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ひとがしぬということ19
「……ご免なさい葉山さん。ヤカンがなかなか思い通りにならなくて……」
目を腫らした百合が、ありあわせの笑顔とともに湯呑みと急須をお盆に載せて現れた。
「恐ろしく大層なヤカンだ。もっと時間がかかっても責められん。もういいのか?」
葉山は何気なく発した自分自身の言葉に面喰った。随分と弱くなったと、自分で思った。
「はい、大丈夫です。退魔師たるもの、この程度のヤカンでいつまでも手こずっていられません」
百合は首を傾けて、ニコリと微笑んだ。
(つくづく、気丈な子だ)
葉山は感動すら覚えた。
「それに、ヤカンの始末は私が自分でつけますから……」
百合の満面の笑顔から発せられた言葉に、葉山は違和感を覚えた。葉山の認識していた“ヤカン”と、百合の言わんとする“ヤカン”に、若干の違いがあることを悟ったのだ。
「末原、まさか……」
葉山は不安を口にすることを躊躇った。極めてデリケートな事なのでオブラートに包んだものの言い方を努めていたのだが、それが原因で齟齬が生まれかけていた。
「あの“ヤカン”をお前が倒すつもりではあるまいな?」