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こんな夢を観た

こんな夢を観た「太陽チューブの危機」

作者: 夢野彼方

 太陽と地球とは、細いチューブでつながっている。太陽で作られた酸素は、このチューブを通って、地球へと運ばれていた。文字通り、ライフラインなのである。

 小学校の授業で真っ先に習うので、誰にとっても「当たり前」のこととして、認識されていた。


 その太陽チューブに危機が迫っているという。


 もう間もなく、太陽と地球との間を金星が通過する。その際に、この太陽チューブを引っ掛けてしまうかもしれない、とNASAが世界に先がけて、日本国内で発表したのだ。


 列島中が大騒ぎになった。

「大変だ、そんなことになったら、地球に酸素が来なくなる」

「酸素がなくなるだって? じゃあ、これからは何を吸って生きていけばいいんだ」

「そうだ、植物だっ。植物は酸素を作るらしい。よし、さっそく花屋へ行って、買い占めだ!」


 街じゅうの花屋という花屋に人が殺到し、瞬く間に売れ切れてしまう。

 花屋から花が消えてしまうと、今度は観光地へと大勢、押し寄せた。土産物屋で売られている、「ご当地の空気のカンヅメ」が、飛ぶように売れていく。

 「ご当地の空気のカンヅメ」の卸業者は、急遽、バキューム・カーをレンタルして、手当たり次第に空気を集め出す。

 それに対して、地元の市民団体が、「空気の独占に抗議する」というプラカードを持って、大規模なデモを行うなど、各地で混乱が広がっていった。

 

 テレビでは、連日、国会中継が放映され続ける。

「消費税増税はやめて、空気に税金を課するという案はどうか」そんな意見が飛び交い、真剣に議論されていた。

 民放のコメンテーター達が、

「どんな状況であれ、空気は人類の共有物なんだからさぁ、これに税を掛けちゃあ、だめだよ。オレはやだね、そんな法案」

「いや、そうは言いますが、現状をご覧なさい。町中では、子供さえもビニール袋を振り回して、空気を『乱獲』してるじゃないですか。へたしたら、太陽チューブ切断の前に、地球から空気がなくなってしまいますよ」


 のんびりと構えていられるほど、わたしは人間が出来ていなかった。

「どうしよう、どうしよう。このままでは空気がなくなっちゃう!」

 財布を引っつかむと、近所のドラッグ・ストアへと駆け込む。確か、スプレータイプの携帯酸素があったはずだ。

 幸い、ドラッグ・ストアはさほど混雑をしていなかった。携帯酸素のことに、まだほとんどの人が気づいていないらしい。

 わたしは、10本ばかり、まとめ買いをした。これで、当面をしのげるだろう。


 家に戻って、さっそく1本吸ってみた。

 さわやかなスズランの香りが、鼻腔に広がる。

「いい匂い……。気持ちが洗われるよう」

 体から力がみなぎってきた。まるで、生まれ変わったかのようである。


 鏡を覗くと、気になっていたホクロが1つ残らずなくなっている。黄ばみ、匂いがすっかり消えて、まぶしい白さで輝いていた。

「これが酸素パワーかぁ」感激し、改めて携帯缶を見つめた。「酵素」と書いてある。

 あれれ、買い間違えちゃった……。

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