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セーラー服の勇者 ~ぼっち系女子高生の私でも、異世界転移したら主役になれますか?~  作者: いかぽん
第三章  大賢者 この人ちょっと どうかと思います!
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大賢者

「ぜーはー、ぜーはー……や、やっと着いた……」


 王都を旅立ってから、およそ三日と半日。

 私はようやく、目的地である山小屋の前にたどり着いた。


 最後の半日は、鬱蒼と生い茂った木々と草木をかき分けながら、あるかないかぐらいの細い獣道を上っての山登り。

 木の枝などで引っかけて体のあちこちに引っかき傷を作りつつ、いつものセーラー服もあちこち破けたり裂けたりしながら、ようやくの想いでの到着だった。


 体力面で勇者補正がなければ、とっくに心が折れていたと思う。

 そしてアレだ、その辺の魔物の餌にでもなっていたに違いない。


 それにしても、この三日と半日の旅の間には、色々なものに襲われた。

 ゴブリンとか、オークとか、狼の群れとか、妙に凶暴な熊とか、果ては山賊なんてものにも……。


 にしても、こっちは人類救うために頑張ってるっていうのに、同じ人間が襲ってくるとか、ホント勘弁してほしいよねって思う。

 女の一人旅とか、襲ってくださいって言ってるようなものだって向こうは言ってたけど、知るかそんなもんっていう感じ。


 どうにか成敗したあと、そいつら殺してやろうかってホントに思ったけど、思いとどまって奴らの持っていたロープでふん縛って隣街までしょっ引いて行った私とか、聖人か何かじゃないかって自分で思ったもん。


 ……とまあ、精神的には日々どんどんスレていっている気がする私なのですが。


 でもそうして死線を何度もくぐったおかげで、私の勇者としての力は、また一段増したみたいだった。

 今では炎の魔法だけじゃなく、氷の魔法も使えるようになったし、身体能力もだいぶ上がった気がする。

 そろそろ王都にあった城壁とか、垂直ジャンプで届くんじゃない? まだ無理かな? とか、そのぐらいのイメージ。


 まあともあれ、そんなこんながあってようやく目的地にたどり着いた私だった。


 時刻は夕方で、どんどん暗くなってきている頃合い。

 場所は山奥の、一軒の小さな山小屋の前。


 ここが目的地っていうのはもちろん、例の人物に会いに来たということ。

 例の大賢者、大賢者──


「大賢者……何だっけ?」


「もう。大賢者ジェラルドだよ」


「そう、それ」


 私の隣にふよふよと浮いているリリムに教えてもらって思い出す。

 その大賢者ジェラルドっていうのが、この山に住んでいるって聞いて、はるばるここまでやってきたのだ。


 ──二十年ぐらい前に活躍したっていう先代勇者には、旅の仲間が二人いたらしい。


 一人は、並ぶ者なき稀代の剣の使い手と言われた、“剣聖”ディストール。


 そしてもう一人が、魔術学院(ウィザーズアカデミー)において天才の名をほしいままにしたと言われる、“大賢者”ジェラルドだ。


 彼ら二人は、先代勇者とともに冒険の旅をし、勇者による魔王封印の手助けをしたと言われている。

 でも、それ以上のことはろくすっぽ伝わっていないという、謎多き人物たちでもある。


 そのうちの一人の居場所に、ようやくたどり着いた。

 一軒の小さな山小屋を前にして、私は一つ、大きく深呼吸。


 見た感じ、生活感はあった。

 小屋の前にはたき火のあとがあるし、むしろ小屋の横手には小さな畑まである。


 ただ、小さい小屋だというのに、その簡素な木造の建物の中からは、物音が一切聞こえてこない。

 人の気配がしない。


 ひょっとして、何かあったのか。

 私は小屋の扉の前まで歩み寄り、ノックをしようとして──


「──おや、お客さんか。珍しいな」


 声は、私の後ろから聞こえてきた。

 私はびっくぅっと跳ね上がって、それから後ろを振り向いた。


 木々の陰から、一人の男の人が歩み出てくる。

 なんだ、出掛けていただけか……。


 木々の合い間から現れたのは、粗野な格好をした、冴えない風貌のおじさんだった。

 無精ひげを生やし、髪はぼさぼさ。

 衣服は農夫みたいな素朴な感じ。


 年は多分、四十歳ぐらいだろうか。

 騎士さんと同じぐらいの年に見えるけど、顔に騎士さんみたいな精悍さはないし、体にも逞しさはない。

 その顔に見える表情は、よく言えばおっとりしている、悪く言えば覇気がない感じ。

 褐色の髪と瞳は、この世界でよく見た色合いのもので、珍しさの欠片もない。


 そのおじさんが、薪を抱えて歩み寄ってきたのだけど──


「……あ、アイリ……?」


 私の顔を見るなり、抱えていた薪をバラバラと取り落とした。

 呆然とした顔で、私のほうを見ている。


 そして、びっくりしたのは、私のほうもだった。


 ──えっ、この人、今なんて言った?


 だって、それって、おかしい。

 偶然にしては、できすぎている。


 ──いやいやっ、でもっ、単なる偶然の可能性はある。

 別にそんなにめちゃくちゃ珍しい名前でもないだろうし。


「あっ、あのっ……ここに、大賢者ジェラルドっていう人がいるって、聞いてきたんですけど」


 私はそれを先送りにして、ひとまずの確認をする。


「あ、ああ、それは俺だけど……お嬢ちゃんは?」


 向こうも我を取り戻したかのように、取り落とした薪を拾いながら聞いてくる。


「えっと、私、結城詩亜って言います。勇者、みたいです。それでジェラルドさんに聞きたいこととか、力を貸してほしいとかあって、ここまで来ました」


「ああー、そうか。……なるほどな。魔王が復活すれば、勇者も召喚されるって、そういうことなのかね。……いや、そうだな。よく見ると、似てるけど違うか。いや悪い悪い、知り合いに似てたもんだから、ちょっと呆けちまったわ。──ここで立ち話も何だから、中に入っていいよ」


 おじさんはそう言うと、何やら小さく呪文みたいなものを唱えた。


 すると、私の後ろでカチャッという音がした。

 後ろ──山小屋の扉のあるほうを振り向くと、その扉がすーっと奥に向かって開いていった。


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