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私は現代っ子

「ふあっ……ん~っ!」


 ベッドの上でむくりと身を起こし、寝ぼけ眼であくびをしてから、うんと伸びをする。

 そしてベッドから降りると、暗い部屋の中をよたよたと歩き、木窓を開く。


 明るい朝日の光が入ってくる。

 帯状の光はそこだけでなく、部屋全体も薄っすらと明るくした。


「んっ、いい朝だ──あ痛たたた……」


 爽やかな気分に浸ろうとしたところで、頭痛がきた。


 お酒の飲みすぎだろう。

 昨日の記憶があやふやだ。

 騎士さんと話していて、楽しくなって調子に乗ってお酒を飲んでしまったところまでは覚えているのだけど……。


「あー……」


 私はゾンビのようによたよたと部屋を出て、廊下を通って、階段を下る。


 この宿は二階に宿泊用の部屋があって、一階が酒場兼食堂になっている。

 階段を降りて食堂に出ると、私はカウンター席に私服の騎士さんを見つけたので、その横の席にふらふらと向かい、席についてぐでっとカウンターに上半身を倒した。


「おはようごじゃいましゅ、騎士さん……あ痛たた……」


 ちなみに私の服装はというと、セーラー服のままだ。

 この格好のまま寝たのかと聞かれると、この格好のまま寝た。

 だってパジャマがないんだもん。


 やっぱり着替えの問題は、深刻だ。

 女子としては致命的なぐらいに身なりに気を使わない私だけど、それでも限度っていうものがある。


 そしてそんなぐだぐだな私を横目に見て、騎士さんが挨拶をしてくる。


「おはようございます、勇者殿。二日酔いですかな?」


「あい……。多分……」


「いけませんな、酒に吞まれては。あと老婆心ながら申し上げますと、勇者殿はもう少し、警戒心というものを持たれたほうがよろしいかと思います」


 騎士さんはそう言いながら、食堂の店員さんに水と私の分の食事を持ってくるように伝えてくれる。

 ありがたいなぁ。

 っていうか私、明らかに騎士さんに甘えすぎだよね。


「警戒心……っていうと、旅をしてるときの話です?」


「いえ、どちらかというと、私のような他人に対してですな。人を無条件に信用するのは勇者殿の美徳やもしれませんが、世の中は善人ばかりではありませんぞ。特に男には気を付けたほうがよろしいかと」


「別に、無条件に信用しているわけじゃないです。ちゃんと人となりは見てますし」


 店員さんが水を持ってきてくれたので、それを飲む。

 冷たい水がのどを潤してくれると、少し落ち着いた。


「だとするならば、判断が甘いですな。私のような者も、一皮剥いて本性を見せれば、なかなかどうして紳士ではありませんぞ」


「……? そーなんですか?」


 騎士さんの顔を見て、その穏やかな表情が、突然悪人顔に変貌するさまを想像してみる。

 ……まあ、想像できなくはないか。


 そう思っていると、店員さんが目玉焼きとパン、レタスとウィンナーっていう朝食を持ってきてくれたので、軽く頭を下げてそれを受け取る。

 もくもくと食べ始める。おいしい。


「いずれにせよ、深酒は控えたほうがよろしいですな」


「……はい。気を付けます……」


 昨日はやっぱり、騎士さんに何か多大な迷惑かけちゃったんだろうか。

 怖くて聞けない……。


 ひとまずあれだ、話題を変えよう。


「あの、騎士さん。私、替えの服とか寝間着がほしいんですけど、今日、服屋さんに寄ってもいいですか?」


「ああ、それは構いませんが。勇者殿は、お金は持っておられますかな?」


「……持ってない、ですけど。──あっ、でも確か、ゴブリンとかを倒したときに手に入る魔石って、街で売れるんですよね?」


 確かリリムがそんなことを言っていた記憶がある。

 私はポケットから小さな布袋を取り出して、そこからじゃらっと、魔石を取り出して見せる。


 ちなみにこの財布代わりの小袋も、荷物用の袋と同様、村でもらってきたものだ。

 こんなことなら寝間着や着替えももらってくれば良かったという気もするけど、ただこういう物とか衣服の類って、結構な貴重品のようで、ゴブリン退治をしたお礼の一環として、満を持してもらったようなところがある。

 そういう意味では、あまりたかり過ぎるのもどうかと思ったわけで。


 一方、騎士さんは私が取り出した小さな宝石類を見て、ふむと顎に手を当てる。


「なるほど、これだけの魔石を売れば、確かにそれなりの金額にはなりますな。魔石は冒険者ギルドに持っていけば適正価格で買い取ってもらえるはず。あとで参りましょう」


 そんなわけで、あとで騎士さんに連れて行ってもらうことになった。

 そして、それはさておいて、ひとまずは朝食をもきゅもきゅと頬張る私だった。



 ***



 ちゃりーん、などという擬音が鳴るわけもないのだけれど。

 冒険者ギルドと呼ばれる建物を出た私が手にしていたのは、十一枚の金貨と、五枚の銀貨という、合計十六枚の硬貨だった。

 これが、私が持っていた魔石を全部換金した、その合計額になる。


 冒険者ギルドというのは、私はまだ何だかよく分かってないんだけど、ひとまず魔石を手に入れたときの換金所だと思っておけばいいみたい。

 本当は冒険者たちの互助組合だとか何とか騎士さんから説明されたけど、よく分からなかった。


 さておき私は、その冒険者ギルドの前の賑やかな通りで、ギルドの入り口から少しわきによけ、受け取った金貨と銀貨を財布用の小袋の中に入れる。

 それからあらためて、金貨一枚と銀貨一枚を取り出して、それらをまじまじと見た。


 くすんだ黄金色の金貨は、一円玉ぐらいの大きさ。

 一方、黒ずんだ銀灰色の銀貨は、金貨より少し大きくて、十円玉ぐらいの大きさだった。


 面白いのは、金貨なら金貨、銀貨なら銀貨で、機械で作ったみたいに完全に同じ形をしているわけじゃないということ。

 少しいびつな円形の硬貨は、いかにも手作りという風で、それぞれに微妙に形が違っていた。

 小さくて丸い金属板を、模様のついた金槌みたいなもので叩いて潰したら、こういう硬貨ができるんじゃないかっていう感じだ。


 ちなみに金貨一枚が、銀貨十枚分の価値だそうで。

 騎士さんに物価を聞いたところ、金貨一枚が、日本円に換算して一万円ぐらいの価値がある感じだった。


 私の感覚だと、硬貨は小銭なんだけど、この小さな金貨一枚が一万円分もの価値があると思うと、うへーってなる。

 小さな貴重品っていう感じで、持っていてちょっとドキドキする。


 で、私はそれを持って、騎士さんに案内されて、服屋さんに向かった。


 服屋さんに入って店員さんに服を見せてもらうと、うわー、結構高いなーっていう印象だった。


 薄手でチクチクして着心地の悪そうな服なら、銀貨数枚ぐらいで買える。

 でもそれなりに肌触りが良くてまともに着心地のいい服だと、ひと揃えで最低でも金貨三枚はする感じ。


 そういえば、村でもらった村娘ちっくな衣服は、村にある服の中でも上等のものだって言ってたっけ……。

 私は衣食住の「衣」にはこだわらないほうだと思っていたけど、あらためて現代っ子なんだなーと思い知る。


 現代っ子っていうか、文明人?

 日本すごい。現代すごい。


 とは言え、背に腹は代えられないと思うので、私は金貨三枚という大金をはたいて、それなりに満足できる服を購入。

 それを荷物袋に入れて、王都への旅路を再開することにした。


 なお、昨日手桶でじゃぶじゃぶと洗濯して今朝まで干しておいた村娘服は、においが完全には取り切れていないうえに、まだ乾ききっていなくて少し湿ったままの状態で荷物袋に入れてあった。


 その点では、全自動洗濯機と洗剤がほしいとか、乾燥機がほしいとか思ったので、文明の利器っていうものの偉大さを思い知らされた私なのだった。


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