もう一つの闇 ◎
翌日。俺は鎖を外され登校する。何時もとは違い、雨都は桜と俺との間に割り込み隣となる事を妨害し、その上俺の腕に抱き着いている。その行動に桜はただ首を傾げるしかない。
学校に着いて、雨都とは別れ途中合流した神流と桜の間に挟まれ教室に向かう。何時もは会話がそこにはあるが、今日は一切無い。仕方がない。多分だが、俺の衣服や鞄などのどこかに盗聴器が仕込まれているからだ。ここで親しく会話するならば昼頃に何か行動を起こすかもしれない。
ふと、自分が疑心に満ちている事に気づくが、昨日触れた妹の狂気の所為と片付ける。
教室に入り紳司はこちらを見ておはよと言い、席に着いたところでこっそり紙を俺に渡してくる。
『何があった。』
たった一文ではあるが、彼の察知の良さに流石は優等生と改めて感じつつ、俺は相談を持ちかける。無論、筆談で。
『他言無用』
『OK』
『昨日、雨都による軟禁』
『why』
『桜と付き合うから』
『cause』
『雨都とは血のつながりない』
『ほぼ理解
だが、難しい』
『理解早い
本当にどうすれば』
『こう来ると神流もどうなるか』
『と言うと』
『令嬢』
『何となく理解』
『独身貫く
→no problem』
『ひどっ』
『流石に充ちたいか』
『人並みな幸せを』
『親に告げる』
『おい』
『冗談
昨日妹さんwhat said』
『×妹
○一人の女性』
『くせは直しにくい
絶望的』
『やはり
追加 狂気に染まっている 暫し両親不在』
『ヤンデレか
両親居ずの間、亭主関白してみるのは』
『まじか』
『予行演習にもなる』
『飛躍し過ぎ』
『No mattar!
1.命令口調に』
『きつ』
『やらねば、先は真っ暗
桜には伝えとくから、いけ』
そこまで筆談した時チャイムが鳴り、紳司は急いで席に戻っていく。
放課後。俺は仲間と帰る。が、何時もとは違い、俺は発信器を付けている。無論、調達者は紳司。昼半ばに学校をこっそり抜け出し調達してきたらしい。付ける時に―発信器は妨害や水、熱に強く、又小さく耐久性が高いから安心してゆっくりしていけと紳司に言われたのは余談である。
警戒しつつ会話を楽しみながら進み、十字路に差し掛かる。俺はふと人気がない事に気付き、もしかしてと思いきや黒の車が俺の家がある方向とは反対側から来る。俺は危険を察知して帰路を引き返そうとするが、車から降りてきた体格の良い男達が素早く動き直ぐに取り押さえられる。仲間は全員一ヶ所に固められ、こちらに来られぬよう男達に囲まれている。言うまでもなく、神流もそこに居る。俺は先ず後ろ手にロープで両手首を括られ、目隠しされる。次にロープが巻かれ、口にガムテープが張られると車に押し込められる。その後、ドアが閉まる音がし体に僅かな横向きの圧力が掛かる。そして、首筋にピリッとする感触が伝わり、然程経たず眠りに落ちる。
目が覚める。しかし、全て荒縄で―両足は括られ、胴は座っている椅子の背凭れに、又後ろ手に縛り上げられている。その為、足掻こうとすると荒縄が食い込み、そこが擦れて痛みが走る。耐えきれない事はないが、無駄に足掻くと出血し体力低下してしまうのは目に見えているので暫く穏やかに待つ事にする。
少しして、目の前にある扉が開かれる。来たのはやはり神流だ。
「ふふふ…。」
不気味な笑い声をあげ近付いてくる。両目は、あの時の雨都と同じ。然程経たず俺の前に立つと、喉と口が一直線になるよう顔を固定する。
「さぁ、始めましょ。先ずは…。」
神流は開口器を使い口の開閉を禁ずる。次に片手に持った霧吹きで俺の口内に何かを吹き掛け、最初は綿棒で歯や粘膜、舌などを、次に糸ようじで歯間を擦っていく。その動作を何度も何度も、新しい物に頻繁に変えながら丹念に丁寧にして、汚れを拭き取っていく。俺の口内が汚いのかなと思ったが、この執念さには別の意図があると俺は直感する。
「次は…。」
霧吹きを床に置き、懐から封をされた半分程を赤い液体で満たされた試験管を出し、口の上にて封を開け傾け始める。それは俺の全ての歯に遍くかかるようゆっくり傾けられ注がれていく。この時、感じる味と臭い。それから導かれるのは血。
「新鮮な物を用意したよ。味わって飲んで…私色に染まってね。」
そう言うと口に錠剤が入れられ、水が少し注がれる。俺はそれを躊躇いつつも飲み込み。
「ふふふ…良い子、とっても良い子。私と二人だけで過ごしましょ。ずっと、ずっと。死が二人を分かつ、その後もずっと。」
取り付けられている器具を順次外しながら、歌う様に話す。それは子守歌の様に俺を深き眠りへ誘う。俺はその抗いがたい誘いに身を委ねる事にする。
本日二度目となる覚醒。瞼をゆっくりと開けていくが、差し込む光はやや眩い。だが、光に目が慣れるまで些かもかかることはなかった。さて、何をしようかと思い、先ずは現状の確認を、と考える。今の自分は一切拘束をされずベットに寝かされているようで、実に快適である。他に何か情報はと思い、上体を起こしてぐるりと部屋を見回す。先程の部屋とは違い、白を基調とした壁であり、高そうな調度品が置いてある。そして、ベッドから移動し閉められているカーテンを開く。やはりというべきか、窓は鏡のように自分を映しているために見辛いが、面格子があった。後、扉は鍵がかかっており内側から開けられぬようになっていた。
部屋をざっと一通り見てから、ふと、自分の服が寝間着であることに気づいた。これ即ち、誰かが服の着替えを行ったということである。ということは、と連想し始めると、何れも俺には悶絶しそうな内容しか浮かばない。もしやそうなのかと、一人衝撃に打ち拉がれていると扉がノックされ、神流が入ってくる。
「目を覚まされましたか。では、一緒に夕食を食べましょう。」
そう言うと、一人の執事さんが夕食を載せている配膳車と一緒に入ってきて、後ろに居た他の執事さん達は部屋にやや大きなテーブルと椅子一脚を部屋に運び、テーブルクロスを掛ける。その上に次々と置かれる数々の料理。
「さぁ、食べましょうか。」
食べようと手前を見るが、箸やスプーン、フォークなどはない。ふと、神流の方に目を向けると、神流の近くにはあった。
「何れか食べたい物ある?」
そう言われ、いいかと諦観し料理を見回す。その中に焼魚があり、食べたいと試しに言ってみる。神流は直ぐ様焼魚の載る皿を俺の近くに置く。これでは、餌を前に待てと言われ、お預けを強いられる犬の様ではないか。そう思い、外して欲しい事を伝えようとすると神流が焼魚を解している事に気付く。然程経たず大体を解し終えると―
「あーん。」
少し摘まみ、口許に持ってくる。俺は渋々それを口に入れると、透かさずご飯も入れられる。咀嚼し飲み込むと―
「次はどれにします?」
食べたいものを尋ねられ、答える。神流が答えし食べ物を切り分け又は解し俺の口許にそれを持っていき、俺がそれを食べる。その行為は満腹になるまで繰り返された。
食事を終え、又歯磨きされる。それから、執事さんが用意した寝間着を着せる。何故、着替えを執事がしたのか。尋ねると、やはり裸体を見るのは恥ずかしいと。だから、入浴や着替えなど体が露となる事は執事さんがしてくれるらしい。つまり、バスローブは執事さんが着せたのか。女性でなくて良かった。
俺はふと、家に居る雨都の事が気になる。最近の事があり、何となく気にしてしまうのだ。




