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交錯世界の旭日旗  作者: 名も無き突撃兵
第一章 フィルディリア大陸動乱編
14/29

第7話

なんか筆が進んでいつもより長めになりました。

でも勢い任せなので、もしかしたら文が荒いかも……。



神聖暦709年(西暦2021年)3月10日

フィルディリア大陸中西部 フォルワナ共和国勢力圏

フォルワナ共和国軍野戦司令部

00:11 現地時間






「ふわぁ……」


 そんな可愛らしい欠伸をするのは、小動物的な美少女。フォルワナ共和国国立レイレダード女学院の生徒であるエリナ・オリエーナだ。

 彼女を含め、国立レイレダード女学院の生徒らは後方支援の手伝いとしてフィルディリア大陸に来ていた。そして今、エリナは野戦司令部で様々な雑用を行っている。


 内容は多岐にわたり、炊事や食事の配膳、伝令、手作業での物資運搬(早い話が荷物持ち)など、本当に雑用ばかりである。


 国立レイレダード女学院の生徒が配置されたのは野戦司令部だけではない。もっと前線に近いアレーナ航空基地やブラヴィル航空基地などにも配置されている。

 そして、国立レイレダード女学院以外にも様々な国立学校から生徒が集められ、同じく雑用に従事している。


 そしてこの国への奉仕は楽なものではなかった。朝5時には起きて朝食の準備をし、夜は日が変わるまで寝られない。一部の人は、朝食の準備の免除の代わりに夜食をこしらえたりする。軍人達にも夜通し起きている人達がいるので、その分の食事である。


「あ~……しんどすぎるわ」


 エリナの友人であるシェリア・トライアはウンザリしたようにぼやいた。彼女達は休憩所で休憩をしていた。

 野戦司令部は野戦の名がついている通り、ほとんどキャンプみたいな施設だ。森の中の一部を切り拓いて土地を確保し、そこにテントや塹壕を設営して司令部にしている。本当に'野戦'色の強い場所である。

 彼女らが休憩している休憩所にしても、塹壕の一部を利用したものだ。なかなかワイルドな休憩所である。彼女達の可憐さとは不釣り合いなほどに。


「シェリアちゃん、もうちょっと頑張れば寝られるから」


「分かってるわよ……」


 今回、2人は夜食組だった。夜食組は夜の2時辺りまで働かされるものの、朝起きるのは9時頃でいい。睡眠時間は他の者よりも2時間ほど多く取れるので、実はけっこう人気である。


 シェリアを励ますエリナだったが、彼女の不満も理解できた。実際、かなりハードである。


「ふん……。愛国心の欠片もない奴だな」


 シェリアを小馬鹿にするような声が聞こえ、2人して休憩所の入口を見た。


「うげ、出た」


「あ……ルーデル……」


 そこに立っていたのはエリナの友人であるルーデル・シュトライヒ。金髪緑目の少年だ。顔立ちも悪くなく、むしろ良い方だ。だが、その表情は人を小馬鹿にしたようなもので、好感を抱けるようなものじゃない。


「祖国の栄光のために働くのがそんなに嫌なのか? 売国奴が」


「環境に不満を抱いただけで売国って頭おかしいんじゃないの?」


 シェリアとルーデルの間で火花が散る。シェリアは割とドライな性格をしており、祖国に対する敬意も最低限しか持ち合わせていない。一方のルーデルは典型的な愛国少年であった。


「け、喧嘩はダメだよ!」


 エリナの考え方はシェリア寄りだが、こんなところで喧嘩しているのを軍人に見られるのはいろいろとマズイので、仲裁に入った。

 今ここにいるのはエリナ達と同じ夜食組の生徒達だけだったのが幸いだ。もし軍人に見られたら、説教を延々とされてしまう。前線で同胞が命を懸けているのに云々と。


「「ふん」」


 両者とも説教タイムは嫌なのか、渋々だが矛を収めた。だが、しばらくしてシェリアはルーデルに話しかけた。


「……アンタは何も見なかったの?」


「何をだ?」


「ここに来る途中の光景。私達が圧政から解放したって思っていた現地の姿」


 シェリアが言っているのは、植民地である西フィルディリア大陸諸国の現状だ。

 祖国では圧政から解放された現地住民達は歓喜をもってフォルワナ共和国軍を迎え入れたと教えられた。だが、現地で見たものは違った。

 皆が暗い顔をして歩いていた。時折、こちらを睨むような視線すらも感じた。どう考えても歓迎されていない。

 極めつけは、車両で運ばれている間、ちらりと見えたリンチの現場。建物と建物の間の人通りの少ない路地で、フォルワナ共和国軍兵士が遊び半分で現地住民をボコボコにしていたのだ。


 それを見たエリナとシェリアは、今の共和国の在り方に疑問を持ち始めるようになった。大半のフォルワナ人は気にしないことだが、彼女達は気になった。いや、2人だけではない。他にも植民地の現実を知った者達の中には疑問を持ち始める者もいた。


「話で聞いていたのとは違う……。明らかに、現地の人達は私達を恨んでいた」


 シェリアの言葉を聞いたルーデルは鼻で笑った。


「だからどうした? ゴミみたいな野蛮人がいくら死のうが関係ない。俺達、優等人種たるフォルワナ人の糧となるんだ、劣等人種としては泣いて喜ぶべき至上の名誉だろう」


「………………」


 その言葉を黙って聞く2人。ルーデルの言葉は傲慢に満ちていた。フォルワナ人の中でも過激な意見であるが、珍しいものではなかった。エリナやシェリアの方がフォルワナ人としては少数派なのである。


 フォルワナ人の中で祖国の在り方に疑問を抱く者にはいくつかタイプがある。

 1つは外国人と関わることが多い人間。これは他国の文化に触れることになるため、ある意味で当然である。

 もう1つは穏やかな気性の人間や物事を客観的に見ることのできる人間。これはエリナとシェリアが相当する。

 そして最後に祖国の現実を知ってしまった者。


 それ以外は特に疑問を抱くことはないだろう。それがフォルワナ人の現実である。


「そんなことよりも、だ。聞いて喜べ。さっき兵士から聞いた話だが、ドートラス首長国とルアズ王国の防衛線を突破したそうだ。まさにフォルワナ共和国は最強! 敵なしだな!」


 ルーデルが嬉々として語るのをまたもや黙って聞く2人。エリナもさすがに彼を好意的に解釈することはできなかった。

 ……まぁ、確かに祖国が勝っているのは喜ばしいことなのかもしれない。だが、その先に待っているのが自分達の見た光景であると思うと、あまり喜べないエリナとシェリア。



 そんな彼らの前に日の丸を掲げたフォルワナ史上最強最悪の敵が立ち塞がる時が、刻一刻と迫っていた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





西暦2021年3月10日

ドートラス首長国 西部

上空

06:08 現地時間






 朝焼けの空を鳥が飛んでいた。否、それは鳥と呼ぶにはあまりにも巨大で、あまりにも速く、あまりにも硬質的だ。

 F-15J『イーグル』。それがこの鳥……戦闘機の名前だった。


 この戦闘機の開発は史実とは違い、日本が途中参加した日米共同開発機である。当時、双発の大型制空戦闘機を欲した日本と、日本の技術や開発資金分担を望んだアメリカの思惑が合わさった結果だ。

 共同開発によって開発終了に時間がかかったが、史実よりも幾ばくか高性能に仕上がっている。

 運用開始から既に40年以上経過しているが、度重なる近代化改修によって、相手がステルス機でなければ未だに確固たる優位性を誇る機体だ。


 それが4機、編隊を組んで飛行していた。高度は10000m。速度は巡航速度のM0.9。


『こちら『クインビー』。『ブルーム1』、貴隊より方位260、距離120に敵飛行隊。高度5000、数は15。撃墜せよ』


「こちら『ブルーム1』、了解」


 後方を飛ぶAWACSからの指示に『ブルーム1』こと永瀬良樹ながせ よしき 少佐はそう返答した。

 日本空軍では飛行隊ごとにコードがつけられる。永瀬 少佐が率いる第114飛行隊のコードは『ブルーム』だ。

 その第114飛行隊の現在の任務は、小隊ごとに別れ、飛行している敵機を撃墜することだ。


「聞いたな、野郎共? 狩りを女王陛下は望んでおられるぞ」


 永瀬 少佐は指示してきたAWACSのコード『女王蜂クインビー』から、そんなことを言った。


『2、了解です。ですが、それだと我々は獲物じゃないですか? 『ブルーム』ですし。働き蜂がどいつかは知りませんがね』


「細かいことは気にするな『ブルーム2』。ハゲるぞ?」


『ハゲませんよ! なんてこと言うんですか!』


『『クインビー』より『ブルーム1』。無駄口叩いていないでさっさと仕事をしろ』


「おお、怖い怖い。『ブルーム1』了解。各機、AAM-4を使用する」


『『『了解』』』


 日本空軍が誇る高性能中射程空対空ミサイルAAM-4。中射程と侮ることなかれ、このミサイルの射程は100kmを超える。さらにはその命中精度。開発段階から異常な命中率を叩き出し、標的機に直撃ばかりするので近接信管のテストが思うように進まなかったという逸話を持つ(史実の話)。


「よし、『ブルーム1』交戦!」


『『ブルーム2』交戦!』


『『ブルーム3』交戦!』


『『ブルーム4』交戦!』


 4機が交戦に入る。敵機はまだ気づいていない。AWACSによるデータリンク情報から敵機の正確な位置が伝達され、それに基づいて敵機をロックオンする。

 既に敵機との距離は100kmを切った。とっくに射程内である。


「『ブルーム1』、ミサイル発射」


 永瀬 少佐は操縦桿のボタンを押した。選択された武装であるAAM-4が発射される。

 機体胴体下部に搭載されているAAM-4は機体から一瞬自由落下し、ロケットモーターを点火して急加速する。

 この時、パイロットは本当にミサイルが発射されたのか一瞬不安になることがある。

 翼下のレール型ランチャーだと、ボタンを押した瞬間にミサイルはすっ飛んでいく。一方で胴体下部に搭載したミサイルはロケットモーター点火までタイムラグが生じる。それが原因だ。


 各機2発ずつ、計8発のAAM-4が敵編隊に向かっていく。


 ……まだ敵は迫りくる死に気づいていなかった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 この日の朝。フォルワナ共和国空軍は散発的な空爆を続けていた。

 先日、ドートラス首長国及びルアズ王国の防衛線を突破したフォルワナ共和国陸軍だったが、まだ散発的な抵抗が各地で起きており、両国西部を制圧できたとは言い難い状況だった。

 そのため、フォルワナ共和国空軍は連日空爆を行っているのだ。




「……全く。さっさと降伏すればいいものを」


 バルツァー少佐はそう呟いた。

 彼の率いる第23飛行隊は空爆による陸軍支援の任を負っていた。先日撃墜されたリエード少尉の機体を除いた15機が編隊を組んで飛行している。

 翼下には300kg爆弾を計2発搭載しており、これで敵部隊を上空から襲いかかる。敵にはまともな対空兵器はなく、この任務は比較的安全なものである。


 しかし、バルツァー少佐は油断しようとする己の心を強く律した。その結果、フォルワナ共和国空軍は予想外の損害を受けたのだから。彼自身も部下を失った。


 軍上層部は、予想外の損害についてお冠であったが、それは油断云々よりも派閥闘争や自己の影響力のためだ。前線で死んでいく兵士達に興味など持っていない。


「………………」


 バルツァー少佐は虚しい気分だった。仲間は何のために死んだのか。そこは自信を持って祖国のためだと思いたかったが、素直にそう思えなかった。


 そんな感傷に浸っていることこそが、彼が戒めたはずの油断だったのだろうか。

 思考の渦から現実に戻った数瞬の後に、周囲の味方機……部下達の機体が突如として爆散した。


「なにッ!?」


 一瞬だけ混乱し、すぐに敵の攻撃だと判断する。


「生き残った各機は散開しろ!」


 慌てて生き残った7機の『ルガード-10』が散開する。

 バルツァー少佐は生き残った機体が自分を含めて7機だけだということに戦慄を覚えた。一瞬で部隊の過半数が撃墜されたのだ。そんな攻撃、見たことも聞いたこともない。


「どこだ!?」


 攻撃を仕掛けてきた敵を探し回るものの、敵らしき影は見えない。


「どこから攻撃してきたんだ!?」


 バルツァー少佐は姿の見えない敵に恐怖すら覚えた。敵をここまで恐れたのは初めてである。


「くそ! 各機、爆弾を捨てろ! 基地へ逃げるぞ!」


 バルツァー少佐は僚機にそう命じるが、部下達からは反対の意見が出た。


『仲間をやられたまま帰るんですか!?』


『せめて仇を!』


「ダメだ! 敵は正体不明! 攻撃方法も不明だ! 戦っても殺されるだけだ!」


 バルツァー少佐はそう言った。そこで部下の1人が無線を通して叫んだ。


『隊長! 東から何かが飛んできますッ!! 』


「何!?」


 バルツァー少佐は東の方角を見た。

 何も見えない。

 少し見上げてみる。


「何だあれは……?」


 まだ遠いが、正体不明の飛行物体が7つ飛んでいた。それらはどうやらこちらに向かって降下してきているように見える。

 それらは機動を修正しながらこちらに真っ直ぐ高速で突っ込んできた。


「ッ!! 回避! 回避!」


 バルツァー少佐はそう叫びながら操縦桿を思いっきり引いた。僚機も各々に回避行動を取る。


 だが、ソレ……第2派のAAM-4は寸分違わず狙った獲物を食いちぎった。


「バカな……ッ!!」


 それがバルツァー少佐の辞世の句となった。彼は愛機の『ルガード-10』と共に、近接信管によって炸裂したAAM-4の破片をまともに食らって粉砕された。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






『こちら『クインビー』。敵編隊の撃滅を確認。『ブルーム1』とその僚機は基地へ帰投せよ』


 敵機15機を瞬く間に殲滅した永瀬 少佐の飛行隊に対してAWACSの管制官はそう命じた。


「まだAAM-5は残ってるぞ?」


 1機当たりAAM-4とAAM-5を4発ずつ積んでいたため、まだAAM-5は16発、AAM-4は『ブルーム4』に1発だけが残っている。

 AAM-5は短射程空対空ミサイルで、パイロットが被っているHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)と連動して真横にいる敵機を狙えたりするミサイルだ。パイロットの視界の先にいる敵を狙えるのである。


『既に攻撃隊の侵入路は確保した。残りのハンティングは『スピア』が引き継ぐ』


「了解した。各機、巡航速度にて基地へ帰投する」


『『『了解!』』』


 4機のF-15Jは機体を翻して朝陽の方向へと向かう。

 日本軍による反撃はまだまだこれからである。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






『こちら『クインビー』。『ブルーム』が侵入路を確保した。『ドライアド』は低空を維持して敵勢力圏に侵入せよ。貴隊の援護は『スピア』が行う』


「了解。これより侵入を開始する」


 夏目勇なつめ ゆう 少佐は愛機であるF-2Aを駆りながらAWACSの言葉にそう応えた。


 F-2もF-15同様に開発経緯が史実とは異なる。F-15開発の結果に味をしめたアメリカは、続くF-16の開発においても日本に共同開発を求めた。日本もそれに応じ、日米の共同開発が始まった。

 しかし、日本とアメリカでは要求性能が異なっていた。アメリカは安価でF-15の補佐的役割を持つ軽戦闘機を欲していた一方で、日本は多少高価でもいいから対艦攻撃能力と空戦能力が両立している機体を欲していた。


 結局、完成したF-16はアメリカの思惑通りの機体となってしまったが、日本はF-16の研究データや開発データを流用してF-2を開発した。F-16本来の低コスト性は失われたものの、対艦ミサイルを4発ぶら下げて長大な戦闘半径を発揮できる機体となったF-2を見たアメリカ人技術者は呆然としていたそうな。

 そしてアメリカへの意趣返しのつもりなのか、レーダーは当時日本しか実用化できていなかったAESAレーダー、エンジンはF-16のものより高性能な国産エンジンを積んでいた。


 最終的にF-2は高性能な機体に仕上がったものの、共同開発の暗黒面を知った日本は以後、共同開発に慎重になるのだ。


 ちなみに、史実とは違ってF-2には『蒼涙』という愛称と『ヴァイパー』という外国向け愛称が公式に存在する。


 閑話休題。



 『ドライアド』……第207飛行隊の目標はドートラス首長国に侵入した敵の大規模陸戦部隊……ではない。

 彼らの目標は旧ドリアナ王国領内の敵航空基地。ブラヴィル飛行場である。

 北部のアレーナ飛行場には別部隊が向かっている。


 既に空中給油を済ませた16機のF-2Aは低空を亜音速で飛び抜けていた。遠方には山脈が見える。そこを越えるとブラヴィル飛行場だ。遠方とはいえ肉眼で確認できるのだ。もう大分近づいているのだろう。


「『ドライアド1』から各機、作戦目標を再度確認する。A小隊は誘導爆弾で敵対空陣地の撃滅。B小隊はクラスター爆弾で滑走路を使用不能にする。C小隊、D小隊は基地施設を徹底的に叩け。近くには街がある。そこには間違っても被害を出すな。OK?」


 永瀬 少佐はそう確認した。


『『ドライアド5』、B小隊は了解』


『『ドライアド9』、C小隊了解』


『『ドライアド13』、D小隊同じく』


 各飛行小隊長から返答。問題ないようだ。


「『ドライアド』全機、交戦を開始する」


『『クインビー』了解。上空に敵機なし。存分にやれ』


 山脈が迫ってくる。『ドライアド』各機は機首を上げて山脈を越える。


「あれか……」


 夏目 少佐は前方を睨む。流れ行くディアルナス大河の付近にブラヴィル市が存在する。その郊外に上空からは一際目立つ飛行場。それがブラヴィル飛行場だ。


「2、3、4。俺に続け。他の小隊は各小隊長の命令に従え」


 『ドライアド』各機は小隊ごとに散開する。

 夏目 少佐が率いるA小隊は敵対空陣地の撃破だ。

 HMDのバイザーに表示される複数のコンテナマーカー。それがターゲットである。


 敵はこちらの存在に気づいているのかは分からないが、少なくとも対空砲火は上がってこない。


「行動が鈍いぞ、侵略者共」


 そんな呟きと共に夏目 少佐は操縦桿のボタンを押した。F-2Aの翼下に搭載されていた誘導爆弾が誘導信号に従ってコントロールされた落下を始める。

 他の機も爆撃を開始したようだ。


 誘導爆弾はほとんど誤差なくターゲットに着弾する。


 眩い爆発。どうやら弾薬に誘爆したらしい。対空陣地どころか、周囲にあったトラックなどの車両もまとめて吹っ飛ぶ。


 それと同様の爆発が基地のあちこちで発生する。ブラヴィル飛行場の防空システムは役割を果たす前に機能を失った。


 夏目 少佐は敵の対応の遅さに幾ばくかの失望を覚えた。

 敵は格下だ。フォルワナ共和国軍の連中はそう考えていたようだが、万が一の備えや気構えも十分にしないとは。そのせいで対空陣地は1度も火を噴くこともなく無力化されている。


 そんな思考に入っていた夏目 少佐の視界の端で派手な爆発が起きた。


 B小隊がクラスター爆弾を投下したのだ。

 クラスター爆弾は地面のすぐ上空で炸裂し、無数の子弾を撒き散らす。その子弾が滑走路を畑のように耕した。

 滑走路だけでなく待機場エプロンにもクラスター爆弾の猛威が振るわれる。発進しようとしていたフォルワナ共和国軍の戦闘機をパイロット諸共粉砕し、逃げ惑うフォルワナ兵を吹き飛ばす。


 さらにC、D小隊が基地施設への攻撃を始める。爆撃を受けた管制塔がポッキリとへし折れ、機体格納庫から火柱が上がる。

 燃料タンクや弾薬庫にも空爆は行われ、街の方にも衝撃波が届くような大爆発が発生した。

 戦闘機のコクピット内にいる夏目 少佐の耳にも爆発音が聞こえるほどだ。近くにいる人間は耳から血を流しているのではなかろうか。


「いや、その前に死んでいるか」


 衝撃波をモロに受けてミンチ肉になっていることだろう。耳から血を流す云々どころじゃない。


 ふと眼下を覗くと、十数台ものトラックが飛行場から逃げ出している姿が見えた。


「逃げ足だけは早いな……。2、3、4。基地南部の逃走中の車列を狙う。俺に続け」


 呆れたように呟きながら、夏目 少佐は大きく機体を旋回させてトラックへと機首を向ける。


「『ドライアド1』、アタック・ガン」


 F-2Aの右の機首の付け根に備え付けられたJM02 20㎜機関砲が火を噴いた。M61バルカン砲よりもやや少ない毎秒45発の死のシャワーが車列に襲いかかった。

 非装甲目標であるトラックは20㎜機関砲弾によって次々と吹き飛び、大量の残骸や中にいた人間の肉片を撒き散らしながら大破する。


「ふん……」


 夏目 少佐は戦果を確認して鼻を鳴らした。特に何かを思うこともなかった。

 さらに2番機、3番機、4番機が同じように機銃掃射を行う。さらなる攻撃によって、辛うじて生き残っていたトラックや将兵達も根絶やしにされていく。若干オーバーキル気味だったが、敵は殲滅した。


 夏目 少佐は機体の高度を上げて全体を見下ろした。ブラヴィル飛行場はその機能のほぼ全てを失っていた。作戦は完了である。これで一帯の制空権は日本の手に渡った。

 アレーナ飛行場にも同様の攻撃をほぼ同時に行っている。これでフォルワナ共和国空軍はルアズ王国とドートラス首長国に侵入した友軍を助けることはできなくなった。


 この時点で、フィルディリア大陸中部はフォルワナ共和国軍の屠殺場と化したのである。


「各機、任務は完了した。『ドライアド』、全機帰還する」


『『クインビー』了解。基地に帰投し、次の任務を待て』


 夏目 少佐は気を引き締める。戦争はこれからだ。これから忙しくなるのだ。

 『ドライアド』のF-2A 16機は東へと機首を向けた。空域は確保したので、高度を取って巡航速度で帰投する。





 次に血が流れたのは海だった。







F-15やF-2の開発経緯は割と無理矢理構築しました。少々変に感じるかもしれませんね。でも、F-15とF-2出したかったんです!(迫真


てか、本来戦闘機パイロットって本話の『ブルーム』みたいに無駄口喋るんでしょうかね?

自分でも少し疑問に思ってみたり。


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