と何事か話し合っているようだった。
「おはようございます」
「ああ、おはよ、今日から、職員全員の晩飯作るから、手伝って」
言われて目が点になる。
「考えてみれば、一回献立を作っても、それを人数分きちんと作れるかなんだよな、だから、職員五十人ぐらいの料理を三人ぐらいで回せたら、なんとかなると思う」
カラは思わず冷や汗を流した。
「前世も今世も五人分以上の料理を作ったことないですけど」
業務用の調理と家庭料理は別物だということぐらいカラでもわかる。
「ちょっとした雑用程度だから大丈夫、手伝いも一応プロを用意してくれるってさ」
本職が言うなら安心とは絶対思わなかった。
「やっぱり、大量に作るなら大鍋料理なんだが、モツは下ごしらえが面倒なんだよな、そのあたりを考えて、晩飯から、それともカラちゃん、夜明けとともに起きだして朝食作る?」
「無理です」
きっぱりとカラは言った。
早朝から重労働などまっぴらだ。今の身体は虚弱なのだから。
「献立は、そっちの意見を参考にして俺が考えた。手順も計算済みだから大丈夫。それと、ちょっとこの基地を見学させてもらいたいな」
「見学?」
「訓練とか、どの程度の運動量なのか、ちゃんと見なけりゃそっちもわからないことが多いんじゃないの?」
訓練の見学はしてもいいかもしれない。
カラはそう思った、
運動している様子さえ見れば、身体にどの程度の負荷がかかっているかはわかる。
その負荷を計算に入れて料理の改善に励むことにしよう。
「じゃあ、午前中は見学、午後から調理開始だから、そう言うことでよろしくお願いします。ウィスラー夫人」
ウィスラー夫人は無言度頷いた。
「どうせなら、ドラゴンを使った訓練を近くで見たいもんだ」
カラは思わず引いた。
「いや、ちょっとそれは勘弁してもらいたい」
カラは少しだけ鱗のある生き物が苦手だった。