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愛し愛され愛されず  作者: 骨
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朝と涙 2

 放課後。あの目を見た所為か胸騒ぎがするので早めに待ち合わせ場所に行くが、未だ其処には待ち人は居らず、早すぎたのかなと思い待つ事にする。

――――遅い。幾ら何でも遅すぎる。辺りはやや暗くなり、時計を見ると五時を少し過ぎている。少々の尺度が違っているとしても、この時間帯になっても現れないのは異常だ。

 俺は急いで携帯を出し、彼女に電話する。だが、一向に出ず、留守番機能が作動する。耳に届く無機質な機械の声、何故か其れが嫌な方向に俺の思考を曲げていく。

 そんな俺の後ろから何者かが肩を叩く。焦っている俺は不意の事でびくっとしてしまうが、其れのお蔭か徐々に落ち着いていく。一度息を吐き出し吸って、後ろを向く。其処には(くだん)の人物が居る。

「すみません。本当に遅くなりました。先生に―」

「おい、こっちは心配したんだぞ。こんな時間になるまで何故、連絡の一つも寄越さなかったんだ。」

「すみません。職員室で先生に少し勉強の事に関して尋ね聞いていたらこんな時間になって・・・・・本当にごめんなさい。」

「分かった。はぁ、女の子を責め立てていると思うと嫌になるな。まぁ、いいか。もう、帰ろう。」

「うん。」


 他愛の無い事を話しながら歩を進めていると葵は十字路手前で俺の目の前で急に立ち止まる。俺も同じように立ち止まると、葵は振り返り―

「榊、貴方は私の―」

 其の言葉は不意に途切れ、葵は前に倒れる。俺はその倒れ行く体を抱き抱える様に支える。其の時、背中に一本の果物ナイフが突き刺さっているのが見える。俺はふとナイフへと遣っている目を少し上げてみると、少し遠くの方に黒いフード付きコートを羽織る謎の人が視界に入る。俺は直ぐ様その人に詰め寄りたいと思うが、葵を放って行く事はできない。出血は余りしていないが、ナイフは少し深めに刺さっている。俺は素早く携帯で最初に119に掛け、そして110に掛ける前に再び謎の人が居る方へと目を遣るが、既にその場には誰も居らずどうしたものかと思うも、俺は一応110へ掛ける。


 少しして救急車が来て、葵は体を横にし病院に搬送される。俺は搬送されるか否かのタイミングで来た二人の警官に事の顛末を話す。警官たちは半信半疑で淡々と聞き、時折尋ね、手帳にメモしていく。

 全て話し終えると、警官の一人が車の無線で誰かと何かを話し始める。暫し経ち、其れを終えると警官はもう一人の警官と少し話し合って、その後俺の電話番号や住所などを聞いて警官たちはパトカーに乗り、去って行く。パトカーが見えなくなってから、俺は止めている足を再び動かし始める。

 彼女について心配ではあるが、見舞いは当分無理そうである。現在警官たちは俺を容疑者と見ている。その状況下で行けば、何かと事態をややこしくしてしまうのは目に見えている。とてももどかしく思うが、仕方がないと割り切る。又、嫌疑が晴れてから未だ入院しているならば、その時は見舞いに行こうと決める。


 家に着き、玄関を上がるとそのまま自室へ向かう。自室のドアを開けベッドに身を放り投げる。未だに脳裏から離れない葵の苦しげな顔と黒のコートに身を包んだ人物。一体あの人物は誰なんだ。今回の事と多少違いはあれど一昨日の夢とは似ている箇所があり、あの夢の通りだと考えるならば今回の犯人は夢で俺と葵らしき少女を刺した人物と言う事になる。では、その人物は、と思った時扉がノックされ―

「兄さん。入っても良い?」

其の声にいいよと、一言言うと扉が開き雨都が入ってくる。その手には漬物と握り飯の乗る皿、水筒を持っている。

「あのね、お母さんが『食欲無くても少しは腹減っているだろうから握り飯作ったよ。落ち着いたら食べなさい。』て、言っていたけど―大丈夫?」

 雨都の言葉を聞く傍ら夢で見た顔を思い出そうとする。しかし、顔の部分のみ靄が掛かっているかのように一向に思い出せない。其の事に苛立つ余り顔に表れていたのか、雨都は心配して声を掛けて来てくれる。其の声は荒れる俺の心を幾分か鎮めてくれる。

「大丈夫だ。心配してくれてありがとうな。」

 笑顔を取り繕ってから、そう言い雨都の頭に手を乗せ撫で始める。突然の事であるが、直ぐに気持ち良いと目を軽く閉じて笑みを零す。

 暫し撫で、気分が落ち着いた所で皿から握り飯を取って食べ始める。シンプルな塩結びであるが、何時もよりおいしく感じる。一個食べ終えて、ふと、頬を温かい何かが伝い落ちる。其れは止まる事を知らず、溢れ続ける。だが、俺は其れを拭う事無く、残りの握り飯と漬物を、途中茶を挟みつつ食べる。然程時間は掛かる事なく食事は終わり、又その頃になって、涙も漸く止まる。

 ふと、腹を満たし泣き疲れた所為か眠気に襲われるが、風呂や歯磨きは未だなので襲い来る眠気を抑え、部屋を出る。それから淡々と終わらせていき、眠りにつく。

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