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愛し愛され愛されず  作者: 骨
8/23

真(まこと)と灰色(新)

 土曜日。俺は珍しく五時に起きる。二度寝しようかと思うが、すっかり覚醒してしまい眠りに落ちる事は暫く無理。このままベッドでごろごろし続けるのはいかがなものか。俺はジャージを持って階下の洗面所に行く。顔を水で軽く洗い、パジャマからジャージに着替えて腕時計を付け、棚からタオルを一枚取り玄関に向かう。そこで外靴を履き、外で軽い柔軟体操をする。一通り行い、ジョギング開始。高校入試以前は朝の習慣としてやっていたが、以後は現在まで一切していない。その所為か、呼吸が乱れやすくなっている。俺は無心に足を動かし続ける。朝のひんやりとする外気は非常に心地よく感じられる。


 無心に走り続け、ふと時計を見ると六時半頃。やり過ぎかと思いつつ、家に戻る。戻ってシャワーを浴び食堂に行くと、未だテーブルには何も用意されていない。母親は仕事時間帯がだいたい夜なので、昼以降にならないと起きない。土日は、学校に行く事はないから雨都が起きるのはもう数十分後。自分で何か作ろうかなと考えていると―

「おはようございます、兄さん。早いですね。」

そう言い、雨都は洗面所に向かう。何時もより早い事に驚きつつも、簡単に朝食の準備をする。


 朝食を作り、配膳していると雨都が支度を終えてやってきた。

 各々椅子に座り―

『頂きます。』

朝食を食べ始める。


 朝食の後、のんびり過ごしているとメールが届いた。すぐ目を通し、簡単な返事を送り支度を始める。

 昼食はいらないことを雨都に伝えて、俺は急ぎサドルに跨がると、ペダルを踏み、かなりの速さで漕いでいく。

 少しして目的地に着く。自転車をやや雑に駐輪して、駆け足で四階に向かう。そこから、左に曲がって少し進みナースセンター近くにいる葵のご両親と合流、そして病室へ向かう。

あっという間に病室前に着く。ご両親は『お邪魔してはいけませんね。私たちは待合室にいますから、ごゆっくり。』と言い、去っていった。

 一人となり、改めて緊張してしまう。一度深呼吸を挟み、そして扉をノックする。

「どうぞ。」

 声が掛けられたので入室する。

 葵はベッドに横になり、こちらを向いている。

「数日振りだな。」

「そうですね。」

 軽い挨拶の後、妙な沈黙が辺りに漂う。

 そのまま沈黙し続けてはいけないと思い俺は直球に質問を投げかける。

「あのさ、あの日の言葉の続きを教えてくれないか。」

 その言葉に葵は気まずそうに窓に一度目を遣って、それから俺に遣る。その目からは強い決意の表れが窺い知れる。

「榊。貴方は――私の弟です。」

 放たれし言葉に俺は驚愕し何も言えない。そんな俺を気にする事無く、ゆっくりと話し続ける。

「覚えていなくても仕方ありません。両親が事故死して、貴方はショックの余り壊れた(・・・)のですから。」

「両親が死んでから半年程後、養家が決まり私は四十万家に、貴方は少しは戻りましたが、一部は壊れたまま榊家に引き取られたのです。」

「その後、私は平穏無事に日々を過ごしていました。けれど、内心は貴方の事ばかりでした。」

 これではブラコンですね、と自嘲して笑みを浮かべるが、どこか辛そうであった。

「それから月日が立ち、高校一年の夏頃。訳ありでこの近くまで来た時、暑いから帰り際にアイスでも買おうとコンビニに寄り、貴方を見ました。」

「その時は唯似ているなと思うだけでしたが、友人らしき方が『魁く~ん』と言うのを聞いてもしやと思いました。」

 『魁く~ん』と言う時、葵が迫真を越え生々しい演技を交える故に、かの優等生を一発殴らねばと決意を固める。

「それから、ちょっと身辺調査をして貴方が魁である事に確信を持ちました。」

「そして、私は両親を数十日かけて説得しました。」

 無論、何度も反対されましたよ、と小さく笑う。

「それで今に至ります。」

 話を聞き終えたが、真偽を判断するには材料が余りにも足りない。今後、材料集めをしないとな。そう思っていると―

「まぁ、早々に信用はしにくいですから、これを。」

 そう言い手渡されたのは、一枚の紙。それは葵の戸籍謄本。父母欄には、今の両親が中一の時に教えてくれた本当の両親の名が記されている。それだけで十分信用できる。

「本当の事か。」

「ええ、そうです。」

 その後、少し雑談をし、面会を終える。それからご両親がいる待合室に向かう。


「遅くなって申し訳ありません。」

 一言お詫びを言うと、二人は座るよう促し、そしてぽつぽつと言い始めた。

 俺への謝罪。

 葵と過ごした日々。

 葵が俺を見た後のことについて。

 色々なことを聞き、そして話した。その途中、昼食を挟んだが、会話が途切れることは殆どなかった。

 気が付くと、二時頃になっていた。


 俺はご両親と別れた後、少し寄り道して帰路に就いた。


 帰宅し、簡単にメールを送りソファーに座ってテレビを見ていると―

「兄さん。差支えなければ今日の用事について教えていただけませんか。」

 台所にいる雨都から突如質問される。夕食は大抵雨都が作っている。

「見舞いに行っていた。」

「葵さん、ですか。」

「そうだ。」

「何を話したか、そちらも教えていただけないでしょうか。」

「俺の出生について、だな。」

「――そうですか。」

 台所で聞こえていた小刻みな音が止む。

「問題はないから話すが、葵は俺の実の姉だ。」

「そう・・ですか。」

 帰ってきた返事は意外に近いところから聞こえ、途中消え入りそうであった。

「どうかしたか。」

 何かあったかと思い台所の方を見る為、体勢を変えようとして―――首に腕が回される。

「少し痛いと思いますが、許してください。」

 ばちっとする音と共に首筋に感じる違和感。一部から痛みが走り、体から力が抜けていく。

「兄さんはただこれからいうことを、よく聞いてください。」

 体に力が入らず意識だけはっきりとしている妙な心地の中、雨都が耳元で囁き始める。

「兄さんは、人の思いに鈍くて困った人です。貴方の周りから寄せられる特別な好意に対し、残酷なほどまでに気がつかない。」

「特別な好意を寄せる人は神流や桜、他の子など一杯います。そして-」

 後ろから囁いていた雨都が、突然前にやってくる。両腕を首に回し体と体を密着した状態にすると、顔をまた耳元に近づける。

「私は、兄さんと血の繋がりは一切ない事はかなり前から知っていました。」

「私は貴方のことが好きで好きで、他の女の子といるとついつい嫉妬してしまう。」

「兄さんは-」

 耳元に近づけていた顔が真正面に移動し、俺の双眸(そうぼう)を見つめてくる。こちらを見つめる目は闇を湛えているかと思うほど非常に暗い。

「だ、れ、が、す、き。」

 そう呟くと、立ち上がって去っていく。

「あ、兄さん。―――逃げるては、めっ、ですよ。」

 台所に戻ったらしく、再び調理している音が聞こえ始める。


 夕食を食べ終え、ごろごろして時間を潰しつつ、どうしたものかと考える。

 今日、言われたことは確かに間違いないことであろう。雨都から感じたものから、早めに恋人を見つけたほうが良いか、そう思う。ただ恋人、そう思うと非常にこっぱずかしくなり、悶々としてしまう。しかし、雨都が血の繋がりについて知っているとは思わなかった。恐らく両親が話したであろうが、かなり前とはいつ頃であろうか。ふと、そう思う。

 就寝時間となり、部屋に入り暫くベッドでただ横になるも、雨都は何かしてくる気配は無く寝る事にする。

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