ひとがしぬということ10
眠太郎と咲良の間には、梅岩も知らない強い絆があった。
眠太郎が身につけている、深緑色のバンダナとサングラス。どちらもサイズが大き過ぎて合っていない。本人が格好良いと思っているなら、とやかく言うまい……くらいに梅岩は流していた。それらが咲良からのプレゼントだったとは想像だにしなかった。
手を繋いだこともない
互いにそれが恋心であることを
認める前に終わってしまった
儚い日々
メールのことや
食べ物のことや
くだらないことで喧嘩ばかりした
短く甘酸っぱいくもこそばゆい
二度とは帰ってこない宝物のような時間。
それを、眠太郎は失ってしまったのだ。
「眠太郎……」
梅岩は唇を噛んだ。
そうすることで、込み上げてくる嗚咽を辛うじて堪えた。
「眠太郎。お前、逃げるつもりか?この人殺しが!」
梅岩は表情を鬼のように険しくした。
眠太郎は体が邪鬼に支配されていた時期、数え切れないほどの人命を奪っている。償い切れない、生涯を賭しても贖い尽くせない罪を背負っているのだ。
邪鬼に悩まされ命を失おうとしている人々を助ける。贖罪だけが彼の人生であったのだ。
だが、罪を背負った少年は更なる罪を犯した。
愛する者さえ守れなかったという、許されざる大罪だ。
罪に罪を重ねた罪人が
心の底から望んだのは
赦しでも慰めでもなかった
許されざる大罪に
相応しい罰だった