ひとがしぬということ12
(オレはどうしたら良いのだろう)
帝家書き置き役・葉山泰山は混迷に暮れていた。
満月に照らされた郊外住宅地の道を、葉山は牛のようにゆっくりと歩いていた。後輩の家に向かって歩いているのだが、こんなにも重い足取りで彼女の家に足を向けたことはなかった。帝家での仕事からの帰路からやや外れた位置にあるその家には、幾度か立ち寄ったことがあった。そう、“あの娘”を送り迎えしてやるためだった。
もし葉山にもっと力があったなら、“あの娘”は死なずに済んだだろうに。“あの娘”の死が確定されたことを、眠太郎の滅した緑色の怪物が“あの娘”の成れの果てだと確認が取れたことを、“あの娘”の姉に報告するという、極めて損な役割を自ら買ってでることもなかっただろうに。年老いた体を引き摺って可愛がっていた娘の死を親族に告げるという、苦役に敢えて挑むこともなかったろうに。
(クソッ……まるで、オレがあの娘を殺したみたいじゃないか!)
踏切の前で止まりながら、葉山は歯噛みした。点滅する信号灯のカンカンカンと鳴る音が、いつも以上に気に障った。
あんな年若い子が犠牲になるくらいなら、まだオレみたいな枯れた年寄りが……
妙な考えが頭を過ぎったが、幸いにも葉山とて耄碌しきってはいなかった。仮に葉山の枯れ木のような肉体を電車に贄に捧げたとして、咲良が帰ってくるわけでもないのだ。