第19話:クスリの副作用はアヤカシ荘の危機を呼ぶ
麻美の作った謎のクスリを飲まされた裕也。
果たして彼の運命はいかに?
「うっ……」
「あ、気がついた?」
どうやら気を失っていたらしい裕也が目を開けると、いつの間にか自分の部屋に運ばれていて、麻美がのぞき込んでいた。
「えーと、麻美さんに何か変なもの飲まされてあまりに変な味に意識が飛んでたのか……あれはなんだったんですか?」
裕也がそうたずねると、
「あれは実験用のクスリよ。飲んだ人に24時間限定で魔力を与えるクスリ。つまりそれを飲んだ裕也くんは明日の夕方くらいまで魔法使いになったってことね。」
麻美はさらっとそう答えた。
「なんでまたそんな変なクスリ作ってるんですか……」
裕也がため息をつきながらそう言った。
「なんとなく実験してみたくなったの。いきなり魔力を普通のヒトが持ったらどうするか、ってね。」
麻美は悪びれる様子もなくそう答えた。
「まあ、飲んでしまったものは戻せないから仕方ないですけど、別にオレは何もしないですよ。そんないきなり魔法使いにされたってうまく扱えるわけがないんですから。」
裕也はそう話し、立ち上がると夕飯の支度を始めた。
「能力は私のコピーでそれを弱めたものだから結構簡単に扱えるけどな。でもまあ仕方ないか。ゴメンね、たぶん副作用とかはないと思うけど、なんかあったらすぐ呼んで。」
麻美はそう言うと、裕也の部屋から出て行った。
「よっ……と。おっし、完成だな。」
裕也は実は料理が得意で普段はこうして自炊している。一人で作って一人で食べる寂しい食卓だが、ときどき彩や雪子たちが裕也の手料理目当てに食べに来るので特に寂しいとは思っていないようだ。
今日は誰も食べにこなかったので、一人で食べていたのだが、食べ終わって片付けようとしたときに異変が起こった。
「ぐっ!?」
ドクン、と身体の中で何かが脈打ち、その拍子に持っていた茶碗を床に落としてしまった。茶碗はガチャーンと大きな音を立てて砕け散り、あたりに破片が散らばった。
「な、なんだこれ……!?自由が利かない……!?」
裕也が床に倒れてうめいていると、さっきの大きな音を聞きつけた麻美や雪子たちが駆けつけた。
「裕也くん、どうしたの!?」
雪子がまず駆け寄り裕也の身体をゆすぶる。
「う…あ……」
裕也はただうめいているばかりで何も答えなかったが、突然、
「うあああっ!!」
ひときわ大きなうめき声を上げると、雪子の身体が弾き飛ばされ、壁に激突した。
「まずいわ、魔力が暴走している……早く中和しないと危険だわ。」
それを見た麻美がそう話す。
「どういうことなんだよ、裕也くんは普通の人間だろ?」
彩が麻美を問い詰める。
「ゴメン、話は後。ちょっと部屋に戻って取ってくるものがあるからその間裕也くんを抑えてて。」
麻美はそう言うと裕也の部屋を飛び出した。
「抑えるったって、コイツは手がつけられないぞ……」
彩が改めて中を見ると、さっき裕也に弾き飛ばされた雪子は一度は立ち上がり再び裕也に近づいたが、もう一度弾き飛ばされ、壁に叩きつけられ気絶した。それを見た薫が果敢にも突撃をかけたが、やはり弾き飛ばされ、今は彩の横で目を回して倒れている。すでに裕也の意識はないのか、白目をむいて倒れているが、近づけない何かを感じる。そこに麻美が戻って来た。
「これを飲ませれば落ち着くはず……彩さん、裕也くんの動きを封じるいい方法ないですか?」
麻美がそうたずねる。
「裕也くんは男だから本来はアタシの能力で簡単に動きを封じられるはずだが、今の彼の状態だとアタシの力じゃ到底足りない。雪子や薫なら遠距離でもいける能力だから心強いんだが……よし、アタシが突撃して裕也を力で組み伏せる。そしたらソイツを飲ませるんだ。後は頼むよ。」
彩はそう言うと裕也に飛びかかり、組み伏せようとあちこち身体を動かす。だが、近づくものを無差別に攻撃する暴走状態の裕也が彩をも弾き飛ばそうとする。
「くそっ、なんつーでけえ能力だ。なんだってこんな状態になってやがるんだよ……」
彩もどうにか弾き飛ばされまいと踏ん張り、ようやく裕也の身体を押さえつけた。
「麻美、いまだ!」
そのタイミングを見計らって裕也に近づいた麻美が魔力の中和剤を飲ませた瞬間、裕也の身体から力が抜けた。
その後、事情を全て話した麻美はいつものように怒られ、お仕置きをされていた。今回は危うくこのアパートが消滅しかけたこと、一般人に魔力を与えるなどという無茶な実験を行ったなどの理由でこれまでで一番きついお仕置きを受けたらしい。というのも、普段はお仕置き役は雪子が一人でやってるが、今回は裕也も含めて全員がお仕置きに加わっていたからだった。
こうしてアヤカシ荘最大の危機(?)は過ぎ去り、夜は更けていくのだった。
無事(?)事態は終息した。
中和したとはいえまだ副作用はあるかもしれない裕也の今後はどうなっていくのか?