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交錯世界の旭日旗  作者: 名も無き突撃兵
序章 日本転移編
2/29

第2話

最後の方が雑になった気がします……。

気が向けば手直ししないこともないかもしれないかもしれない。




北暦1710年(西暦2020年)1月上旬

エレミア共和国 エルミール

大統領府 大統領執務室

11:01 現地時間





「はぁ……。頭が痛い……」


「薬をお持ちしましょうか?」


「ああ、頼む」



 エレミア共和国の首都エルミールにある大統領府の大統領執務室で、そんな会話が為されていた。

 頭痛を訴える白髪の初老男性は、クラマ・スポイル大統領。このエレミア共和国の代表者たる者である。

 その側に仕えるのは彼の秘書官の男性。彼はスポイル大統領のための頭痛薬を取りに、ドアから出ていった。


 他に誰もいなくなると、スポイル大統領は何となしに立ち上がって窓からエルミールの景色を眺めた。


 エルミールの街は港町である。なだらかな丘の頂上に大統領府があり、その丘には他の政府施設も集中している。

 街は旧来の歴史ある建物と新しい建物が入り交じる、ある種の混沌さを持っている。人口は80万人と、エレミア共和国最大であると同時にフィルディリア大陸東部で最大でもある都市なのだ。

 東には港があり、その軍港区画には最新鋭戦艦2隻を擁するエレミア共和国海軍第一艦隊が停泊している。


 元来より貿易で富を得ており、経済の中心地であったエルミールだったが、今では政治的な中心地でもある。その重要性はエレミア共和国にとっても周辺国にとっても計り知れない。



「はぁ……」


 スポイル大統領は今の状況を思い出し、そして気分を暗いものへと落としていった。


 エレミア共和国は危機に瀕していると言っても過言ではないだろう。

 1年前に異世界転移という前代未聞の大災害に見舞われたフィルディリア大陸の各国。他大陸との交流も始めていた各国では混乱が生じた。特に植民地を持っていた国々は。

 その点、エレミア共和国は恵まれていたと言わざるを得ないだろう。エレミア共和国は大陸北東部から東部にかけて存在するのだが、ちょうど主要な鉱産資源の宝庫であったのだ。その上、周辺国が簡単に手出しができない程度の軍事力も保有しており、他の国に比べると随分と余裕があった。


 だが、そこに脅威が現れたのだ。


 突如としてフィルディリア大陸西部の国々が、フォルワナ共和国と名乗る国家に侵略され、植民地支配されてしまったのだ。フォルワナ共和国はフィルディリア大陸と同時期に、大陸のすぐ西の海上に出現した島国である。

 フォルワナ共和国は明らかな帝国主義国家であり、同時に大陸東部にも欲望の目を光らせていた。

 エレミア共和国を含む大陸東部の国々は対フォルワナ共和国の同盟として東方大同盟を結成した。それによってフォルワナ共和国の脅威に立ち向かおうとしたのだ。

 だが、元々仲の良かった国で作った同盟ではないため、東方大同盟の足並みが揃っているとは言い難い状況になってしまう。さらに軍事的圧力を強めてくるフォルワナ共和国に対して、東方大同盟は脆弱であると思われた。


 だからこそ、スポイル大統領は焦りを見せているのだ。このままではフォルワナ共和国に勝てないと。


「いや、勝てはしなくともせめて侵略を躊躇ってくれる何かがあれば……」


 スポイル大統領はそう言うが、それですらも望めない。諜報機関によると、フォルワナ共和国の兵器は大陸のものよりも遥かに優れているらしく、とてもではないが対抗できるとは思えない。戦えば確実に負けるだろう。


 そんなことを考えていると、自分で認識していたよりも長い時間が経っていたのか、秘書官が錠剤の入った瓶を持って戻ってきた。


「おお、すまんな」


 スポイル大統領はそう言って薬を受け取り、秘書官に水を持ってきてもらって薬を飲んだ。


「ふぅ……。最近は悩みの種が尽きんからな……」


「心中お察しします……。何かあればすぐにお申し付けください」


「毎度毎度すまんな」


「いえ、仕事ですし、大統領閣下の苦労を思うと大したことはありませんよ」


 秘書官はそう言って笑う。スポイル大統領も応えるように口の端を上げた。


「そうか。そう言ってくれると助かるよ」


 議会の敵対政党の議員達は文句しか言わない。それだけでもストレスになるのだ。そして現在は文句をつけられる要因が多すぎる。それを考えるとやはり気が重い。




 そんな時だった。そんな停滞的思考を吹き飛ばすような報告が入ったのは。




 執務室内の黒電話がジリリリと喧しく鳴った。スポイル大統領は受話器を取る。


「私だ」


『こちら海軍軍令部、ドイルです』


「ああ、海軍大臣。どうかしたのか?」


 かけてきたのはチャレス・ドイル海軍大臣であった。小者臭のする初老の男だが、仕事はきっちりとこなすため、その点でスポイル大統領は彼を信用している。


『本日の朝、東海上で哨戒中の駆逐艦が所属不明艦を臨検しました。その船はニホンという国の公船らしく、我が国へのメッセージを持ってやって来ていました』


「ほう……。東の海に? そっちに国はなかったはずだが……。新しく転移してきた国か」


『そのようです。まさか、我々フィルディリア大陸やフォルワナ共和国以外にも遅れて転移してくるとは……』


 ドイル海軍大臣は心底驚いたと言わんばかりの口調でそう言った。事実、そうである。フィルディリア大陸、フォルワナ共和国以外の国の初めての転移例……それも、時間がずれているのだ。つまり、それはこの先、また新たな国が転移してくる可能性が極めて高いことを示す。


「で、メッセージとは何だ?」


『要約すると、国交を結んで貿易をしたいとのことです』


「……それだけか。まぁ、転移したばかりだからそうなるだろうが……」


『そのようですな。まだ混乱から立ち直ってはいないでしょう。我々もそうでしたからな』


「うむ。……で、ニホンの公船、つまりは軍艦なのだろうが、どうだった?」


 エレミア共和国には日本の海上保安庁に相当する組織は存在しない。海を守るのは海軍の役目であり、それがフィルディリア大陸での常識である以上、スポイル大統領は海上保安庁の巡視船を海軍艦艇と誤判断した。

 そして、それは彼だけでなく、関係者全てもであった。


『推定される排水量は1000t少しと、一般的な駆逐艦と見て間違いはありません。船体の割に軽快な加速性能には見るものがありますが、武装が軽武装過ぎます。主砲が小さな単装砲1門という砲艦のような艦でした』


「なるほどな」


『我々には判別できない装備もいくつか見受けられ、技術力は高そうでしたが軍事力は大したことなさそうです』


「それを聞いて安心した。東からも侵略者が現れたら大変だからな。……ニホンにどう対応すべきかは、閣議で話そう。では、切るぞ?」


『分かりました』


 スポイル大統領は受話器を置く。そして息を吐いた。


「ニホン、か……」


 東の海に現れた奇妙な国を思う。彼らもこの緊迫した世界情勢に巻き込まれていくのだろう。その時、貧弱な軍事力しかない彼らはどうやって生きていくのだろうか。


 日本の強大さを知らないスポイル大統領は、そんな的外れなことを考えているのだった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





西暦2020年1月上旬

???

???

01:13 現地時間






「敵歩哨確認……」


 暗闇の中で、小さくその声が聞こえた。

 ここは森のど真ん中である。木々や葉、そして夜故の暗闇で視界が非常に悪い。

 そんな中に4体の化け物が隠れ潜んでいた。


 今は暗くて分からないが、その体は人型で鋭角的で攻撃的なフォルムをしている。色彩は闇に溶け込むような黒。それらは銃火器や手榴弾、爆弾といった武器を武装しており、その武装量は一般的な兵士を遥かに超える。


 その人型達の通称は機動歩兵。一般にパワードスーツと呼ばれる兵装を装備した重装の特殊戦闘兵である。

 そのパワードスーツの名は18式機動兵装。パワードスーツであることには間違いないが、本質はまた別のところにある。


「全員、敵歩哨の予測ルートを避けて進むぞ」


 隊長らしき人物がそう命ずる。その声は予想以上に若く、むしろ成人すらしていないかも知れなかった。


「「「了解」」」


 そして、それに応える声も同様に若かった。この奇妙な連中は、機動兵装の頭部に搭載された複合型暗視装置から敵の情報を得て行動している。人の目に似た配置をされているデュアルセンサーが複合型暗視装置や生体センサーなどの複合的役割を果たしている。


 機動歩兵はやや大柄だ。中に入っているのは通常体格の人間であるが、新型軽量装甲を兼ねたフレームで覆った機動兵装を身に纏っているため、どうしても大きくなる。

 だが、その移動は並みの人間よりも俊敏で静かなものだった。まるで甲冑を着た武士が忍者をやっているような違和感すら感じるほどだ。


 視界の先にいた2名の歩哨は機動歩兵の存在に気づかずに去っていく。

 元より見えにくい暗闇、そして森林の中。歩哨達は赤外線ゴーグルをつけていたが、機動歩兵を見つけるには至らなかった。機動兵装には対赤外線迷彩が施されているからだ。

 バッテリーの問題から長時間の駆動は不可能であるが、何気にこういったシチュエーションでは便利なものである。4名の機動歩兵は歩哨達に見つからぬまま、先へと進んでいった。




 しばらく進むと木々の密度が下がっていく。


「そろそろ目標地点だ。気をつけろ」


 隊長がそう言う。全員、可能な限り身を低くした体勢だ。敵に見つかるのを全力で避けている。

 彼らの視線の先には、木々が途切れて、丘があった。そこには何らかの前哨基地が設営されており、周囲はコンクリートの壁やフェンスで囲まれている。

 どうやら五角形型をしているようで、角にはコンクリートの監視塔がある。そこには監視兵が入っており、基地内や外を監視している。


 こちら側には正面ゲートはなく、入口はない。正面ゲートがある方向に比べると警備は甘い。


「各員、武器を再確認」


 そう隊長が言うと、皆武器の確認を行った。彼らが装備しているのは日本軍の主力小銃の15式小銃丙型だ。

 15式小銃には甲乙丙の3種類が存在し、それぞれ5.56㎜NATO弾、6.8㎜ACP弾、7.7㎜JSA弾である。特に7.7㎜JSA(Japan-Standard-Ammo)弾を使う丙型は高威力を誇る。

 7.7㎜JSA弾は対人用であると共に対パワードスーツ用の銃弾でもあり、多少の装甲ならば容易く貫通できる。7.7㎜という口径に見合わないほどの高火力を有するのは、火薬量が多いからである。そのため反動が大きく、アサルトライフルとしての使い方は機動歩兵を含めたパワードスーツ兵でしか不可能だ。


 そしてここにいる機動歩兵4人は全員15式小銃丙型を装備している。他にもサイドアームに12.7㎜弾を使用する15式自動拳銃、各種手榴弾を持っており、弾薬も豊富だ。


「よし、全員確認は終わったな。……祐哉、俺についてこい。俺らであそこの監視塔を制圧する。お前ら2人はあそこの監視塔を制圧しろ」


「了解だぜ、蓮夜」


「「了解」」


 祐哉と呼ばれた機動兵装が隊長の名を口にしつつ頷き、他の2人も命令を承諾した。


「……よし。敵歩哨は来ていない。監視兵もこちらに目を向けてないな」


 隊長……もとい、如月蓮夜'候補生'はそう言うと、右手を上げた。


「ここからはハンドシグナルかインカムのみで意思疏通する。声を漏らすな」


『『『了解』』』


 直接の声ではなく暗号処理された通信でそう応える3人。声は既に機動兵装の外には漏れないようにされている。


「ゴー!」


 蓮夜の言葉と共に音もなく駆け出す4人。その速度は音が極端に小さいのにも関わらず人外的なものだった。

 これは機動兵装に内蔵されている電磁筋肉と衝撃吸収機構、足の裏の吸音タイルのおかげである。


 暗闇でなおかつ対赤外線迷彩を起動させた機動歩兵を見つけるのは至難の技だ。ナイトビジョンでも認識しづらい。


 4人は誰にも気づかれずに配置についた。蓮夜と祐哉は監視塔の真下の壁の死角。もう2人ももう1つの監視塔の真下の壁に張りついて死角に入った。


「制圧!」


 蓮夜はインカム越しに3人にそう言うと、自分はジャンプする。そのジャンプ力は機動兵装のアシストもあって、壁の上に飛び乗るには十分だった。祐哉も同じく壁の上に飛び乗る。

 監視塔は屋上に監視兵がいるだけの簡素な作りで、どうやら中は螺旋階段しかないらしい。

 そこから2人は再びジャンプした。そのジャンプは高く、監視塔の監視兵の眼前まで届いた。監視兵は3人いた。


 監視兵達は驚いた様子で身構えようとするが、それよりも早く空気の抜けたような連続音が鳴る。

 蓮夜達の持つ15式小銃丙型の発射音だ。銃口の先にはサプレッサーが装着されており、初速や威力が落ちるという弱点を孕みながらも減音してくれるというメリットをもたらしてくれる。



 ちなみに、サイレンサーとサプレッサーは同じものである。ただ、考え方の違いで呼び名が変わるのだ。

 それぞれを日本語にすると消音器と減音器。これらは銃の音を小さくしてくれるものだ。だが、完全に消し去るわけではないため減音器、つまりサプレッサーが正しいという人もいる。

 まぁ、基本的にどちらでも通じるのでどうでもいい話であるが。閑話休題。



 3人の監視兵は何もできぬまま倒される。蓮夜と祐哉の射撃は恐ろしいほどに正確だった。

 2人はそのまま監視塔の屋上に飛び乗り、身を潜めた。監視塔は高いが故に見晴らしが良いが、それは同時に敵に見つかりやすいことも表す。


 蓮夜はちらっと横を見る。そこには別の監視塔の制圧を完了した部下の姿があった。

 距離はかなり離れているものの、ARMSアームス(拡張現実型戦闘サポート)システムを搭載している機動兵装によってマーカーが付けられており、視界端には装着者である蓮夜の意思を汲んでズーム映像も映されていた。

 この装着者の意思を汲むのもAR(拡張現実)技術の賜物である。


「俺と祐哉は作戦目標アルファを遂行する。純平と健は脱出手段の確保と陽動の準備を頼む」


『『『了解』』』


 3人は同時にそう返答する。


 この部隊は隊長として如月蓮夜 候補生、部下として高橋祐哉 候補生、白井純平 候補生、水野健 候補生を据えた4人の部隊である。機動歩兵の小隊の定員は4人と規定されているため、人数的には何らおかしなところはない。

 問題は、正規兵ではなく候補生である彼らがどこで何をしているかということであるが、それはじきに分かるだろう。


 蓮夜と祐哉は螺旋階段で下に降りた。別にそのまま飛び降りることも可能なのだが、いくら機動兵装に吸音装置が装備されているとはいえ、余計な音が漏れることがないように考慮せねばならない。それ故の判断だった。


「こっちだ、行くぞ」


 蓮夜と祐哉が向かったのは基地通信施設だ。

 道中には監視カメラやオートセントリー機銃、歩哨がいたが、2人は暗闇や対赤外線迷彩、監視の間隙を突くなどをして通り抜けていく。この一連の要領から、2人の練度がどれ程の域に達しているかが分かるだろう。

 やがて、2人は停まっている軍用トラックの陰に隠れた。


「ここだ」


 蓮夜は視線の先の建物を見てそう言った。まるでコンクリートで出来たサイコロの如きシンプルな形状の上に通信用アンテナがついている。余計な装飾がないところが如何にも軍らしい。


「歩哨2人。排除する。祐哉、右の奴を頼む」


『分かった』


 敵兵は入口の左右に立っていた。監視カメラはない。2人は15式自動拳銃を構える。15式小銃では貫通力過多で、後ろの壁も穿ってしまう可能性を危惧したためだ。


「……撃て」


 15式小銃丙型と同じくサプレッサーを装着した15式自動拳銃から12.7㎜弾が放たれる。大口径高威力だが貫通力は低いこの銃弾は、2発ともそれぞれの敵兵の頭を粉砕した。脳漿と血液が飛び散り、ひしゃげた鉄帽が地面に落ちる。

 頭部の上半分を失った2人の敵兵は力を失ったように倒れた。


「急ぐぞ」


 交代要員などに来てもらってはまずい。これほど派手に死んでいるのだから、すぐに見つかるだろう。

 とはいえ、任務はすぐに終わる。


 

 2人は通信施設内に侵入。中では1人の通信兵が眠りこけていたので、祐哉がその喉笛をナイフで掻き切る。

 その間に蓮夜は通信ネットワーク端末にUSBメモリーを繋げる。これに入っているのはウイルスである。


 USBメモリーに入っていたウイルス情報を全部、通信ネットワークに送り込んだのはそれから1分後であった。USBメモリーを回収してから蓮夜は祐哉に向かって口を開く。


「完了だ。すぐに集合予定地点へ向かうぞ」


『了解だ』


 2人はそっと通信施設から出ていく。

 敵の目を掻い潜りながら急いで集合予定地点へと向かう。そろそろ死体が見つかっても不思議ではない。


 集合予定地点は正面ゲート近くの車庫の中だ。純平と健が車両を確保している筈だった。


 2人がそこへ到着すると、準備万端の様子で軽機動車に乗る2人の姿があった。


『遅かったやん、蓮夜』


『待ちくたびれたぞ』


 関西弁で話すのは純平。少々固めの口調なのが健だ。


「悪かったな。じゃ、さっさとずらかるぞ」


 後部座席に乗り込みながら言う蓮夜。祐哉は軽機動車の上部に装備されている12.7㎜重機関銃のガンナー席に座る。


『んじゃ、行くで』


 運転席に座る純平がエンジンをかける。それと同時に、健が手に持った起爆装置のボタンを押す。

 すると、大きな爆発音が基地のあちこちから聞こえ始めた。


「おい……どんだけ仕掛けたんだ?」


 思ったよりも大きな爆発音に蓮夜が健にそう訊ねた。


『そうだな……。燃料庫や弾薬庫、おおよそ爆発物があるところにはけっこう仕掛けたぞ』


「仕事が早すぎる……」


 蓮夜は称賛するようで呆れているようでもあるような声音でそう呟いた。

 この爆発は脱出時の陽動のために引き起こした爆発だ。爆弾を仕掛けたのは純平と健である。彼ら2人の仕事の早さは予想以上だったが、蓮夜はこれまでの付き合いから彼らが優秀であることは知っていたため、細かくは気にしないことにした。


『ほらほらお客さん! 黙っとらんと舌噛むで』


 純平がそう言いながら、フルスロットルでアクセルを踏んだ。

 急加速する軽機動車。

 車庫のシャッターを吹っ飛ばして外に出た軽機動車はそこで急カーブを行い、進行方向を正面ゲートに向ける。その際、ガンナー席の祐哉が吹っ飛びそうになって、『ちゃんと運転しろぉ!!』と抗議していたが、そこは皆スルーである。


 正面ゲートにいた兵士達は突然の爆発に加えて、車庫を飛び出してきた暴走車両を前に混乱状態に陥っていた。


『おらおら退けやぁ!!』


 暴走族のような台詞を吐く純平が駆る軽機動車がゲート近くにいた兵士の内の1人を撥ね飛ばして基地から出ていく。


 蓮夜が後ろを見ると、基地のあちこちから火柱が立っているのが見えた。連鎖爆発も起こしているようで、これでは陽動というより本格的な空爆に近い被害が出ているのではないだろうか。


「……爆弾魔め」


 蓮夜は、普段は真面目だが爆弾を使う時だけは暴走してしまう健が陰でつけられてしまった渾名を口にした。

 ちなみに、純平は暴走族、祐哉がチャラ男、蓮夜がTHE無愛想である。どれも特徴をよく捉えた渾名だ。




『仮想空間訓練プログラムT-14の終了を確認。全隊員のログアウトを開始します』




 そんな女性の機械音声が聞こえると、蓮夜達の意識はすぅーっと途切れてしまった。








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