ひとがしぬということ21
葉山の頭には、あの少年のことが浮かんでいた。
(怪物小僧が成長してくれれば、或いは……)
まだ経験の浅い眠太郎は負けはしたものの、その近接戦闘力は既に老いた葉山を凌いでいる。いずれ、全盛期の葉山さえ凡人と大差ないほどの超絶戦力になることは明らかだ。あの少年が咲良とは懇意であることを葉山は知っていた。もしかしたら恋愛感情があったかもしれない。仇討ちに対する入れ込みは百合に負けず劣らずだろう。
「待つって、いつまでですか!?私がお婆ちゃんになるまでですか!?いったい何年待てば……」
百合は慟哭した。堰が切れたように涙が溢れ出た。いったい、どれほどの感情を押し殺していたのだろう。どれほどの悲しみに耐えていたのだろう。そう考えると、葉山までもが目頭が熱くなった。
「泣くな末原、長くは待たん。十年、十五年も待てば戦力が揃うだろう。あの小僧も大人になる。今は勝てんものもなんとかなるかもしれない。それに、忘れるな……」
葉山はたった今思いついた。百合にかけるべき、最も適切な一言を。
「咲良の仇はお前だけの仇じゃない。オレたち、全員の仇なんだ……」
そもそも、百合一人だけが背負うのが間違いなのだ。葉山も、梅岩も、眠太郎も、そして咲良を知る全ての人々にとっての仇なのだ。
(待ってろよ末原、いつか必ずや……)
葉山は乾ききった唇をギュッと噛み締めたのだった。




