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ゴブリンとの激闘

 ゴブリンたちは、この先にいる。

 私はよーいドンで駆けだしてから、大きく右にカーブするトンネルを、道なりにぐんと曲がった。


 今の私が全力疾走すると、自転車を全力で漕いでいるときぐらいのスピードが出るから、それだけでもちょっとした絶叫系アトラクションぐらいの迫力がある。

 たいまつの炎が消えないかちょっと心配になったけど、大丈夫そうだ。


 曲がってゆくと、その先はトンネルの横の壁が広がって、部屋状の空間になっていた。

 しかもその部屋は、さっきの三体のゴブリンがいた部屋よりも、さらに大きい。


 パパッと状況を認識しようと試みる。

 ゴブリンの数は、七。

 部屋中のあちこちに散っている。

 寝藁の上に寝転がったり、座ったり、隣のゴブリンと喋っていたり、喧嘩していたりする。


 部屋の右の奥のほうに、二人の人間の子どもがいた。

 男の子と、女の子。

 壁際で、抱き合って震えている。

 そのすぐ前に一体、刃物をひけらかして脅して遊んでいるゴブリンがいた。


 ──近くのから倒していこうと思っていたけど、作戦変更だ。

 私はその子どもたちの前にいるゴブリンに向かって、全力で駆け込んだ。


「キキッ!」

「ギャーッ、ギャーッ!」


 私に気付いて、何体かのゴブリンが声を上げる。

 でもそいつらはひとまず無視。


 狙いのゴブリンは、私に背中を見せている。

 ひとっ走りでそこまで躍り込み──


「──このっ!」


 右手の槍を突き出す。

 子どもを脅していたゴブリンは、仲間たちの声に反応して、後ろへ振り返ろうとしたけど、それじゃ遅い。


 私の槍は、そのゴブリンを背中から突き刺した。

 左胸にあたる部分を一突き。槍の穂先がゴブリンの胸を易々と貫いて、向こうに抜けた。


 ぶしゅっと、槍が突き刺さった部分から、緑色の体液が噴き出る。

 その体液は、ゴブリンの向こう側にいる子どもたちにも、かかってしまったみたいだった。


 ごめん。

 でもそこまで気にしてる余裕ないんだ。


「──てぇぇええやあああああっ!」


 私はぐりっと反転しながら、断末魔の叫びをあげるゴブリンの体ごと、ジャイアントスイングよろしく槍をぶん回す。

 私の背後から近づこうとしていたゴブリンたちが、それでひるんだ。


 槍に刺さったゴブリンの体は、途中ですっぽ抜けて、ライナー状に飛んでゆく。

 それが別の一体のゴブリンに、運よく直撃した。

 二体のゴブリンは、もつれ合って倒れる。


「助けに来たよ! お姉ちゃんのそばから離れないで!」


 私は二人の子どもを背にし、部屋のゴブリンたちと向き合いながら、子どもたちにそう伝える。

 ちらと後ろを見ると、二人の子どもは、なおも怯えていた。


 ……まあ、そりゃそうか。

 村で会った男の子と同い年か、それより下ぐらいの年頃の子どもたちだ。


 それにこのシチュエーションだったら、私が子どもの立場でも怖がるし。

 怖い怖い、絶対怖い。


「ベートが、キミたちを助けに行くって、大人たちと一緒にゴブリンと戦うって、村長に言ってた。私はその代わりに来たから。信用して」


 私が村の男の子の名前を出すと、二人の子どもは少し安心したようだった。


 子どものうちの一人が、ちょっと躊躇ってから、私の腰回りに抱き着いてきた。

 そしてすぐに、もう一人も同じようにしがみついてくる。


 うん、これでよし。


 ……よしなんだけど。


「……さてどうしようね、この状況」


 私は苦笑しつつ、そうつぶやいていた。

 その私たちの周りでは、五体のゴブリンが遠巻きに私たちを取り囲み、武器を片手にじりじりと包囲網を狭めてきている。


 ちなみに、さっき投げ飛ばしたゴブリンが直撃して倒れたゴブリンは、衝突時にどこか骨でも折ったのか、倒れたまま苦しげにもがいていた。

 一方で、槍で貫いたゴブリンそのものはすでに絶命して、宝石化したみたいだった。


 それで数は減っているとは言え……でも、まずいよね、どう考えても。


 幸いなことに、背後は壁だから、後ろを取られることはない。

 でもそれ以外の全方位から取り囲まれている。


 そして何より何がまずいって、子どもたちにへばりつかれていること。

 動きが制限されるし、何よりこの子たちに危害が及ぶのを防げる自信がまったくない。


 私一人だったら、囲まれていてもまだ何とかできるんじゃないかって希望的観測も持てる。

 でもこれに、子どもを守るっていう追加ハンデまでついてくると、さすがにちょっと無理感ある。

 何とか子どもたちを気にしないで戦える状態にしないと無理だ。


 もっと言えば、ゴブリンと一対一か、せめて一対二ぐらいで対峙すればいい状況を作りたい。

 いっぺんに五体を相手にする想定だと、私一人だとしても、ちょっと処理しきれる気がしない。


 何とか、元いた通路、この部屋に入る前の場所までたどり着ければ……。

 でも、この子たちにへばりつかれた状態じゃ、確実に途中で捕まる。


 かと言って、両手は槍とたいまつで埋まってるし……。


 ──なら、そうか、そうすればいいか。


「ねぇ、キミたちのどっちかさ、腰じゃなくて、お姉ちゃんにおんぶで捕まってくれる?」


 私は少し身をかがめて、子どもたちに言う。

 すると子どものうちの一人、女の子のほうが、「うん」と言って、私の腰から離れて背中に飛び乗った。


 そして私の首周りに腕を回して、がっちりとしがみついてくる。

 よし、いいよ、それ正解。


 その間にも、ゴブリンたちの包囲網は近付いてくる。

 私を警戒しているようだけど、だいぶ近くまで寄ってきていて、もうすぐに一斉に襲いかかってきそうな感じだ。


「じゃあ、行くよ。──しっかり捕まってて」


 背中に乗った女の子は、こくんとうなずく。

 腰にしがみついている男の子のほうは、おろおろしている感じ。

 うん、キミはそれでいいよ。


 私は包囲網を敷くゴブリンたちから襲い掛かられる前に、こっちから仕掛けた。


「──てぇぇいっ!」


 右手の槍を肩の上に担ぐように構えて、それを振り下ろすようにして投げつけた。

 ぶんっ。

 槍が飛んでいって、瞬く間に、ゴブリンのうちの一体の胸を貫いた。


 私はそれを確認するよりも早く、空いた右腕で男の子を抱えて、地面を蹴った。

 そして全速力で、槍が突き立って倒れたゴブリンの上を抜けるべく走る。


 慌てた周囲のゴブリンたちが、刃物を繰り出して攻撃してくる。

 その一つが、私の左脚の太ももを浅く切り裂いた。


「──痛ぅっ……!」


 血が噴き出て、流れ出す。


 でも私はそれを無視して、一気にゴブリンたちの包囲網を駆け抜けた。

 そして私が元いたトンネル状の通路まで、一目散に駆けた。


 目標地点までにそれ以上の障害はなく、通路までは問題なくたどり着くことができた。

 よし、ここまで来れれば……!


 私は少しだけ奥まで行くと、右腕で小脇に抱えた男の子を降ろし、背中にがっちりしがみついた女の子にも降りるように伝える。

 そして彼らには、その通路の少し先まで行って、待っているように言った。


「えっ、お姉ちゃんは……?」


 女の子のほうが、心配そうな目で私を見てくる。


「私は、あいつらを倒すよ」


「でも、いま脚、怪我して……」


「大丈夫、大丈夫。こんなのどうってことないから」


 そう言って女の子の頭をなでてやる。

 そして男の子のほうに、女の子を連れて向こうで待っているようにもう一度伝える。

 男の子はうなずいて、女の子を連れて行った。


 ……いや、脚の切られたところは、本当はちょっと痛いけどね。

 でも戦うのに支障が出るほどの怪我じゃない。


 振り向くと、ゴブリンたちが再び警戒しつつ、こっちに向かってきているところだった。

 動けるゴブリンの数は、四体まで減っている。


 ちなみに私が投げた槍は、今は地面に転がっていて、それが刺さった当のゴブリンはすでに消え去っていた。


「さて、素手であと四体か……」


 やれるかな。

 まあ、多分なんとかなるでしょ。


 ──あ、待てよ。


 私は腰に付けた小袋から、右手だけでどうにか一つの道具を探り当て、取り出す。

 それは陶器でできた瓶で、コルクのようなものでしっかり栓がされている。


 私は自分の口を使ってその栓を開けて、その瓶の中身を、自分の前の地面にたぱたぱとぶちまけた。


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