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交錯世界の旭日旗  作者: 名も無き突撃兵
序章 日本転移編
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第1話

趣味と暇潰しの範囲で頑張りますので、過度の期待は御容赦ください。







 日本は太平洋戦争に'辛勝'した。ギリギリの戦いであり、日本の思惑から外れつつもどうにか目的を果たしたのである。

 1943年8月15日、日米は講和に合意した。日本はこれ以上の戦争が自国に大きな影を落とすことを理解し、アメリカも日本の予想以上の大進撃と、ドイツの史実以上の急速な肥大化により、太平洋戦争に関しては落とし所を模索していたところなのだ。無論、日本の諜報活動による世論操作に一定の効果があったという理由もあったが。


 日米の講和内容は、日本軍が占領したハワイ諸島の返還、日本がドイツとの同盟を解消すること、日本の東アジアでの権益をアメリカは認めること、太平洋で元々アメリカのものだったものの一部は有償返還すること、などで合意した。

 日本が占領した太平洋での島々がアメリカに返還されることに関しては国内から反発があったものの、有償だということである程度は落ち着いた。



 その後の日本は、史実以上の躍進と発展を見せた。

 日米講和後、日本は講和条約に則ってドイツとの同盟を解消した。それと同時にユダヤ人の保護政策を行った。

 これがアメリカの知識層や金融業界の上層部に高い評価を受けた。アメリカの知識層や金融業界のトップにはユダヤ人が多いからだ。

 世論は日本に徐々に好意的となり、第二次大戦終結後には日米関係はある程度修復されていた。


 そして、それは共通の敵が現れたことから確固たるものとなった。その共通の敵とは、ソ連のことである。ソ連による赤化と南下政策を快く思わない日米は、共同してソ連に対抗した。

 そして史実以上の激しい冷戦が発生するのだった。

 そして、それはまた史実以上の科学技術の発展を世界が遂げることも意味していた。


 日本は史実を遥かに超える絶大な発展を遂げていく。国力、技術力、経済力、軍事力とあらゆる面において。


 そして1972年には大日本帝国から正式に日本国へと国家名称を変更した。帝国主義ではないことや、より高度な民主化を求められた結果である。


 そのまま、日本は歴史の荒波に揉まれながらも強い日本として発展を続けていった。



 そして2020年元日。年が変わったその瞬間に、日本は前代未聞、原因不明の大災害に見舞われた。

 ファンタジー系のネット小説などでは、定番とも言える言葉が日本の各所で災害の名前として使われることとなる。


 それは『異世界転移』。日本は領土や国民ごと、新たなる世界へと飛ばされてしまったのである。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 転移後の日本の状況は思わしくないものであった。

 突然の国家規模の大災害。日本国民の混乱は一時期相当なものとなった。天皇陛下の平静を呼びかけるテレビ放送がかかると途端に冷静になるところは流石であるが。


 この日本は高い科学力により、多くの面で自己完結できる国家基盤を形成している。

 日本の食料自給率は多くの品目で100%を超えていた。質を重視する姿勢はそのままに、大規模促成栽培プラントシステムの導入と企業参入によって効率的な食料生産が行われているのだ。

 エネルギー資源に関してもそうだ。日本は新世代エネルギーとして核融合炉や藻製バイオ燃料を実用化し、海底からはメタンハイドレートを採掘していた。これにより、むしろエネルギー輸出国となっていたのである。


 しかし、いくら高い科学力があっても何ともならないことがある。

 それが鉱産資源を始めとする各種資源だ。植物性のものならば、大規模促成栽培プラントシステムの利用で調達することが可能だ。しかし、鉱産資源ではそうはいかない。

 現状、最先端のリサイクル技術を駆使して資源の再利用を行いつつ、備蓄分を切り崩す方策しか取りようがない。それは遠くない未来に破綻することは目に見えていた。


 目下の日本の目標は、資源供出源を確保することであった。


 だが、それ以外にも当然問題はある。それをいち早く解決するためにも、日本の内閣は閣僚会議を開こうとしていた……。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




西暦2020年1月上旬

日本国 東京

首相官邸 閣議室

10:44 JST






 閣僚達の集まった首相官邸の閣議室。そこで政治家としては若い部類に入りそうな外見の男が口を開いた。


「皆さんを集めたのは他でもありません。この未曾有の事態にどうやって対応するかを検討するためです」


 彼の名は阿賀野あがの和明かずあき。日本が開発した老化抑制技術による処置を受けているとはいえ、実際に政治家としては若輩に位置する年齢である。

 老化抑制技術はテロメアの破損やその他の事象で引き起こされる老化を遅れさせる技術で、これによる処置を受けることを日本国民は義務づけられている。


「前置きはここまでにして、早速話を進めましょう。官房長官、国内状況について報告を」


「分かりました」


 そう答えたのは菅原すがわら健司けんじ官房長官。少々くたびれた雰囲気のある男であるが、失言をせずに淡々と仕事をこなす有能な人間である。


「現在、日本の経済は停滞気味です。やはり将来への不安が原因であると思われます。また、鉱産資源の問題も深刻です。1年以内に各種資源供出源を確保しなければ、備蓄分が枯渇します。どれだけリサイクルを徹底しても、やはり厳しいものがあります。一方、バイオ燃料の生産や核融合炉の稼働、メタンハイドレートの採掘状況は大丈夫です。むしろ、メタンハイドレートの採掘量が急激に増えている場所もあるという報告が上がっています」


「なるほど……。やはり資源ですか」


「はい。無資源国家の悲しい宿命です。海底にはあるのでしょうが……」


「技術は確立していますが、今からやっても時間がかかりすぎます。後回しにしてきたのが悔やまれますね……」


 阿賀野 総理は後悔するように言う。だが、仕方ないのだ。誰が日本列島が異世界に飛ばされてしまうと考えるのか。


「あと、危険思想を持った在日外国人……とりわけ、朝鮮系や中国系の動きが見られたので、何らかのアクションを起こされる前に秘密裏に処理しました」


「ありがとうございます。ご苦労様です」


 この日本にも外国人反日活動家が存在する。そのリーダー格が日本に不満を持つ外国人、とりわけ特亜の人間を煽動する前に動けなくしておいたのだ。

 その方法についてはご想像にお任せしよう。まぁ、ロクでもない方法であることには間違いない。


「では、次に滝田 国防大臣。軍による偵察の結果をお聞かせ頂けますか?」


「了解した」


 低いバリトンボイスが閣議室に響いた。国防大臣を務める彼の名は滝田たきだ龍一郎りゅういちろう。初老の大柄な男性で、歴戦の風格を漂わせる武人のような男だ。実際、彼は日本陸軍特殊部隊の出身で、年齢と階級で前線部隊から退かねばならなくなった時に自ら軍を辞めて政治家に転身した男だ。

 彼のような人間はそれほど珍しくなく、国会議員には数名の元軍人の政治家が存在している。


「偵察衛星とのリンクが回復したため、衛星写真を撮ることに成功した。これが写真だ」


 そう言って手元の電子パッドを操作する。すると、壁に取り付けられている巨大なスクリーンに画像が表示された。


「これは……」


 阿賀野 総理を含め、この場にいる人間は思わず息を呑んだ。

 その画像は新世界を撮った衛星写真を合成し、世界地図にしたものだった。そして、その世界地図に写されていたものは息を呑むのに十分なインパクトを備えていた。


「陸が……少なすぎやしませんか?」


 阿賀野 総理は捻り出すようにそう言った。

 本来、地球の陸海比は3:7である。しかし、スクリーンに映るその世界地図は、陸海比が1:9……いや、それよりも陸が少ないかもしれないと思うくらいに海ばかりだった。


「我が国の西1000kmにオーストラリアを二回りほど大きくしたような大陸があり、その周辺に小さな島々がある。そして我が国の南方、沖縄から南に400km地点にも大きな島がある。それだけだ」


「ふむ……。文明の有無は?」


「西の大陸には近代文明らしきものが存在しているのを確認している。画像を出す」


 次にスクリーンに移されたものは、地上を拡大して撮影したものである。


「……なるほど。少なくとも人類が存在し、近代的な文明を築いているのは明白ですね」


 そこには街があった。日本ほど発展はしていないが、電気が通っているし内燃機関も発達しているのか車も走っている。


「推測するに、技術レベルは1930年代。つまり、第二次大戦前辺りだな」


「なるほど。……そうなると、ある程度は砲艦外交を行った方がいいのでしょうか?」


 その頃は帝国主義が罷り通っていた時代である。今でも砲艦外交は存在し、実際によく行われてはいるが、この時代ほどではない。

 舐められては終わりである。それはいつの時代、どの地域でも同じことだ。


「……地球と完全に同一視はできないと思うが、文明は科学技術に左右されることが多い。砲艦外交を考えておくべきだろう」


「分かりました。……あまりやり過ぎると嫌われそうですけど」


「そこら辺の匙加減は慎重にするべきだろうな」


 こちらの力を見せつけるのはいいが、それで相手が日本と距離を置こうとするのもよろしくない。日本としてはビジネスパートナーが欲しいのだから。


「それとあと、南方の島について説明してください」


「分かった。島の衛星写真がこれだ」


 スクリーンの画像が変わり、島の衛星写真が映された。

 島の南方は森林地帯で、中部から北部にかけて山が連なっている。その近くには平野や浜辺が広がっていた。

 島のサイズは四国に匹敵するだろう。


「あと、新型の磁気探知機を搭載した航空機……これは軍から要請して飛ばしてもらった研究機関のものなのだが、それによる調査で多種類大量の鉱産資源が眠っている可能性が高いことが分かった」


「本当ですか!?」


 思わず立ち上がって、阿賀野 総理は叫ぶように声を上げた。日本に必要なものが大量に眠っている夢の島が、沖縄のすぐ南にあるというのだ。総理として、興奮するのは仕方のないことだろう。


「落ち着け。……実際に調査してみないと分からんが、期待してもいいだろう。問題は採掘開始まで時間がかかることだ」


 そう。見つけたからと言ってすぐに採掘できるわけではない。露天掘りできるほどの埋蔵量ならば比較的早くに採掘できるが、それでも時間はかかる。輸送路の整備や採掘設備の持ち込みなどを含めると、相当に時間がかかってしまう。

 鉄鉱石だけを採掘するのならば時間はかからないが、日本が必要としているものは多岐にわたる。その全てを平行して行わねばならないため、時間が足りないのだ。


「やはり輸入先を見つけなければなりませんね……」


「そうだ。だが、西の大陸で文明を維持できているのならば、その大陸内に資源があるということだ」


「そうですね……。とりあえず、国交樹立交渉を行うためにアポを取りに行きましょう。海上保安庁でも海軍でもいいですから、メッセージを相手に送っていただきたい」


「了解した」


 滝田 国防大臣は頷いた。ちなみに、この日本では海上保安庁は軍の管轄下に置かれている。それによって史実よりも重装備化している。未知の海域への進出にも不足はないだろう。


「新世界に飛ばされてから、初の大規模行動です。皆さん、頑張りましょう」


 阿賀野 総理の掛け声に、閣僚達は各々声を出して頷いた。






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