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中編

収集がつかなくなりましたので、デウス・エクス・マキナりました。

 いつから『ロゼリリ』が乙女ゲームだと錯覚していた?


 私は恋愛ゲーム『ローゼン・リリィ~咲き乱れる華の物語~』とは言ったが、乙女ゲームだとは一言も言っていない。

 元婚約者に対しても「殿下」とは言ったが「王子」とは言っていない。

 あ、私はちゃんと悪役令『嬢』なのであしからず。男じゃありません。

 ちなみに元男でもないよ。


 まあ、それは置いといて。

『ロゼリリ』は『薔薇と百合(ローゼン・リリィ)』の名が示す通り、このゲームは薔薇(BL)百合(GL)も、果てはギャルゲーや乙女ゲーすらも楽しめちゃうゲームだったのだ。

 ゲームストーリー的には、『固有魔法(ユニークマジック)』である心を癒す力を持った主人公が王族や貴族の集う学園で心に傷を抱えた攻略対象達をその特殊能力と持ち前の明るさでもって癒していくというテンプレなものだ。

 攻略対象達の心の傷とやらも陳腐なものしかない。キャラデザもテンプレ、声優だって「ああ、俺様って言ったら○○だよね」と言ったようにひねりなんて一切ない。

 ないったら、ない。制作陣が力を入れたのはそこではない。


 力を入れまくったのはたくさんの愛の形だ。主人公は今目の前でスティとミントに怯えているヒロインちゃん(リリアナ・ベイビーピンク)だけでなく、ヒーロー(ローゼンハルト・ベイビーピンク)を選ぶこともできる。

 もちろん、攻略対象者達は男女共通。目の前のミルトニア(元婚約者)をヒロインが落とせるし、デルフィニウム(バカ兄貴)をヒーローが落とすこともまたその逆も可能だ。


 さっき私がスティを夫に、ミントを妻にしたように男だろうが女だろうが夫にも妻にもすることができるし重婚も可能。

 これはこの世界が肉体ではなく魂を重用する生殖活動を必要とするからで……まあ、この話は余裕があったら話そう。


 更に付け加えると私達の結婚の儀は私を上位に据えた文言だった。この世界では夫や妻とは別に、主従の概念も結婚には組み込まれる。どちらかが上位に立つのかまたは対等か、そこまで選べちゃうのだ。

 性別、夫か妻かの役割(要は受け攻めだよね)、そして主従契約を行うか否か。これによってプレイヤーは一人の攻略対象で何通りもの関係性やエンディング、愛のイベントを味わうことができる。

 その変質的とも言われるこだわりは「流石クールジャパン、正にHENTAIだ」と外国のネットユーザーにまで評され、『ロゼリリ』は世界規模でコアなファンを作ったらしい。

 たった一本のソフトにも関わらず、攻略wikiの情報量は膨大だった。「攻略wikiのwiki」ができるくらいなのだから。




「さて、行きましょうか」


 私はこの環境(ロゼリリ世界)から別れるべく、少しだけゲームに思いを馳せる。覚悟を決めたら、あとはこの場から背を向けスティとミントを連れて去るだけ。

 私の呼びかけに二人の愛しい人は素直に従ってくれる。


 濃青位からの平民落ち、更に突然現れた王家子飼いであるはずの緑鬼と衆人環視の中で結婚。

 私のめまぐるしい変化に周りは置いてきぼりだけれど、そんなのはまるっとスルーして、私はこの場から去る。


 陰険眼鏡(おにいさま)から色位も剥奪されたからね。

 平民はこの場にいても野暮ってもんよ。


「ま、待て、アイリス!」


 元婚約者であるミルトニア様が私を呼ぶ。私は顔だけ彼女へ振り向き、口を開いた。


「ああ、リリアナ嬢のいじめ問題が終わっていませんでしたか。

 それならご安心を。リリアナ嬢が階段から突き落とされたと主張なさる日時はスティやミントと共に陛下と『お話』をしていたので」


 さらりと爆弾を落とすとその場にいた全員がぎょっと目を見開いた。

 この国の最高権力者がアリバイ証明という切り札に驚いているんだろう。


「なんなら、リリアナ嬢が私にいびられたという夜会の出席状況も目録にしてお見せいたしましょうか?

 私、陛下からの『頼まれ事』をこなすのに忙しくてほとんど出席していませんよ?」


 色奪という目的も果たしたので、もうもったいぶる必要はない。私はどんどんカードを切っていく。

 元婚約者殿は知らないらしいが、ここ一年は夜会なんざまともに出席しちゃいない。

 この日の婚約破棄(イベント)の為に必死で動いていたからね。


「父上の、頼まれ事?

 ……って、違う。リリィのことではなくてだな。

 私を慕っていると言っていたあの言葉は嘘だったのか?」


 ……それを、今更聞いてどうすると言うのだろう、このアホは。


 婚約中に、あなたの隣で胸を張って立てるよう必死に努力をしていた『アイリス』を「媚びを売っているようで鼻につく」とか言って遠ざけたくせに。

 それでも歩み寄ろうとした『アイリス』に冷たく接していたくせに。


 こちらから離れた途端、惜しくなったとでも言うの?


 ……ふざけないでちょうだい。


『私』はあんたなんか反吐が出るほど嫌いだわ。

 だから私は言ってやらない。『アイリス』があなたを愛していたってことなんか。

 絶対に言ってなんかやらないわ。




 私は元婚約者殿の言葉を空耳と決めて背を向ける。

 流石にスティとミントに睨まれてはこれ以上話すこともできないようで、彼女はもう私に声をかけてこなかった。


「アイリス……お前これからどうするんだ」


 だがしかし、いい加減去らせてくれと思う私に食い下がる新たなバカが一人。


 ……うん、何だかバカ兄の声も聞こえる気がするけどこれも空耳だろう。

 平民のアイリスに兄はいないからね。


 というかこいつも自分が色位を剥奪したくせに何を言っているんだろう?


『私』は(あいつ)も大嫌いだ。何でもそつなくこなしていたあいつは『アイリス』が王族教育でつまずいているのを見て「出来が悪い」とバカにしていたし、『アイリス』から『私』になったあとおおっぴらに使い始めた「固有魔法」で王族から目をかけられ始めた私を「自分より目立っている」という下らない理由で目の敵にしていたからね。

 こっちは『アイリス』の時も『私』の時も仲良くしようと努力はしたんだけどねぇ。

 努力は報われず、ゲーム通りにアイリス断罪イベントの為にお父様の執務室から『色奪の玉』を持ち出したこいつにはもうかける情などひとかけらもないわ。


「ご心配なく。あてはありますから」


 一度だけデルフィニウム様(元お兄様)へ振り向いてにこりと笑う。

 透明に戻った『色奪の玉』を持ったまま、ぽかんと突っ立つ眼鏡は最高に間抜けだった。


「あて、だと」

「ええ」


 私の言葉をぽつりと繰り返すデルフィニウムにちゃんと返事をしてしまう優しい私。

 もういい加減会話を止めないと、スティとミントの嫉妬という名の殺意がやばいわ。

 好きな娘のやきもちって可愛いけど、流石に二人の嫉妬の炎はこの場を壊滅させる威力だから発動させないようにしないとね。




 式場の出入り口へ足を踏み出す。私の前を歩くスティとミントを恐れみんなが道を開けてくれる。

 だけどそれも数歩だけだった。スティとミントの足が止まり数センチ、体を寄せ合う。

 自分達の前から来る者達に私の姿を見せないように。

 ……だからいい加減辞去させてくれ、マジで。


「アイリス」


 新たな面倒(乱入者)は鬼と言われる彼女達の殺気なんてそよ風と言わんばかりにこの場にそぐわない爽やかな声と笑顔で私へ声をかけた。

 分かっちゃいたけど凄い胆力だな、この人。周囲の観客はスティとミントの殺気に「ひっ」と小さく悲鳴を上げてるって言うのに。


「これはこれはネメシア第一王女殿下。いけませんわ、こんな平民に気安く声をかけては」


 私はスティとミントの後ろからミルトニアと同じ濃紫の長髪を高く結い上げた第一王位継承者へと礼を返し、わざとらしく茶色の縦ロールを摘んで話してみせる。

 暗に話しかけるなと言ったんだが……ネメシア殿下はそれを理解しているだろうに、いつもはきりりとした濃紫のつり目を熱くとろけさせて私へ笑いかけてくる。


 ……ちっ、登場は予想していたけど、やっぱりめんどくさい。

 彼女が来る前に帰りたかったんだが。百パーセント、スティとミントの嫉妬がマッハで、私が明日黄色い太陽を拝む羽目になってしまう。

 お仕置きほにゃららされる主人ってどういうことなんだって言うね。


「アイリス、そんな他人行儀な話し方は止めておくれ。昔のようにネムと呼んではくれないのかい?」

「殿下、そう呼んでいたアイリスはもういないのです。アイリス・ネイビーブルーは消えました。今この場にいるのは色を失したただのアイリスですわ」


 ネメシア殿下がそっと私の手を取ろうとするが、さりげなくそれを避ける。

 だからスティとミントに余計な殺意を振りまかせないでくれ。一番近い観客が泡を吹きそうじゃないか。


 私の無言の抵抗もネメシア殿下には子猫が爪を立てた程度にしか感じないらしい。「頑固な()だ」と砂糖の固まりのような声で呟いたネメシア殿下は、美しい金銀の刺繍が施された紫紺のドレスの裾が汚れるのも気にせずに私の前でひざまずいた。

 流石の私もこれにはびびる。


「姉上! いくら元濃青位(色付き)とはいえ、平民(色なし)の前でひざまずくなど何を考えておられる!」


 周囲のざわめきをかき消すようにミルトニアが叫ぶ。

 どうでもいいけど、ヒロインちゃんマジ空気だなぁ。


「黙れ、愚妹が」


 ネメシア殿下はたった一言と冷えきった睨みでミルトニア(いもうと)を黙らせた。

 王子様ルックな男装をして強く見せてるってのに、弱いな第二殿下。腰引けてるぞ。


「曇りきった瞳で私のアイリスを貶しめおって。それ相応の咎は覚悟しているのだろうな」


 おい、何さりげなく「私の」って言ってるんだよ。

 私はネメシア様のじゃなくてスティとミントのものだよ。

 あああ、(スティ)(ミント)の嫉妬で私の夜がやばい。

 体力ないから一晩中は勘弁願いたい。マジ死ねる。


「アイリス。ああ、愛しいアイリス。お前が(ミル)と婚約する前から私はお前に惹かれていたのだ。お前が私ではなくミルの婚約者に選ばれた時はどれほど胸が張り裂けそうだったか。

 それでも国やお前の為と身を引いた私の愚かさが、お前をこんな辱めに遭わせるとは……いくら悔いても足りはしないだろう。

 だが、もうお前はミルから解き放たれた。

 ……どうか、束縛から解放された今、私にお前の愛と慈しみをくれないだろうか」


 熱に浮かされた顔でネメシア様は私を見上げ、愛を囁く。

 会場のどよめきは最高潮に達した瞬間、スティとミントの全開の殺気で一気に沈静化される。

 だがそれも致し方ないだろう。私だって声を上げそうになったのをぐっと我慢したのだ。


「殿下、本気で仰っておられるのですか」

「私はいつでも本気だよ、愛しいアイリス」


 念の為確認するが聞き間違いではないらしい。

 本気でこの第一王位継承者殿は、私を主とし自分が夫となるプロポーズをしたらしい。


 ああ、この人はこの国を引っ張る予定の人間として一番やっちゃならんことをしやがった。

 ぶっちゃけこれ、私に第一継承権を渡すのと同義だかんね。

 私がまだ濃青位(ネイビーブルー)だったとしてもアウトだかんね。

 観客もどよめくってもんよ。


 ちなみに私もどよめきたかった。声を上げなかった私を誰か褒めて欲しい。


 この人が『アイリス』を好きなのは知っていたが、こんなこと言うとは思わなかったんだもん。


 この人、優秀なはずなんだけどなー?

 この人が優秀過ぎて、比べられて育ったミルトニアはコンプレックスの固まりになって男装したり周囲に攻撃的になって、そんでもってその心の傷を主人公に見透かされて「あなたはあなたの長所があるのよ」とかいう陳腐な言葉でほだされ癒されて、アイリスは捨てられるんじゃなかったかなー?

 んでもって、大好きな婚約者とついでに兄まで主人公に取られて嫉妬に駆られたアイリスが主人公を固有魔法や権力を使っていびった上での断罪イベントのちの色位剥奪、破滅エンドが正規ルートじゃなかったのかなー?

 攻略対象ですらない第一王女なんて断罪イベントには出てくる予定すらなかったよなー?




 ここで少しだけ『アイリス』の設定について触れよう。

『アイリス』はネメシアとミルトニア二人の婚約者候補だった。

 紫は青と赤を足してできあがる。次代の王が美しい濃紫(王)となるよう、まるで絵の具のように代ごとに入れ替わり濃青位と濃赤位が王位継承者の婚約者となるような伝統ができていた。

 そして今回は濃青位(あお)の番だったというわけだ。


『アイリス』だけでなく、インディゴブルー家も婚約者候補に同じ年頃の人物(こちらも娘だった)を一人選出していた。

 それこそ物心ついたかつかないかくらいから四人でことあるごとに顔を合わせ、紺青か藍青のどちらが姉か妹どちらの妃にふさわしいかを見定められた。

 重婚が可能な世界とはいえ、王位継承者二人が一人の人間をシェアすることはできない。以前それを行い、王家を掌握してしまった女狐がいたからだそうだ。


 その婚約者選定の儀で選定者と『アイリス』が選んだのはミルトニアだった。『アイリス』への隠れた思慕を持つネメシアはその恋情を押し殺し、インディゴブルー家の令嬢と婚約する。

 ミルトニアは姉の思いを知っていて、この結果に優越感と不安を抱くようになる。あの完璧(あね)が思いを寄せているというのに何故『アイリス』は自分を選んだのか、もしや御し易いと思い傀儡となるよう選んだのではないか、と。


『アイリス』もまたこの選定によって狂っていくのだ。自分の思い通り(愛する)の婚約者を得てしまった彼女は自分に叶えられないものはないと錯覚し、けれども自分の思い通りにならない(愛してくれない)ミルトニアに、可愛らしかった思慕を醜い執着へねじ曲げていく。

 そして簡単にミルトニアの心を得てしまった主人公へ嫉妬をぶつけるのだ。ミルトニアルートでサブキャラとして出てくるネメシアが何度諫めても主人公への憎悪は膨れ上がるばかりで、最後には殺意に変わる。

 そして『アイリス』自身も変わり果ててしまい、ミルトニアだけでなく恋情は潰えても親愛は消えていなかったネメシアからのそれもなくなり、家族からも見限られ破滅するのだ。

 それがミルトニアルートで『アイリス』が終了するまでの筋書きだった。


 ちなみにファンから不人気ぶっちぎりだった『アイリス』だが公式設定集やコミカライズ、公式小説などで彼女が悪役令嬢となるまでの裏話が発表されると同情票や悲恋萌えのファンが増え、『ネメシアによるアイリス救済ストーリー』なるものがネット界隈や薄い本で盛り上がったらしい。

 そういう話のインディゴブルーのご令嬢はうだうだ悩むネメシアの背中を押す姉御か『アイリス』とは違うタイプの腹黒策士な悪役令嬢かどちらかのタイプに設定されてたらしいが……現実(この世界)では、物静かな本の虫だ。


「わたくし、結婚するなら『トゥルー・カラー・ハピネス』に出てくるフォークローバー・レインボー様が良いですわ」とか言っちゃうくらいに物静かだが芯からオタクだ。

 インディゴブルー家のご令嬢であるプリムラ・インディゴブルー様は悪役萌えとかも併発しているらしく、スティやミントを見ても目をキラキラさせるだけなので今でも仲良くさせて貰っている。


 さて、そんな設定の話は置いといて。

 今は目の前のネメシア殿下だ。


 正直に言ってふざけんなと言いたい。


 優秀な隠密能力もある緑の一族に探って貰ったから私はこの婚約破棄イベントも、ネメシア殿下によるアイリス救済イベントが起こることも知っていた。

 ミルトニアによる婚約破棄イベントはゲーム通りだが、ネメシア乱入はシナリオにない出来事だ。

 予想外とは言わない。ネメシア殿下は設定とは違いプリムラ様と婚約を行わなかったからだ。

 あろうことか「自分の妃は自分で決める」とのたまい、この婚約者選定の儀を聡明であるはずのネメシア殿下はぶち壊しておしまいになったのだ。

 その時、私はまだ『アイリス』であったから、驚愕だけで思考停止していたが、今の私なら分かる。

 このイベントを見越して『アイリス』をかっさらうつもりだったのだろうと。


 全くもって愚かしい。


 今の今まで大した助力もなしに、おいしいとこだけ持っていっただけで女が落ちると思っているのだろうか。

 いや、チョロインは多いらしいが……少なくとも『私』は「今更なんじゃボケ」と言ってやりたい。

 緑の一族と交友をはかり王と直談判して自由と配偶者を手に入れたのは『私』の努力と苦労があるからだ。

 それをどや顔で王位を引っ提げ「やっと言える、結婚してくれ」だと?

 アピール(助け)はもっと早くできただろうが! っと、思ってしまう。

 嫌いではないが、ネメシア王女は『アイリス』にとっては姉のようなものだし、『私』にとってはただのへたれで恋愛対象ではない。

 自分が汚れるのを避けてお綺麗なことしかしない奴は家族になどしたくないのだ。




 私は吐きたくなる愚痴をひっそりとしたため息へ変えてネメシア様へ両の手首を見せた。


「お戯れはおよしになってください。それに私は先ほど夫と妻を得たのです」


 手首に描かれたダークグリーンとライトグリーンの痣を見せる。

 だから諦めてくれ、早く。


 しかしネメシア様は私の結婚紋を見て微笑んだ。


「私は第二夫(だいにふ)でも構わない」


 いや、構えよ。

 つーか私が構うよ。

 王族なんて側室にしねぇし。

 っていうか、スティとミント以外と結婚する気ねぇえええし!

 何っで、この人分かってくんないのかなぁああ?


 わかっちゃいたけど、どうしてこうなった。


 私は「どうしてこうなった」の最大原因である、ネメシア様の金魚の糞よろしく後ろに控えていた優男へわざとらしくため息を吐いてみせる。


「ローゼンハルト・ベイビーピンク様。『悪役令嬢婚約破棄アンド断罪イベントのちのヒロインと婚約者逆断罪、悪役令嬢は王族に返り咲きヒロインちゃんマジざまぁwww悪役してない努力家令嬢逆転大勝利!』なんて筋書きはもう目新しくもないですので、百合というエッセンスを加えたとしても陳腐になり果てておりますよ?」


 私がワンブレスで言い切ると、本来リリアナ嬢(ヒロインちゃん)とは一緒に存在しないはずのヒーロー様、『ロゼリリ』の男主人公であるローゼンハルト・ベイビーピンクは目尻に涙を浮かべるほど大笑いした。

 今の私の台詞を理解して笑ったことからも分かるようにこいつも転生者だ。頭お花畑な恋愛脳ヒロインちゃんと違って、こいつはインテリヤクザのように利益や損得で動くから苦手だ。腹のさぐり合いとかめんどくさいよ。


「あははは! 手厳しいなぁ、アイリスは。テンプレはお嫌いかい?」

「一読者としてならば様式美ととらえましょうが、自分が巻き込まれるとなれば話は別です」

「なるほど、一理あるね」


 うんうんとわざとらしく頷くヒーロー様は演技過剰で非常にうざったい。

 それでも彼の隣に立つネメシア様のもう一人の金魚の糞……もといローゼンハルトに落とされた攻略対象の一人、スターチス・インディゴブルーには魅力的に映るらしくうっとりとヒーロー様を見つめていた。


 ちなみにスターチスくんは立派な男の娘である。






 現在、卒業パーティーの式場はカオスに満ち満ちている。


「ねぇ、ハルト兄様。どういうこと? あたしヒロインざまぁなんてされないわよ!」

「ははは、リリィ落ち着いて。ちょ、マジで顔怖いから! リリィにも悪いようにはしないからさ! ちゃんとウィンウィンになるから!」


 リリアナ嬢(ヒロインちゃん)ローゼンハルト様(ヒーローさま)にちょーっとヒロインとしてはあり得ない顔で詰め寄っている。インテリヤクザも双子の妹の迫力に圧されてたじたじだ。

 ウィンウィンって言い方がうぜぇ、なんだよ、ティウンティウンかよと思わず心の声も荒む私の目の前では更に心が荒む状況ができあがっている。

 それすなわち、私を巡る愛憎劇である。


「ねぇ、第一殿下ぁ? 何馬鹿なこと言ってんのかなぁ? これ見えない? アイリスとの結婚紋、綺麗でしょ? 第一夫としては二番なんて認めないし、いらないんだよねぇ? 意味わかるぅ? もっと噛み砕いて言った方がいいかなぁ?」

「義姉殿とこれからはお呼びした方がいいだろうか、モンステラ殿。至らない後輩ではあるが、これからよろしくご指導ご鞭撻のほど頼みたい。ああ、もちろん第一夫人であるミント殿にも敬意を払うつもりであるから安心してくれ、ミント殿」

「……ミント! こいつ話通じないよ! こわい!」

「奇遇ですね、スティ。私も今、意志疎通のできない相手との対話に初めて恐怖を抱いている所ですよ」


 ああ、もうやだ。

 おうち帰ってプリムラ様と小説の萌え話でもしていたい。


 はぁ……仕方ない。

 私の固有魔法(チート)でもって『機械仕掛けから現れる神様(デウス・エクス・マキナ)』にでもなろうか。


「ネメシア様、ローゼンハルト様。少しお時間よろしいでしょうか」


 ああ、あとついでにミルトニア様とリリアナ嬢。

 どっちでもいいけど陰険眼鏡とスターチスくんも数に入れておこうか。

 んー、魔力保つかな?


「答え合わせを、致しましょう?」


 応えを聞く前にパチンと指を鳴らす。

 すると私達の体は光に包まれ、観衆の前から姿を消したのであった。

後編に続きます。

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