決意と闇 2 ◎
雨都の身長を170→165に変更しました。
放課後。俺は自分の右腕に抱き着く桜と帰宅している。放課後になってからずっと桜はべったりと密着し、俺の腕に感触や温もり、鼓動を伝え続けている。俺は消え失せかける理性を留めるのに必死だ。他の仲間は恋路の邪魔になりますからと、暴れる紳司を黙らせて早々に帰ってしまった。
少しして、十字路が見えてくる。その事にこの状態に終わりが漸く来る、そう思うも桜は十字路で離れる事無く自宅前まで普通に付いてくる。しかも、そのまま俺に引っ付いて家に入ろうとするので、桜と暫し対話して自宅へ帰るよう促す。しかし、対話は難航する事を幾度か繰り返し暗礁に乗り上げる事もしばしば発生する。だが、何とか対話は成功し桜は家に帰っていった。
一息付き、家に入る。自室に入り荷物を置き、台所に行くと茶が注がれたコップがある。事前に用意してくれたようだ。俺はそれをぐびっと一気に飲み干す。空になったコップをシンクに置き、居間に向かう。途中、急な眠気に襲われる。これはきついな、そう思い自室まで早足で進む。部屋を開け、ベッドに腰掛けた所で耐え切れず眠りに落ちる。
ふと、寝返りを打とうと体を動かす。その時にじゃらじゃらと何かが擦れる音がして、眠りから覚める。俺はそれが何か調べる為、手で触れる。冷たく硬い感触と、それは円形で連なっている事が分かる。鎖だ。それは俺の腕に巻かれた分厚いものと、多分ベッドの四つの脚それぞれとを繋いでいる。寝返りを打つには問題ないが、動ける範囲がベッドの上のみ。どうしたものか、取り敢えず声を出してみる。すると、どたどたと階段を上がる音がし、続いて廊下を歩く音がし、そして扉が開く。勿論、部屋に来たのは雨都。運が悪い事に、母親は、今日は仕事の為早めに出勤している。
雨都は扉をそっと閉め、明かりを付ける。それから、俺の上に跨がり首筋に包丁を当てる。
「本当はこんな事したくないけど、兄さんが悪いのだから。」
「俺が何をしたと言うのだ。」
「兄さんは桜を、私ではない他の女を選んだ。だから、許せない。」
「兄さんは私だけを見ていれば良い。私だけを思ってくれれば良い。私だけに欲情を抱けば良い。…ねぇ、私だけを見てよ!私だけを愛してよ!どうして私を選ばないの!?どうして私を女として見てくれないの!?どうして・・・。」
最初は弱く、徐々に強く、そして最後は嗚咽混じりに最初より弱く言い切ったその姿は酷く儚く思える。雨都は何度か深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。
「私は兄さんが好き。死ぬほど好き。兄さん以外の男は嫌い。死ぬほど嫌い。兄さん、私の愛を受け取って。いっぱい、いっぱいね。」
深き闇を湛えた目で俺を見つめそう言うと、包丁で左手の五指の指の腹を切る。その手で俺の顔に何度も何度も触れる。優しく壊れ物に触れるかのように。その度に顔には血痕が残る。
「愛しい、愛しい兄さん。私を愛でて。うんと愛でて。」
包丁で今度は俺の左手の五指の指の腹を切る。俺は走る痛みに顔を顰めつつ、左手で同じように顔に触れる。雨都の顔にも血痕が残るが、浮かべる表情は喜びに満ちている。
「ありがとう兄さん。ずっと、ずっと一緒だよ。」
そう言い俺の左手の五指を舐り始める。一指一指を丁寧に口に銜え舐める。その様に背徳を感じるも、止める事はできない。此処で雨都を止めればどうなるか分からないからだ。
暫くして、舐る事を止め口付けをしてくる。それは最初は浅く、徐々に深き行いとなっていく。俺は抵抗をし続けるが、一切気にする事は無くキスを続ける。段々と雨都は顔は上気し呼吸も荒くなっていく。
漸く満足したのか、唇を離し包丁を持って部屋を出ていく。無論、俺は拘束されたままだ。
少しして、手に料理を載せたお盆を持ち部屋に帰ってきた。どの料理も良い匂いを漂わせ美味しそうだ。
「一緒に食べましょ。」
雨都はおかずを少し摘み口に含む。数秒口を動かしてから、それを俺に口移ししてくる。俺は諦めの気持ちで受け入れ、咀嚼し嚥下する。頬を紅潮させつつ食べ終えた事を雨都は視認すると、透かさず口に次のおかずを含み又口移ししてくる。俺は又それを咀嚼し嚥下する。それを専ら繰り返し、暫くして漸く完食。
それから眠るまで献身的な介護は続き、寝る頃には雨都は部屋を出た。




