目覚めと始まり 2
放課後。掃除を終え、校門前に行くと既に四十万さんは居た。居たのは良いが、どう見ても不良の方々がその周りを囲んでいる。俺はあまり強くないので、特攻すれば返り討ちに合うのは目に見えている。どうしたものかと思っていると、何と運の良い事に優等生が横からやって来る。優等生は成績優秀だけでなく、運動神経も良く今まで喧嘩を売られて買えば大体負け無し。
俺は早速目の前を通り過ぎようとする優等生を前に押し出す。不意な事に優等生は踏ん張る事ができず、其の儘蹌踉と不良達の輪に向かう。どんと不良の一人にぶつかり、ぶつかられた不良は前に蹌踉ける。そして、その不良はぶつかってきた優等生の襟を掴む。が、其の腕を優等生は掴むと技を決め倒す。いきなりの事に他の不良は呆然としていたが、直ぐに状況を呑み込んだ様で次々と優等生に襲いかかる。しかし、優等生は最低限の回避を行い、大振りの攻撃を避けられて隙ができた不良に手堅い攻撃をしていき、数十秒後には伸された不良が地面に転がっていた。相変わらずの優等生の安定性にほっと一息つくが、間も無く優等生が俺に襲い掛かってくる。俺は間一髪で其れを避ける。
「ちっ、外れたか。」
「おい、優等生よ。済まないと思い又反省しているから、怒りを静めてくれ。でも、後悔はしていない。」
「あ…あの…」
「よし、良く分かった。腹に力を込めろ。腹パン十回、いや気の済むまで腹を殴らせろ。其れで許してやる。」
「其れは止めてください。気の済む前に自分が天に召されてしまいます。」
「安心しろ。死なない又気絶できない程度の力で、その上かなりの速度で殴るから。」
「いや、一切安心できる部分が無いのだが。」
「えと…その…」
「気にするな。気にしたら負けだぞ。」
「くっ・・。鸚鵡返しするとはひ―」
「ちょっと聞いてください!」
「お…おう。」
「では、俺は此れにて引かせてもらうよ。刑は明日執行するから。」
「また明日な。刑だ・け・は、本当に止めて下さい。」
「さようならです。……ふぅ。では最初に、私の事は四十万さんでは無く葵と呼んで下さい。私も榊と呼ばせて貰いますから。」
「はぁ、分かった。」
「では呼んでみて下さい、榊。」
「あ、葵。」
「はい。」
この時これでは、恋人の仲ではないかとふと考えたが、知り合って間もないので、知り合い(?)から親友の仲になっただけという考えに至る。
「次に本題と行きたいのですが、もう日が沈みかけていますから明日にします。」
言われて辺りを見れば夕影が満ち、空には丹霞が浮かんでいる。
「じゃあ、またあ―」
「一緒に帰りませんか。」
そう言い少し潤んだ目で少し下から見上げる形で見つめてくる葵。其の可愛らしさはどう表現すればいいのか分からないが、俺の理性を一度崩しかけた程の力を秘めている。
「分かったから、其の目をするのは止めてくれないか。」
「大丈夫です。貴方以外にはしませんから。」
「そうか、分か…って、俺以外にしな―」
「好い加減に帰りませんか。」
「はい。」
そう言った後、俺の片腕に引っ付いた葵と共に帰路につく。帰り道に部活を終えて帰宅途中の男子から嫉妬と羨望の混じる視線を数多感じたのは言うまでも無い。
学校出て直ぐの十字路で葵と分かれた後、暫く歩き家の前に着く。だが、何故か玄関前には雨都と桜が陣取っており、二人とも笑顔で談話しているが近寄りがたい雰囲気が感じられる。故に、俺は其処から一歩も進めずに居ると、二人は俺の存在に気付いたのか、目をこちらへ遣る。そして、二人は悠然と歩んでくる。蛇に睨まれた蛙、正にそんな状態の俺に二人はゆっくりと近づいて来る。然程の時間も経たず、二人は眼前に立つ。眼前に立っている二人は直前に見た笑顔と異なり、底冷えのするものを浮かべている。
「さて、私たちは何故怒っているのでしょうか?」
唐突にそう桜は言うが、俺は何も二人を怒らせる原因が分からない。だから、正直に―
「分からないので、至らぬ自分に教えて頂けないでしょうか。」
敬語を交えて言うと、二人はやっぱりなという呆れた顔をしてため息をつく。其れから、又元の形相に戻る。
「ふふふ、何にも分からないなんて。少しお仕置きをしますか?」
「良いですね。」
そう言い二人は固まっている俺の腕を掴み、家に引っ張っていく。俺は一切抵抗しない、否出来ない。これ以上二人の怒りを増幅させた場合を考えると、どの考えもすべて俺がある種死にかける事に至るのだ。
さて、家に入り何を受けたのかについては一切描写しない。しかし、精神的に肉体的に攻められ続けたとだけ言っておく。後、理由については何も教えてくれなかった。