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警察病院に駆け込んだ私は受付へと急いだ。
取るものもとりあえずとはこういう感じのことを言うのだろう。
受付には電話口に出た相田と名乗る白衣の男が待っていて名刺を渡された。
自分は花音の担当医であると彼は言った。
ここで立ち話というわけにもいかないから、あの人が入院している集中治療室に案内するという。
集中治療室への道々で相田医師が語ってくれたところによればあの人の御両親には既に連絡済でもう説明は終わっているとのことだった。
私への連絡も彼の御両親からの依頼によるものであるらしい。
「……こちらです」
呼ばれて入った部屋の中には林のように医療ポッドが置かれていて、それらにはすべて患者と思しき人達が入っている。
部屋の奥側にあの人の入っている医療ポッドはあった。
相田医師によれば人工的に植物状態にしているのだという。
私はポッドの周りを一周してみた。
ポッドの覗き窓から見えるあの人の表情は一見、まるで眠っているようだったが、瞼が微細な動きを見せている。
相田医師はポッドの横についているホルダーからカルテを取り出してゆっくりと読み上げる。
「貴女の婚約者である入來院花音刑事はとある事件の捜査で麻薬組織に潜入調査中だったのですが、
妙な偶然から過激派テロ組織の『黒い師団』に拉致されて一ヶ月に渡って暴行を受け続けてきました。
……それで、その……」
相田医師が口ごもった。
「はっきり仰って下さい。一体、何がありましたの?」
私が医師の顔をじっと見詰めるとようやく腹を決めたようだ。
「貴女の婚約者は黒い師団による連日連夜にわたる強制ホモ行為で肛門が壊されてしまっています。
もうまともに用便をたすことができる状態じゃありません」
「なんですって!?」
叫びそうになって思わず口を押さえる。ここが病院であることを一瞬だけ忘れそうになった。
「このままでは貴女の婚約者は障碍者手帳を貰って警察は退職ということになるかもしれないでしょう」
「なんとかならないんですか?!」
私の声に相田医師は首を振って応えた。
「再生医療で肛門を再生するんです。
……ですが、再生中に肛門を日常の排泄のために使うとなると完治は難しくなります。
直腸人工肛門を設置する手術をしてもいいのですが、それだと……」
「……垂れ流しですか」
「ええ。完治するまでは障碍者暮らしで何年間かは車椅子生活でしょうね」
「――おそらく刑事は辞めなければならなくなると思います」
「そんな……、どうにかならないんですの?!」
私が悲痛な声を上げると相田医師は少し考える風な仕種をしてから言った。
「一年強で完治させる方法があることはありますが……協力していただけますか?」
「私にできることなら何でもしますから、どうかお願いします」
私は頭を下げてお願いした。