休学と家族(改)
入院期間の変更に伴い、前半部の内容を変更しました
次の日。神流は学校に行くが、俺はこれから一週間、休学扱いのため学校には行けない。行けない故に生じる懸念すべき点は、執事さんたちが可能な限り代替してくれるらしい。授業は学校に合わせて時間は五十分で、授業終了後に十分間の小休憩を挟み、昼休憩は別に取る。そして、各曜日の時間割に沿って七科目或いは六科目を行う。教師歴はないと神流から聞いているため、彼らが行う授業に不安少し好奇心多めである。
さて、授業が始まる。初回ということで、始めに担当者の自己紹介と授業の進め方について簡単に話がされ、その後は授業が行われた。執事さんが、ホワイトボードに書き、そして解説を行う。俺は、教科書を広げ耳を澄ましつつシャーペンを動かし、己がノートにまとめていく。このノートや教科書はもともと自宅のほうにあったが、どうやら神流が手を回しこちらに運び込んだ、とのことである。ということは、家族に説明や話をしたはずである。果たして、今の状況に対して、家族の心中がどうなっていたか。一応メールは送信したが、おそらく穏やかではないと思われる。そのような心中で、いかに思考し、運び出すことを許可したか。気になるが、深みにはまってしまうと集中できなくなるため、切り替えようとする。そうしようとするが、脳裏にふと葵のことが浮かぶ。今日で退院まで一週間となり、あの日以降メールはやっていない。どう送ればいいか。姉と分かってから距離感を掴めずにいる。だが、暇していそうな姉に弟としてようやく一週間終えたから何か送った方がいいかなと考える。何を書こうか、とつい思考をそちらに集中させかけて、だがとにかく授業に集中せねばと、本日の授業の後に考えメールしようと決め、ペンを動かす。
その後は何事もなく時間は過ぎ、この日最後の授業は終わりを迎えた。
客室に戻り、携帯を開きメールの新規作成画面を表示する。普段からやり取りを殆どしていない所為か、どういう文章にしようか悩みどころである。軽く悩みながら入力していく。
送信し、軽く凝り固まっている肩を軽く揉みストレッチを行う。そして、テーブルに置いてあるティーカップを取り一口飲む。その時に匂う紅茶の香りに楽しみつつ一息つく。カップを置き、部屋を照らす淡い夕影の温もりを感じつつ、神流の帰りを待つ。
少しして、部屋の扉がノックの後に開かれ神流が入ってきて―俺に抱き着いてくる。
「ただいま、魁。」
「お帰り。」
俺のお腹辺りに感じる柔らかい何かに意識を向けないよう、椅子に座るよう伝える。
「神流。聞きたい事があるんだが。」
「うん、いいよ。何が聞きたいの。」
直球に行こうか、先に別の話題を触れてからにするか。数瞬迷いつつ、直球に聞いてみることにする。
「神流の気持ちについて聞きたい。・・・・俺の事が好きなのか?」
「好きだよ。とても好きだよ。魁は私のこと好き?」
「好きかどうかと言われれば・・・・好き、だな。」
「そう。」
「でも―」
「その先は未だ言わないで。・・・一週間経ってから、もう一度聞くから。その時に言って。」
「・・分かった。」
「では、その時まで。・・・・で、話は変わるけど。母様と父様が四日後に一緒に食事したいと所望しているの。」
「えっ?」
「故に、食事の作法を付け焼刃となりますが習得してもらいます。講師は勅使河原です。」
「榊様。よろしくおねがいします。」
「はぁ、こちらもよろしくお願いします。」
碌な反論も出来ずに流されてしまい、いいえを言えない雰囲気となった。だから、もうどうにでもなれと成り行きに身を任せる事にし、そう返答する。
「あ、言い忘れ。暇な時間には私が出来る事たっぷり見せてあげるから、覚悟しといてね。」
時間は経過していき、遂に夕食の時が訪れる。この日になる迄、ひたすら頑張ったと思う。二日は様になるまで数時間みっちり扱かれ、一日は夕食で実際やってみてナイフやフォークの扱いがスムーズになるよう、更に扱かれて。その成果がちゃんと出せればいいなと考えつつ、食堂の席に座り主席を待つ。話は変わるが、葵から返信があり、無事退院できたようだ。
自分以外の席については、隣には神流が居り、目の前には兄と思わしき男性が一人居る。兄妹間での会話は一切なく、辺りを静寂が包んでいる。普段は家族全員で食べる事無く個々で食事をしている、と神流から事前に告げられている事から納得できる。
静寂が食堂に満ちてから少々経過し、執事さんが来て主が間もなく来られることを告げる。皆が立ち上がり、その到着を待つ。本当にそれからすぐに二人の人物、神流の父親である晴央さんと母親である美小枝さんであろう方が食堂にやってくる。
「済まない、待たせて。」
「ごめんなさいね。」
二人が席に座り、俺達も椅子に座る。
「さて、初めに申し上げたい事がある。榊魁殿、此度は娘のわがままで強引に連れて来てしまい本当に申し訳ない。」
「いえ、お気になさらないでください。恐らく此度の出来事に何かしらの意味があったのだろうと自分は考えています。それに神流の知らない一面が多く日々、驚きで楽しいです。」
「そうか。――では、食べ始めるとしよう。」
食堂の隅にある、おそらく食堂と繋がっている場所から料理が運ばれてくる。どれも高そうに見える、いや実際高い筈だ。出される料理を何とか上品に切り分け食し、神流と時折両親、極稀に男性と当たり障りのない会話をする。
食後。俺は晴央さんの仕事部屋にて、晴央さんと直に対談する事となる。俺としては内心何かやらかしているのでは、と気が気でない。そんな俺の心情を察してくれたか、執事さんは部屋への案内をしつつ、『大丈夫ですよ。唯お話がしたいだけですから。』と言う。
仕事部屋に着いて、『ソファに座ってお待ちください。』と言われてソファに座ろうとし、丁度その時に晴央さんがやってきて慌てて立とうとする。が、晴央さんは手でそれを制し対面のソファに座ると、タイミングを見計らって執事さんがテーブルに二つティーカップを置き、紅茶を注ぐ。
「さて、あまり固くならないでいただけるとありがたい。」
そう言い、話の口火が切られる。最初は当たり障りのない話題を暫し話し、次に神流の事について話をする。どうやら、俺が神流と付き合う気がなさそうであると察しているようだ。
最後に、此度の件への謝罪やその他諸々を話した。
会話が一区切りし、束の間の静けさがあたりを漂う。晴央さんは、一息つくと―
「戯言だと思っても構わないが・・・・神流を嫌いにならないで欲しい。」
「・・・そのような事を言われずとも、嫌いにはなりません。」
そして、退席の許可が下りたため、俺は執事に連れられて部屋を後にする。




