ひとがしぬということ22
―それから七年―
東の京の北の外れに、木霊寺という山寺があった。山林に囲まれた寒村のそばに建つ小さな寺だが、僅かずつながら参拝客が絶えることはない。その理由の一つとして、帝一門の者の多くが眠る寺であることが挙げられる。
そんな木霊寺に、眠太郎はたまにだが足を運ぶ。
背の小さかった眠太郎は七年のうちに成長し、見上げるような大男になっていた。そのあたりを意識していない眠太郎は、目当ての墓石が年々小さくなっているような気がして、つい最近になるまで疑問を抱いていた体たらくだ。
墓石の並ぶ一面は普段なら不吉で暗い印象を受けるところだが、今日は二つの理由によって眠太郎は軽い気分でいられた。まず一つ目の理由は、長年に渡る念願の一つが叶い、それを故人に報告することが今日の目的だったからだ。
もう一つの理由は
墓地が故人と同じ名前の花で咲き乱れていたからだった
薄紅色に染まった空を見上げ
紫煙をくゆらせながら
眠太郎は一枚の黒い羽毛を
ある墓石の前に置き
飛ばないように重石をして
しばらくの間立ちつくした後
物言わず去っていった
せっかく重石をしたのだが
やがて風に煽られて
黒い羽毛は薄紅色の
空の下を飛んでしまった
墓地の傍では
故人と同じ名前の樹が
風に煽られ微笑んでいた
眠太郎懺悔録
ひとがしぬということ
完




