第20話
明けましておめでとうございます。
新年一発目です。どうぞ。
西暦2021年3月15日
日本 横須賀
造船ドック
10:22 JST
日本の首都近郊にある横須賀市。横須賀基地という陸海空軍共同の巨大な臨海基地があることで有名な都市であるが、大きな造船ドック群があることでも有名だった。
そして、その造船ドックのいくつかでは大陸諸国向けの新造艦が建造されており、あと2、3ヶ月もすれば進水できるほどに完成していた。
その中の1つの造船ドックの中。建造途中の新造艦を眺める男がいた。
やや長身であるようだが、概ね中肉中背といった体格と黒髪黒目。顔立ちは日本人とは異なった彫りの深いもの。軍服はエレミア共和国海軍のものである。
彼の名はヘンリー・ホーウッド。つい数ヶ月前に退役間近の巡洋艦の艦長から、新艦隊の司令官に抜擢された男だ。それに伴って、階級は大佐から准将へと昇進した。
「ふぅぅ~……」
そんな'栄転'と言っても差し支えない転属をした彼であるが、新艦隊の司令官となってからは溜め息が多くなっていた。
というのも、だ。今回編成される新艦隊はミサイル戦闘を念頭に置いた先進艦隊であり、今までのエレミア共和国海軍の戦術では扱いきれないため、運用や戦術を学び直す必要があるのだ。
そして先日、ホーウッド准将は日本海軍のシミュレーション装置を使って、戦闘シミュレーションを行った。その結果が散々だったのだ。
日本海軍の戦闘シミュレーションにはレベル1からレベル5までが存在する。
ホーウッド准将はレベル3にて完敗した。3度やって3度とも敗北である。
日本海軍では艦長でレベル4、艦隊司令官でレベル5を安定的にクリアする必要がある。……つまり、残念なことにホーウッド准将は現状では日本海軍の艦長にもなれないわけだ。
まぁ、レベル3からが本番と言われる戦闘シミュレーションであるし、ホーウッド准将自身も学び始めてまだ半年と少し。仕方のないことではある。
それでも、エレミア共和国海軍士官学校を優秀な成績で卒業した彼だ。それなりに自尊心もあったため、若干憂鬱気味である。
「大丈夫ですかな?」
そんな彼に話しかける声が後ろから届く。ホーウッド准将が振り返ると、そこには髪に白いものが混じった日本人男性がいた。
「ヤスダ教官殿……」
彼は安田ミハイル。日本海軍の大佐であり、以前は第五空母機動艦隊のミサイル巡洋艦『衣笠』の艦長であった。
今は『衣笠』の艦長も代替わりし、彼は士官学校の教官になっている。そのためなのか、ホーウッド准将を始めとするエレミア共和国海軍将兵達に現代戦を教える役目を負っている。『人に教えるのなら、現行の教官を使ってしまえ』という日本軍上層部の判断である。
「どうやらいろいろお悩みのようですな。……まぁ、おおよその原因は推測できますが」
安田 教官は肩を竦めながらホーウッド准将の隣まで来た。ホーウッド准将よりも数段歳上の安田 教官は、とても落ち着いた雰囲気を纏っていた。
そのせいか、ホーウッド准将も口が軽くなる。
「ははっ……お見通しのようですね。やっぱり戦闘シミュレーションの結果は重く見なければならないでしょう。……エレミア共和国海軍の未来がかかった艦隊を任されているというのに、このような体たらくでは祖国の人々に申し開きができません」
「真面目ですな」
安田 教官は微笑ましいものを見るかのように笑った。
彼から見たホーウッド准将の印象は、『真面目であるが故にこれまでの常識から抜け出せない男』である。真面目であることが逆に仇となっている。
というのも、ホーウッド准将は以前の砲戦メインの戦術からまだ微妙に抜け出せていないように思えるのだ。ある程度、現代海上戦闘の基礎は既に教えているのだが、先日の彼の戦闘シミュレーション内における指揮を見るに、対空戦闘や対潜警戒が甘い。また、ミサイルの脅威を軽視していたようにも見えた。そのせいで迎撃が遅れたこともあった。
真面目であることは基本的に美徳と捉えるべきであるが、時としてそれが足を引っ張ることもあるのだ。ほどほどが一番である。
「私は新世代の戦闘についていける気がしません。私よりももっと知識を吸収できる逸材がエレミア共和国にはいるはずです。私のような凡人では限界があります……」
ホーウッド准将の意見ももっともだ。普通は少しずつ軍事テクノロジーや戦術が発展していくものなのだ。しかしながらこの世界では技術レベルが大きく異なる国家が乱立しているため、先進技術が次々と入ってくる。質の悪いものだと、いくつか過程をすっ飛ばして。
一般人では体が追いつくことができないのも頷ける話だ。
「私が見る限り、ホーウッド准将に才がないなどということはありませんが……」
安田 教官はそう言う。嘘ではない。新たな技術や戦術に体が追いつけていないのは確かだが、その分堅実な指揮を行っている。相手が砲戦メインの艦艇ならば致命的失敗は起こり得ないだろうと思えるほどだ。
さらに言うならば、他のエレミア共和国海軍将兵達もホーウッド准将とどっこいどっこいの結果だ。彼が特別悪かったわけではない。
「ふむ……。謙虚な気持ちが足りぬのかもしれませんな」
「謙虚な気持ち……?」
ホーウッド准将は聞き返す。
「そうです。……あなたはまだ現代海上戦闘を学んで1年も経っていない『ヒヨッコ』です。祖国の士官学校でどれだけ優秀な成績を収めたかは知りませんが……それは今は通用しません。今までの自分の栄光は一旦忘れましょう。初心に戻るのです」
安田 教官の言葉はホーウッド准将に響いた。
(……確かにそうだったかもしれない。士官学校では優秀だと褒めそやされて卒業した。それで今までずっと、自分でも気づかない内に気が大きくなっていたのかもしれないな……)
ホーウッド准将は今までの自分の心持ちを振り返って反省した。『結局、自分は傲慢だったのかもしれない』と。
ホーウッド准将は安田 教官に正対して頭を下げた。
「教官……ありがとうございます。自分が如何に傲慢であったかに気づくことができました」
「傲慢、というほど准将の態度が悪かったようには思えませんが……自分の中で何か解決したようで何よりです」
安田 教官は再び笑みを浮かべた。
「……この艦、実は私が初めて配属された朝霧型駆逐艦を基に設計されておるのですよ」
「なんと……そうでしたか」
ホーウッド准将は本当に驚いた。何という偶然か。自分の教官が乗っていた艦を基にした艦に、教え子である自分が乗るのだから。
エレミア共和国海軍が編成する新艦隊は、この建造中の艦の他に日本海軍で退役して未だに解体されていない艦を払い下げたものや、日本が技術提供をしてエレミア共和国自身が建造した艦が加えられる予定だ。もっとも、後者は時間がかかるのでしばらくは旧式改装艦が入るだろうが。
「性能諸元を確認しましたが……スレイン諸島連邦の艦に優るとも劣らないものでしたな。この艦の潜在能力を活かすも殺すも准将次第です。精進なさってください」
「了解です、教官」
階級はホーウッド准将の方が上であるが、彼は安田 教官に全く頭が上がらない状態である。教えを乞う立場なので当然といえば当然であるが。
「ふむ……。あの艦を見ていると昔を思い出しますな……」
「昔、ですか? さそがし、ご活躍なされたのでは?」
「いえいえ……。私なんぞ、上の者に従ってついていったに過ぎません。というよりも、私が思い出したのは軍に入ることを決めた頃のことでしてな……」
そう言って、安田 教官は回想するように語りだした。
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時は1960年代初頭。ソビエト連邦率いる社会主義同盟とアメリカ合衆国率いる自由主義同盟が対立していた冷戦の時代だ。
この頃の日本は目覚ましい勢いで発展を進めていた。次々と開発される新技術や続々と生まれる新たな文化。日本はこの時には既に米ソに次ぐ世界三番目の国家として名を馳せていた。
この頃、ソ連は最盛期を迎えていた。地球上の様々な場所に社会主義が浸透していき、それを快く思わない日米英仏などの自由主義国家がそれを妨げようとする。まさに冷戦の中でも最も激しい時代であった。
そんな時、ある事件が起きた。ソ連の漁船が誤って日本の領海内に侵入、日本の海上保安庁の巡視船が警告後に撃沈したのだ。
パッと見れば日本は悪くない。だが、ソ連はこれを利用した。
当時、ソ連はオホーツク海を自らの内海にしようと画策していた。そこに戦略原潜を配置して日米に強力な軍事的プレッシャーをかけようと考えていたのだ。
それ故、ソ連は日本の対応に文句をつけた。
『漁船は日本の領海に入ってはいなかったはずだ』と。実際のところ、漁船は日本の領海ギリギリ内側のところを航行していた。だが、不幸なことに当時はそれを立証できなかった。
そこからソ連は様々な言いがかりをつけて日本への侵攻を開始した。この時点で日ソ両国ともに核戦争は望んでおらず、局地戦で終わらせようと考えていた。これが『オホーツク戦争』である。
その戦争の結果は何とも言えないものだった。
ソ連は北樺太を支配下に置き、日本の千島列島の実効支配を解除させることに成功した。これだけ見ればソ連の勝利に見える。
しかしながら、ソ連が勝ったとは言えない事情もあった。
ソ連が払った犠牲は日本側の数倍にも及び、それだけの犠牲を払ったにも関わらず、結局南樺太を守りきられてしまい、オホーツク海がソ連の内海になったとは言いがたい状態だった。
極東軍が日米にプレッシャーを与えるために始めた戦争であったが、結果的には極東軍の被害が甚大なものとなり、弱体化してしまうまでに至った。
さらに日米両政府による国家非常事態宣言が行われ、日米両首脳が『核兵器の使用も辞さない』と宣言した。これにはさすがのソ連も手が出せなかった。これ以上の侵攻は局地戦では済まされない。その結果、日ソは南北樺太で睨み合いとなり、千島列島は両国が領有権を主張するようになった。
そして、そのすぐ後にキューバ危機。
オホーツク戦争とキューバ危機を併せて、後の世では『世界が最も破滅に近づいた時代』と呼ばれている。
さて、この一連の流れで一番割を食った人々がいる。
それが日本人とロシア人のハーフである。
この戦争が原因で両国人の間の関係はこれまでにないほどに悪化した。もちろん、その悪感情はハーフの人間にも向かった。
ハーフは一番過酷だった。なにせ、日本人からもロシア人からも目の敵にされていたのだ。この時代は日ソ両国のハーフにとって、あまりにも辛すぎる時代だった。
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「私の子供時代も、その時代でした」
安田 教官は思い出すように言う。しかしながら、愉快な記憶ではなさそうだ。
「周囲の人から避けられるくらいならまだマシで、酷い場合だと声を大にして『売国奴』や『敵国人』と罵られました」
ホーウッド准将は日本にもそんな時代があったのか、と素直に驚いた。
「ですが、それだとどうして軍に入隊したのですか?」
そこまで嫌な思いをしてきたのなら、この国が嫌いになっても不思議ではない。彼が軍に入ったことは不自然に感じる。
「ふむ……。まぁ、いろいろ理由はありますな。自分は日本人である、という証明のためや、実家がそれほど裕福ではなかったこととか……。しかし、一番大きかったのはとある総理の言葉です」
「……とある総理?」
「はい。まだまだハーフに対する偏見と差別が強かった時のことです。当時の総理大臣である杉野氏が公式の場でこう発言されたのです。『オホーツク戦争は確かに悲劇だった。しかし、それを理由にして日本人とロシア人のハーフを差別することはあってはならないと思っている。……少なくとも、日本人として生きようとしている人々は日本人として扱うべきではなかろうか?』と」
当時、杉野 総理のその発言は新聞やニュースで大きく取り上げられ、大きな反響を呼んだ。そしてそれは、日本の社会問題を浮き彫りにする効果をもたらした。
「その後、テレビなどで専門家や知識人が議論する番組が何度も組まれたりしましたね。それに応じて我々に対する世間の風当たりも徐々に和らいでいきました……。そして、私が軍に入ろうと考えていたときには表立ってハーフを差別することはなくなりした。完全に受け入れられるまではもう少しかかりましたが……それでも最終的にはこの通り、差別されることも偏見を持って接されることもありません」
安田 教官は日本人とロシア人のハーフとして苦労してきた。その厳しい時代に終止符を打つための一打を杉野 総理が打ってくれたのだ。
「私は感謝してもしきれませんでした。だから、何かをして彼の役に……彼の目指す日本の役に立ちたくなった……。それが一番の理由です」
安田 教官はそう締めた。
ホーウッド准将は自分の教官が波乱の人生を歩んできていたことに、少なからず尊敬の念を抱いた。これまでも尊敬はしていたが、それは教官として。今、ホーウッド准将が抱いた尊敬の念は本当の意味での安田 教官自身に対してのものだ。
「……そこまでの理由と信念があって軍に入隊されたとは……。私なんか、出世するために軍の士官学校に入りましたからね」
ホーウッド准将はそう自虐するが、安田 教官は首を横に振った。
「入隊する理由は人それぞれ。それに優劣をつけることに意味はありませんし、そもそもつけられるものではありません。結局のところ、どれだけのことをやり遂げるかが重要です。それを考えると、ホーウッド准将の方が素晴らしいですよ」
なにせ、海軍の先進化の先駆者だ。その存在意義は大きい。少しくらい失敗しても、それで価値が下がることはない。というよりも、日本側としてもそう簡単に事が運ぶなどとは考えていない。ホーウッド准将が焦る必要は全くないのだ。
「……ありがとうございます」
ホーウッド准将はそう礼を言った。安田 教官のおかげで気が楽になったのだ。気づいたら口に出ていた。
「さて、准将にはまだまだ学んでもらわねばならないことがありますからな。今度から厳しめにいきますぞ」
「お手柔らかに……」
少し意地の悪い笑みを浮かべた安田 教官に、ホーウッド准将は苦笑しつつそう返したのだった。
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同日
ドートラス首長国 港町カルシア近郊
捕虜収容所
14:55 現地時間
この日の昼下がり。あまりにも暇だったルーデルは病室から出ていた。もちろん、足が治ったわけではない。車イスに乗って外に出ていた。ふと思い立って出たため付き添いはおらず、自分で車輪を回して移動している。
「………………」
ルーデルは辺りの光景を見て、正直なところ困惑していた。エリナがルーデルの見舞いに来たことからある程度予想はしていたのだが、やっぱりこの捕虜収容所は『らしくない』。
というのも、この捕虜収容所は自由なのだ。もちろん外に出してもらえるわけではない。しかし、ここは普通の収容所にある窮屈感があまり感じられなかった。
外の広場ではキャッチボールをしている者がいたり、楽しそうに談笑している者がいたり、さらには日本人らしき人物と楽しげに語らう者すらいる。
「何だここは……?」
思わずルーデルの口からつい出た言葉がそれであった。彼の知る捕虜収容所はこんな雰囲気の場所ではない。普通はもっと陰惨な雰囲気を漂わせているはずだ。
「……何が目的なんだ……?」
この待遇……ルーデルから見れば不自然そのものだった。いや、むしろほぼ全てのフォルワナ人捕虜達がそう感じたことだろう。それくらいに、この捕虜収容所はフォルワナ人が思うものとはかけ離れていた。
ルーデルはとりあえず、休憩所へと向かった。特に理由はない。そもそも外に出たのは暇過ぎるから、というとりとめのない理由である。やることがないというのは、人間にとっては苦痛なのだ。
休憩所はそれなりに広い。高低差こそないが、大学の講義室並みの広さはある。
中には長い簡易テーブルをいくつも繋げるようにして配置しており、さながら食堂のようにも見える。レイレダード学院の食堂も長いテーブルが何列か配置されていた。それに似たようなものだった。
ルーデルは中に入ると、壁際にある本棚を見つけた。どうやら日本の雑誌や書籍が置いてあるようで、フィルディリア語訳されているようだ。フォルワナ語とフィルディリア語はほとんど共通なので、フォルワナ人にも読める。
ルーデルはそこまで移動して並べられている本を眺める。本棚と言ってもそこまで大きいものではなく、車イスに乗っているルーデルでも頑張れば最上段の本でも取れそうな感じだ。
ルーデルはふと目についた本を手に取った。
『戦争に学ぶ日本近代史』。そんなタイトルの比較的薄めな本だった。表紙には昔の写真だろうか、白黒の戦艦の写真が載せてあった。
ルーデルは他の人間の邪魔にならない場所に移動してその本をめくった。
その本に書かれていたのは日本の苦難の歴史だった。
開国してすぐの頃、西洋列強に比べて科学技術や工業力で大きく劣っていた当時の日本は、植民地化されないように必死に努力を積み重ねていた。不平等な条約を呑まされるなどの屈辱を味わいながらも、凄まじい勢いで近代化を推し進めていく。それは技術的なものだけでなく、国家体制や文化面でも行われていた。
普通ならば、このような急激な変化には国が耐えられないと思われるが、それでも多少の混乱や反発はあったとしても日本は成し遂げていったのだ。
そして開国から40年。日本は未だに格上だった清と開戦する。日清戦争だ。この戦争で日本は快勝し、まずはアジア最大の独立国として存在感を増すことになる。
しかしながら、それでも所詮は地域大国。西洋列強に比べれば大したことではない。まだまだ日本は弱かった。
日清戦争から10年後、開国してから半世紀で日本は再び格上の国家と戦争をすることになる。その相手は西洋列強の1つ、ロシア帝国。国力は日本の10倍とも言われていた。まさに無謀な戦争である。
それでも日本は果敢に戦い、ギリギリのところで勝利した。ほとんど判定勝ちみたいなものであったが、それでも10倍の国力を持つ相手に勝利したのである。
この頃から日本は末席とはいえ列強に数えられるようになり始める。非白人国家では初めてのことだ。
そして運命の太平洋戦争。日本の歴史の分岐点はここだったと言われている。
世界で最も広い太平洋を戦場にしたこの戦争。またしても相手は格上の国家だった。その相手はアメリカ合衆国。日本史上、最大最強の敵だった。
圧倒的な国力を誇るアメリカ合衆国に対して、日本は各地で奮戦した。そして奇跡的に……本当にギリギリで辛勝した。勝った、と言いきるには微妙なラインではあるが、日本の本来の目的は果たしたことから戦略的には勝利したと言ってもいいだろう。
何か運命の歯車が少しでも狂ってしまえば敗北は間違いなかった。それほどにギリギリな戦いだったのだ。だが、この戦争が日本の大国としての位置づけを明確にしたと言っても過言ではない。実際、その後の日本の躍進や築かれた国際的地位を見ると、この戦争で世界最強と名高いアメリカ合衆国を相手に互角に渡り合った実績は光るものがあったと言える。
その後、日本は冷戦時代を経験して今に至る。太平洋戦争後は誰もが認める大国として世界で存在感を見せてきたのだ。中でも技術力はかなりの定評があった。
「………………」
そこまで読んだところで、ルーデルは本を閉じた。この内容が本当だとしたら、日本は相当に戦争慣れしていることになる。それも格下ではなく同格以上を相手にして、だ。
フォルワナ共和国の戦争相手は必ず格下であった。元の世界ではフォルワナ共和国は最強格の国家であったし、技術力では他を上回っていた。少なくとも日本の戦争みたいに国力差10倍の敵を相手にするとか、そんなバカげた戦争はなかった。
……まぁ、これはどちらかというと日本の方がおかしいのだが。
「プロパガンダ……なのだろうな」
そう呟くルーデル。さすがに盛りに盛っているのではないかと疑ってしまう。
とはいえ、口にした言葉に自信はなかった。日本はこれまで自分の予想を何度も覆してきた。フォルワナ人の常識も一緒に。
それ故、有り得ないと思いつつも確信が持てなかったのだ。
「……他のニホンの本はどうだろう?」
ルーデルは再び本棚から別の本を取ってくるのだった。
『オホーツク戦争』のことやら、雑誌のことやら突っ込みどころはあるかもしれませんが、あくまで創作ですので納得いかないこともあるかと思います。ご了承ください。




