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交錯世界の旭日旗  作者: 名も無き突撃兵
序章 日本転移編
4/29

第4話

西暦2020年1月中旬

日本 佐世保沖

海上

02:04 JST






 遠く水平線近くに佐世保の街の灯りが見える海上。暗闇の中を隊列を組んで進む艦隊がいた。

 その艦隊は10隻で構成されており、30ktの俊足で西へ向かっていた。

 これらは日本海軍第三艦隊隷下の艦艇で構成された遣エレミア艦隊である。


 長門型攻撃巡洋艦の『扶桑』『山城』、蒼龍型護衛空母『紅龍』、金剛型ミサイル巡洋艦『鈴谷』、吹雪型駆逐艦『氷雪』『みぞれ』、雪風型駆逐艦『文風』『冷風』『夜風』『秋津風』。


 佐世保を根拠地とする第三艦隊のおよそ半分。前世界においては、これを相手国の同意なく送り込もうものなら確実に戦争になっているような戦力である。

 ここで各艦の概要を説明しよう。





 長門型攻撃巡洋艦は艦載核融合炉とレールガンの実用化によって、現代に返り咲いた戦艦のような艦だ。

 艦種は巡洋艦であるが、基準排水量が24500t、全長にして224m、全幅38mという巨艦。50口径36㎝三連装電磁加速砲 3基を主砲とし、その対艦・対地攻撃能力は従来の艦を遥かに上回っている。また、JRQ-2『影虎』無人観測機を2機搭載しており、それに着弾誘導をさせることで200kmの距離でも直撃弾を連発させることもできる。

 防空面においては、個艦防空システム『SADシステム』を搭載しているため、個艦防空能力は極めて高い。『SADシステム』はレールガンの対空射撃モードとCIWS、レーザー迎撃器を半自動的かつ有機的に組み合わせて絶大な個艦防御を行うシステムだ。並大抵の攻撃は通らない。

 一方で艦隊防空能力はミサイル巡洋艦に劣る。そこは役割分担である。




 蒼龍型護衛空母はいわゆるヘリ空母である。基準排水量が23500t、全長260mの艦で、SH-60J対潜ヘリコプターを18機運用する。

 日本の艦艇の多くに搭載される『SADシステム』をこの艦も積んでおり、従来の空母よりも個艦防御が固い。

 かなり余裕を持った設計と運用をしており、陸戦部隊の輸送や、それを運ぶための輸送ヘリやティルトローター機の運用もできる。

 ただ、この艦の本領はやはり対潜任務であり、前世界では世界中の潜水艦乗りから恐れられていた。




 金剛型ミサイル巡洋艦は日本独自の艦隊防空システム『銀河システム』を搭載する艦であり、この『銀河システム』の性能が極めて高いことからイージス艦よりも強力な艦艇として扱われる。

 全長は182m、基準排水量は14000tとかなり大型の戦闘艦であるが、これは『銀河システム』がイージスシステムよりも大規模なものであるからだ。

 一方で『SADシステム』も搭載しており、撃破は困難。二重の空の防壁を張る金剛型ミサイル巡洋艦は、日本の防空の象徴的な兵器の1つである。




 吹雪型駆逐艦は日本海軍の汎用駆逐艦だ。全てにおいて高い水準を誇る艦であるため、前世界では長門型攻撃巡洋艦や金剛型ミサイル巡洋艦などといった'見栄えのいい艦艇'のせいで影が薄いものの、重大な脅威として周辺諸国から見られていた。

 全長160m、基準排水量6000tの大型駆逐艦であるが最大速力は40ktを超える。ちなみに今の日本海軍の艦艇の多くは40kt以上の快速を誇る。防衛すべき海域が広いので、現場にすぐに向かえるようにするためだ。さすがに空母はそこまでではないが。

 また、特徴として電子戦能力が高いことが挙げられる。吹雪型駆逐艦のECMの前では生半可な対ECM処置は何もしていないのと変わらない。

 そのためか、吹雪型駆逐艦のマストは他の同クラス艦に比べると高い。




 そして最後に雪風型駆逐艦。全長158m、基準排水量5800tと先述の吹雪型駆逐艦と同クラスの艦である。この艦は量産性に優れており、性能の割には安価なことから日本海軍の主力汎用駆逐艦の1つとなっている。

 性能は他国に比べると非常に高いものがある。が、他の日本海軍戦闘艦に比べると平々凡々といった感が否めない。優秀なのに、ある意味では可哀想な艦である。





 さて、各艦の概要が分かったところでこの艦隊……この長門型攻撃巡洋艦2隻、蒼龍型護衛空母1隻、金剛型ミサイル巡洋艦1隻、吹雪型駆逐艦2隻、雪風型駆逐艦4隻の艦隊の脅威度も自ずと分かるだろう。

 前世界で無許可でこの艦隊を他国に差し向けようものなら喧嘩を売っているに等しいということに。


 そう。この艦隊は砲艦外交の目論見を根底にして編成されている。

 とはいえ、これでも抑えた方なのである。過激な意見だと、第四、第五空母機動艦隊にそれぞれ2隻ずつ配備されている翔鶴型融合炉空母1隻を組み込もうだとか、長門型攻撃巡洋艦の拡大版である大和型戦艦を艦隊に組み込もうだとか、そういった意見があったのだから。


 何事もやり過ぎは厳禁である。




 小国の海軍力を上回る戦力を保有する遣エレミア艦隊は、日本の未来を安定させるための第一歩を担うという重大な任務を負いながら西へ突き進む。


 この先に待っている未来が日本にとって好ましいものであることを期待して……。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




北暦1710年(西暦2020年)1月中旬

エレミア共和国 首都エルミール沖

海上

08:07 現地時間






 朝陽が海を照らすエルミール沖。その空を1機の航空機が飛んでいた。


 大型でどこか野暮ったい印象を受ける双発のレシプロ機。上と下に1基ずつ機銃を構え、機銃手が周囲を隈無く確認している。


 これはエレミア共和国空軍の大型偵察機、『バッファローR.4』である。バッファロー・エアウィング社が開発した機体で、最高速度は540km/h、武装は10㎜機銃を2基と爆弾類。偵察機ながら爆撃も可能とする機体である。

 偵察機としては優秀な機体で、周辺国にも輸出している。大型なのでユニットコストが偵察機にしては高めなのがネックだが。



「機長……本当に来るんですかね?」


「黙って仕事しろ、上の命令なんだ」


 観測手の男と操縦を行う機長がそんな会話をする。

 この『バッファローR.4』は6人乗りの機体で、上下機銃手と観測手1人、通信士1人、操縦士が2人で構成されている。


「しっかし、どこまで行っても大海原……。艦隊の姿なんてありゃしませんぜ?」


 彼らの役目は、近い内に来るであろうニホンの艦隊を発見すること。別に敵対するつもりはないが、首都エルミールに来る前にニホン艦隊の到着を知っておくべきである。


 観測手の言葉に通信士も口を開く。


「どんな国なんだろうな……」


「噂によると、軍事力は俺らよりも格段に低いらしいぜ」


「噂だろう? 現時点で分かるようなことでもないだろうに」


 観測手の言葉に通信士は返す。


「ところがどっこい……海軍の連中がニホンの船に接触したらしいが、ビックリするほど武装が少なかったそうだ。なにせ、貧弱な単装砲1門が主砲だったらしいからな!」


「へぇ……。じゃあ、俺達の敵じゃねぇな!」


 2人して笑う。今まで強大な西の敵勢力に晒されてきたため、自分よりも下の相手がいるとなると気が楽なのだ。


「おい……会ってもいない連中を貶める発言は止めておけ。いらない敵意を買うぞ」


 機長が言う。だが、その言葉も本気で言っているわけではなく、意訳すると『黙って仕事しろ』という言葉になる。


「了解ッス……ん?」


 観測手がそんな声を上げる。すかさず機長が聞き返す。


「どうした?」


「方位110辺りの水平線近くに何か見えます……。艦船……?」


 観測手が観測用風防から双眼鏡を用いながら言う。


「ニホン艦隊だな……。基地に打電しろ!」


「了解!」


 通信士がモールス信号で基地に『ニホン艦隊発見ス』と打電する。


「……デカイな。ちょっと待て、ありゃ戦艦か!? うちの戦艦よりもデカイぞ!!」


 観測手が叫ぶように言った。


「はぁ!? さっき、お前、ニホンは軍事力が低いって……」


「……所詮は噂だったわけだ」


 通信士の言葉に機長は冷静にそう告げた。


「しかし……。戦艦を持ち出すとは平和的じゃない。もしかしたらヤバい国が来たのかもしれんな……」


 機長の言葉が、機内の温度を数度下げたような気がした。




 やがて、観測手以外からもニホン艦隊が見えるようになった。


「こいつぁ……」


 初めて見るニホン艦隊の姿に言葉を失う面々。

 ニホン艦隊の艦船は10隻。内、エレミア共和国の如何なる軍艦をも上回る巨大さを誇る艦が3隻あり、一般的な戦艦と同等サイズのものが1隻。他の6隻は巡洋艦サイズだった。


 ニホン艦隊は輪形陣を敷いており、真ん中に巨大であるが甲板が平べったい奇妙な艦がおり、その両斜め後方に大型戦艦2隻がいる。この戦艦の主砲は大きく、エレミア共和国の戦艦よりも強力そうだ。

 平べったい奇妙な船の前方には、戦艦並みの大きさながら武装が少ない艦がいる。

 そして、それらを囲むように6隻の巡洋艦が展開している。それらの艦も武装が少ない。



「……大型戦艦は脅威だが、他は大したことなさそうだな」


 どこかホッとした様子で観測手が言う。だが、機長は言った。


「そうは言い切れん。見たことのない装備がたくさんある。もしかすると、大砲以外の強力な兵器を積んでいるのかもしれん」


「そんなバカな……」


 通信士が機長の言葉にそう呟くが、機長はこう問うた。


「1000年前の人間が大砲を見て、脅威と思うか? ただのデカイ金属にしか見えんだろう。そして、実際に使われるところを見てから脅威と認識する。それまでは何も分からない……」


「「……!」」


 観測手、通信士、そしてこれまで何も喋らずに仕事をしていた副操縦士や機銃手達もが息を呑むのが分かった。


 そして思わずにはいられなかった。少なくとも、祖国にとって悪い方向へ運命の歯車が回っていかないようにと……。







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