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決戦

 トンネルの先、遠くに見える広間は、私が手にしているたいまつの明かりが届かない場所であるにも関わらず、明るく照らされていた。


 その理由はすぐわかった。

 広間には真ん中あたりに大きな岩があって、その上で篝火かがりびが焚かれていた。


 また大岩には、女の子が一人、ロープで縛りつけられていた。

 そしてその岩の周囲を、三体のゴブリンが、踊るようにしてぐるぐる回っている。

 ゴブリンは右回りに回っていたかと思うと、時折きびすを返し、その手に持った刃物を別のゴブリンのそれと打ち合わせたりしている。


 さらに、縛られている女の子の前には、一体の派手なゴブリンがいて、何か盛んに呪文のようなものを唱えていた。

 そのゴブリンは、羽根飾りのたくさんついた冠をかぶり、身に着けている衣装も袖と丈が長く、彩り豊かなものだ。


「シアお姉ちゃん! サラが……!」


 私の背中の男の子が、私に必死に伝えてくる。

 どうやら、あの岩に縛り付けられている子が、サラちゃんらしい。


 私は走っていた途中でブレーキをかけて、いったん立ち止まる。

 そして二人の子どもを背中から降ろす。


 男の子のほうに、たいまつを渡す。

 それから二人に向かって言う。


「お姉ちゃんはサラちゃんを助けてくる。ここで待ってて」


 子どもたちは、素直にうなずいた。

 それを確認してから、私は広間のほうへと向き、再び駆けだした。


 全力で地面を蹴る。

 ぐん、ぐんと現場が近付く。

 二人を乗せているときとは、スピードがまるで違う。


 踊っていたゴブリンたちが私に気付き、広間から通路のほうへと向かってくる。

 一方の派手な格好のゴブリンは、逆に私から距離を取る方向に動いた。


 踊っていた三体のゴブリンは、私の進路を邪魔するように、広間の前の通路で立ちふさがる。

 そこで私を迎撃する構えのようだったけど──


「──邪魔ぁああっ!」


 私は足を止めずに、槍を全力で突き出した。


 ドッドッと、二つのものを立て続けに貫いた感触。

 私の狙い通りに、槍はその一突きで、三体のうち縦に並んでいた二体の体を同時に串刺しにした。


 でもゴブリンは、串刺しにされても、すぐには絶命しなかった。

 特に手前側のゴブリンは、槍に貫かれたまま、その手に持った刃物でしゃにむに私に切りかかってきた。


「──痛っ……!」


 私は槍をとっさに引き抜いてそれを回避しようとしたけど、勢いがついていたためもあって、完全にはよけきれなかった。

 胸と首の中間あたりを、服の上から浅く切り裂かれて、血が飛び散った。


「このっ……!」


 やってくれたゴブリンを、思いきり蹴り飛ばす。

 そのゴブリンは後ろのもう一体も巻き込んで、広間のほうへごろごろと転がっていった。


 ──でも、頭に血が上ったのが良くなかった。

 私がすぐに攻撃するべきは、そいつじゃなかったんだ。


「ぐっ……!」


 私の右のわき腹に、痛烈な痛みが走った。

 見ると、三体のゴブリンのうちの残りの一体が、私の右手側から、その手の刃物を私の右わき腹に突き立てていた。


 包丁のような長さの刃は、その三分の一ぐらいまでが、私のお腹に埋まっていた。

 私が着ているセーラー服のその部分に、赤いしみがじわっと広がって、それがスカートにまで及ぼうとしている。


 痛い──痛い痛い痛い痛い痛い!


「──このぉぉおおおおおおっ!」


 もう必死だった。

 私は、私を突き刺しているゴブリンの顔面を手でつかむと、それをそのまま地面にたたきつけた。


 ぐちゃっと、嫌な感触があった。

 でももう一発、たたきつけた。


 そのゴブリンは、すぐにびくんと痙攣して、動かなくなった。

 私はすぐにゴブリンを手放し、わき腹から刃物を引き抜き抜く。


「はぁっ……はぁっ……癒しの力を、わが手に──ヒールっ」


 右わき腹を押さえて、治癒魔法を唱える。

 癒しの光が私の手から発せられ、傷が癒されて、痛みが引いてゆくのが分かる。


 ──が、そのとき。

 正面からごぉっと、赤く燃えさかる炎の塊が飛んできた。


「くぁっ……!」


 とっさに躱そうとしたけど、その炎は瞬く間に私に襲い掛かり、胸に直撃しようとしていたものを、肩にずらすのが精一杯だった。


「うあっ……あ、つっ……!」


 私の左肩が、文字通り焼けるような痛みに襲われる。

 服のその部分が燃え溶けて、その下の皮膚は赤黒く爛れていた。


「癒しの力を我が手に──ヒール!」


 わき腹の刺し傷を治療しきれないうちに、肩の火傷を癒しにかかる。

 でも連続して治癒魔法を使うと、どこか体の内側から精力のようなものが抜け出てゆくのを感じる。


 これは私が直観的に知っていることだけど──魔法を使うときには、体内の魔力を消費する。

 失った魔力は、ご飯を食べて休息をしてっていう普通の生活をしていればだんだんと回復していくけど、これは何時間という時間をかけて徐々に回復するものであって、短時間ですぐに急速回復するようなものじゃない。


 つまりどういうことかって言うと──魔法は、いくらでも無制限に使えるわけじゃないということ。

 使い続けていれば、そのうち体内の魔力が枯渇してしまう。


 それに、それを抜きにしたって、こんな痛みを何度も味わわされたくはない。

 私は涙でぼやける視界で、どうにか今の炎をぶつけてきた犯人を見つけ出す。


 派手な格好をしたゴブリンが、何やら呪文を唱えているようだった。

 その両手の間に小さな赤い炎が生み出され、それが徐々に大きくなってゆく。

 かと思っていると──


 ──ボッ!

 その炎の塊がまた、私に向かって発射された。


「くっ……!」


 私は治癒を中断して、慌てて横に身を逸らす。

 今度は何とか回避できた。

 猛スピードの炎の塊は、私の服の端をかすめて横を過ぎ、少し後ろの土壁にぶつかった。


 ──ダメだ、悠長に治癒魔法で回復している場合じゃない。


 私はまだ痛む左肩と右わき腹を我慢して、攻めに出る。

 槍を肩の上に振り上げて、それを派手なゴブリンめがけて投げつけようとする。


 するとそれを見た派手なゴブリンは、大岩の後ろに半ばまで身を隠した。

 そしてそこでまた、呪文を唱えて炎を生み出し始める。


 うわっ、小賢しい……!

 あれじゃ槍を投げても、その瞬間に岩の後ろに隠れられたら当たらない。


 ──だったらこっちもだ。

 私は足元に転がっていたそれを左手で引っつかんで、派手なゴブリンに向かって駆け出した。


 相手のところにたどり着く前に、再び紅蓮の炎が飛んできた。

 私はそれを、左手に持った、すでに動かなくなったゴブリンの体で受け止める。


 炎の塊はゴブリンの遺体を鞭打つように焼いた。

 いい気味だ。同士討ちしてろバーカ。


 ──と思っていたら、私の左手から重量感がすっと消えた。

 見ると左手に持っていたゴブリンの遺体が、黒い靄のようになって消え去っていた。


 げっ、そう言えばそうだった……。

 もうちょっと早かったら、火炎の直撃をくらっていたところだった。あっぶな。


 でもおかげで、敵はもう、すぐ目の前だ。


 派手なゴブリンは背中を見せて逃げ出そうとしたけど、そんなこと許すわけもなく。

 私はすぐに追いついて、その背中側から、左胸を槍で貫いた。


 私が槍を引き抜くと、派手なゴブリンはその場に崩れ落ちる。

 少しの間、びくっびくっと痙攣していたけど、それもすぐに動かなくなった。


「はぁ……」


 周囲にほかに敵がいないことを確認してから、私は天井を見上げて、大きく一息。

 それから、ズキズキと痛む右わき腹と左肩を、順に治癒魔法で癒していった。




 傷の治癒を終えてから、岩に縛り付けられている女の子を、縄を切って救出。

 二人の友達のところに連れて行ってあげると、三人は抱き合って再会を喜んだ。


 私はそれを、ほほえましく思いながら見ていた。

 いろいろあったけど、結果としてよかったなって思う。

 うん、私、頑張った。


 そして、しばらくの感動の再会を見守った後、私は子どもたちに伝える。


「じゃ、そろそろ帰ろっか?」


 子どもたちはみんな元気よく、「うん」と答えた。

 そうして私は、子どもたちを連れて、村への帰路についたのだった。


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