朝と涙 1
翌日。未だ朝日が完全に昇っていない頃、俺は急に目が覚める。覚めて、ふと布団の中に妙な温もりを感じる。その温もりは俺の横に居る何かが原因だと少しして分かる。俺はそれが何かを確認するため、仰向けから横向きになろうと動こうとする。しかし、其の何かが腕や足に確りと抱き枕の如く抱きついている所為でできない。身動きは取れず、どうしたものかと思っていると―
「兄さん…もっと…」
そう寝言を呟き、何か―雨都は体の位置を俺の横から上に変える。
此処で一つ疑問が湧く。其れは、何時も寝る前に内側からしか開かない鍵を閉めているので、部屋には入る事はできない筈なのにどうやって侵入してきたのだろうか、という事。とても気になるが、ブラコンに聞いても、『愛の前に立ちはだかるもの等一切ありません。』などと断言されそうだ。
さて、更にどうしたものだろうか。横で寝るのならば、未だ良かった。が、今は俺の上にてすやすやと寝ている。非常に思春期の真っ只中を今生きている俺には刺激が強すぎる。湧き出る煩悩を振り切ろうと他の物事―今日の昼は何かや授業は何があるか、書店に行くかどうかetc.―を考え、意識を逸らす。
それから暫くして、目覚まし時計が鳴り響き、その音で雨都は目を覚ます。俺は漸く解放されるのかとこの時思うが、現実は残酷である。雨都が目を覚ます、此処までは良い。だが、その後―
「兄さん。無言で私のベッドに入るなんて…。襲いたいのなら、言って下されば良いのに。」
寝ぼけ顔で非常に間違っている事を言い、紅をさす。
朝から興奮するな。又この部屋は雨都の部屋ではない。俺は確りとその事を告げる。初め雨都は分からずに首を傾げていたが、次第に覚醒し理解していく。そして完全に理解した所で、顔を染め慌ててベッドから出る。俺はやっとこさ解放された体に力を入れ、ベッドから出て伸び上がる。雨都は羞恥の余り部屋の隅にて蹲っている。
少しして、伸び終えた俺は落ち着きを取り戻した雨都と階下へ降りて、何時もの様に朝食を食べる。それからは何事も無く、ごく普通に過ごし時間は過ぎて行き昼休みとなる。
何時もの様に弁当を食べつつ優等生をからかう姦しい会話をして、一区切り付いた時にタイミングを見計らっていたのか葵がやってくる。その時、桜と雨都が一瞬だけ怪しげな光の灯らぬ目をするのを見る。葵はその事に気付いていないようで、『又放課後に昨日と同じ場所に来てください。私は今日部の見学をしてから行くので少々遅れます。』と言い、教室を出ていく。又その時も二人があの目を出ていく葵へ向ける。