ひとがしぬということ11
「お前は……何なんだ!……人殺しのくせに!罪を償わなきゃならないんだろう?なのに、逃げるつもりか?この馬鹿野郎!阿呆!」
梅岩は人を叱ることに慣れていない。眠太郎のリクエスト通りに罵倒したつもりだが、それは余りに拙い言葉だった。
「……お前は何を言っているんだ?」
図星を突かれたはずの眠太郎は、冷静を装って白を切った。だが、眠太郎にだってわかっていた。どうやったのかはわからないが、全てを見通されていることを。
「黙れ……この悪党め。とぼければ済まされると思ったのか、卑怯者め!」
この下手くそな罵倒が希望に沿ったつもりであることを眠太郎は察していた。どうやったのかはわからないが、そこまで読まれていることに感嘆しつつも、慣れないことに無理を押すあたり、梅岩らしいとも思った。
(つくづく、大した奴なのか阿呆なのかわからん奴だ……)
梅沢の稚拙な努力は無駄には終わらなかった。追い込まれかけていた眠太郎の精神に、内心苦笑いができるほど余裕を齎すことは出来た。
「梅岩、お前が何を怒っているのかわからん。俺には何も問題はない。だから……」
眠太郎も下手くそな口上で梅岩を宥めにかかった。
夜空の満月が、不器用な似た者兄弟を見守るように照らしていた。