第3話:ザ・パニック
裕也がアヤカシ荘に入居して数日が過ぎた。
最初の夜以来、彩たちもそれほど裕也が驚くようなことはせず、平和な日々が流れていた………
「さてと、そろそろ行くかな。」
スーツを着込み、ネクタイを締めると裕也はカバンを持ち部屋を出た。
今日は大学の入学式。キャンパスに入ると早くも部活やサークルの新入生勧誘合戦が熾烈を極めていた。
実際、裕也が正門をくぐり入学式の会場となる体育館までのおよそ100mを移動しただけで、20以上のサークルなどの勧誘のチラシが手に持たされていた。裕也はひとまずそれら全てをカバンにしまい、体育館へ入っていった。
裕也の入学した聖都大学は都心から電車で30分ほどの場所にある文系理系そろった総合大学である。裕也は元々文系なので、法学部法律学科と経済学部経済学科、それと社会学部歴史学科を受験し、法学部法律学科に合格したのだった。
学長の退屈な話を終え、裕也は外国語科目のクラス分けの書かれたプリントを渡されて体育館を出た。
裕也たち新入生がぞろぞろと体育館を出て行くと、入学式が始まる前よりも勧誘のチラシを配っている人の数は増えており、身動きが取りづらい状態にまでなっていた。
と、そのとき。勧誘のチラシを配っている集団の端っこで悲鳴があがった。裕也が背の高さを活かして悲鳴の上がったほうを見ると、雪子と彩、麻美が逃げ回り、その後ろから薫がなにやら叫びながら追いかけていた。さらにあたりかまわず薫が能力をぶっ放しているせいで、関係のない人々が巻き添えを食って石にされていた。裕也はため息をつきつつ、
「みんな、何をやってるんですか?」
雪子たちに声をかけた。
「あっ、裕也くん。ちょっとしたことで薫が怒っちゃって大変なのよ〜。なんとかしてくれないかしら?」
雪子が走りながら裕也にそう言う。とりあえずその場にいると薫の暴走に巻き込まれそうなので裕也も一緒に走り出した。
「い、いったい、なにをしたんですか?あのおとなしい薫さんがあそこまで怒るって尋常じゃないと思うんですけど……」
裕也が走りながら3人にたずねる。ちなみに、すでに裕也たち4人と追いかける薫以外は全員石にされていた。
「薫が昼寝しているときに麻美ちゃんが彼女の顔に落書きしたのよ。それで怒って、知ってて止めなかった彩や私も同罪だとか言って現在に至るってわけなの。裕也くん、止められる?」
雪子が事情を説明する。
「ちょっとしたいたずらですぐ落書きは消したのに、なんでそこまで怒るのかな〜?」
麻美は大して反省してないようである。そこで裕也は、
「麻美さん、それはあなたが全面的に悪いです。というわけで、うりゃっ!」
裕也は客観的に麻美を断罪し、走り続ける麻美の足をひっかけ、転ばした。
「きゃあっ!」
突然のことに麻美はかわすこともできずにすっ転び、その間に裕也・雪子・彩は建物の陰に逃げこんだ。
麻美が起き上がった直後、薫が追いついた。
「麻美……いつもは害がないからあなたのいたずらも放置しているけど、今回はさすがにいたずらの度を越えているわ。制裁を受ける覚悟は出来てるわね?」
薫は麻美にそう告げ、麻美がなにか言う前にふところから取り出した石のハリセンで麻美の頭をひっぱたいた。
それで気が済んだのか、薫は追いかけている間に石にした人々を元に戻し、何事もなかったかのように去っていったのだった。
裕也が「彼女たちを怒らせてはならない」ということを再確認したのは言うまでもない。
平和だったここ数日をあっという間に暗転させる入学式の騒動。
なお、薫によって石にされた人々は何が起こったか覚えていないらしい……
果たしてこの先裕也をどんな騒動が待ち受けているのか?




