ひとがしぬということ5
眠太郎の部屋と廊下を隔てる襖から、眠太郎の感情が流れ出ているのを感じたからだ。
梅岩が他人の感情を読み取ることが得意なのは、眼力の賜物だけではなかった。邪な気配がわかる霊的能力の延長のように、梅岩は他人の感情を感覚的に拾うことが出来るのだ。自分のことでありながら、今の今まで気付かなかったのだ。
梅岩は眠太郎の感情を先入観により勘違いしていた。眠太郎は哀しんでいると思っていた。眠太郎は梅岩以上に咲良へ個人的に強い感情を傾けていた。咲良を失った哀しみは梅岩よりむしろ濃いものだと思っていた。
だが、それは少しだけ違った。
襖から流れ出ていた感情
それは“殺意”だった
一瞬、それは梅岩に向けられた殺意かとも思った。それが当然のことだと認めた。咲良の身に起こった不幸は、明らかに梅岩の失策によるものだからだ。が、それが見当違いの妄想に近いものであることにすぐ気がついた。そもそも眠太郎は、責任を他人に転嫁して罪悪感から逃れるような男ではなかった。
“殺意”は眠太郎自身に向けられたものだった。
(そう考えるか、こいつは……)
眠太郎は前述した通り、邪鬼の肉体を持った人間である。健全な精神に健全な肉体、とはよく言ったもので、精神が肉体に及ぼす影響は大きい。その逆も然りであり、肉体が精神に及ぼす影響も馬鹿にならない。