ひとがしぬということ9
「眠太郎。お前、自殺……」
梅岩がカマを掛けようとした途中で、眠太郎は予想を裏切らない反応を見せた。
「そんなことするか」
早口で答えを被せた眠太郎は、視線を逸らした。
梅岩は理解した。
いや、感じていた。
眠太郎は今まさに、刃を自らに突き立てようとしていたのだ。
この部屋に刃物は置かれていないが、眠太郎の右腕は肉の刃に変じさせることが出来る。眠太郎は自害を図ったその直前に、梅岩の訪問を受けた形になったようだ。いや、そんなことは数日も前から考えていた。ただ、肉の剣は眠太郎の右腕を代行しているものなのだ。自らの宿主を死なせるような行為には、拒否反応を示され思うように動かせなくなったのだ。
今さっき数度目かの実行を試みようとしたところであることが、梅岩の頭に流れ込むように理解できた。梅岩にテレパシーの超能力があるわけではない。これは偶然の産物だった。梅岩が眠太郎の心情を汲もうと強く望み、それは常に考えていたことであるが今日という日はことさら強く望み願い、更に眠太郎が並々ならぬ自らに対する憎悪と殺意にかられていたことから、縛妖陣を仕掛けるのと同じ共感覚に意図せず到達したのだ。