第18話:サークル見学と麻美の怪しげなクスリ
親睦旅行から帰って数日後、裕也は勧誘を受けた卓球サークル《ピンポン・スマッシャーズ》に入るかどうか悩んだ末、とりあえず見学に行ってみることにした。
「えーっと、たしか体育館の第2小体育室って言ってたよな。あ、あそこだな。」
第2小体育室(卓球場)とプレートが掲げられた部屋に近づくと、卓球のボールが弾む軽快な音が聞こえてきた。
「失礼します。見学させてもらってもいいですか?」
裕也がそう挨拶して中に入ると、
「おお、北方くん。来てくれたのか。このサークルに入ってくれるのか?」
出迎えたのは裕也を勧誘した張本人、福田だった。
「いえ、とりあえず見学させてもらって、それから考えたいと思いまして。」
裕也がそう答えると、
「おっ、見学とはいってもちゃんとラケット持ってきてるじゃないか。どうだい、軽くここにいる連中と試合でもしてみないか?」
福田は裕也がラケットを持っているのに気づくと、そう提案してきた。
「お、面白そうじゃん。会長おすすめの期待の新人の実力を見せてもらおうぜ。」
上級生のひとりが福田の提案に乗った。
「先輩方がいいのであれば、断る理由はありません。よろしくお願いします。」
そんなこんなで一試合だけ行われることになり、サークル内実力No.1で副会長を務める宮田が裕也と試合をすることになった。ちなみにさっき福田の案に乗ったのはこの宮田である。
「11点1セットマッチ、北方サービス、プレイ!」
審判は福田が務めることになり、試合の幕が上がった。
そのころ、アヤカシ荘103号室、麻美の部屋では……
「よし、あとはこれを入れれば完成ね。2週間近くかかったけどやっとできたわ。」
部屋の隅に置かれた普通より少し大きめの鍋でなにか煮込んでいた。2週間近くと言っていることから、裕也が挨拶に来たときも煮込んでいたものだろう。
麻美が小さなビンから何かの液体を鍋にたらした瞬間、ボンッと言う音とともに鍋が煙を噴いた。
「ケホッケホッ、完成ね。飲んだ者に24時間限定で魔力を与える秘薬。実験台は裕也くんが適任かな。さて、どんな使い方するかしらね〜……」
麻美がコントのように煙を吐き出しつつも、怪しげな実験計画を密かに進めるのだった。
そんな計画を知る由もない裕也は、宮田との1セットマッチで8−10と追いつめられていた。
「まあ、このオレから8点も奪えれば上出来だ。そろそろ決着をつけさせてもらうよ。」
宮田は裕也にトドメを刺すためのサーブを放つ。
「チャンスはリターンエースただ一つ!この一撃で決まらなければオレの負けだ!食らえええ!!」
裕也が狙いすましたリターンスマッシュを放つ。決まったかに見えた瞬間、裕也側でボールが弾み、落ちた。
「甘いな、カウンタースマッシュだ。だが今の試合から判断するに、現時点でおそらくオレ、会長に次ぐトップ3の実力はあるな。一応うちはサークルだが、正式な大会にも出場することができるようになってる。今までの最高は個人ではオレが関東ベスト4、会長が関東ベスト8だ。そして、団体は関東ベスト4とまだ全国は未知の領域なんだ。だが君ともうひとり会長が目をつけたのが入ってくれれば全国をねらえるかもしれん。ぜひ入ってくれ。」
宮田はそう話し、裕也に入ってくれと頼んだ。
「わかりました。こんなオレでお役に立てるなら。正直宮田さんとの試合が面白かったし、宮田さんを倒すっていう目標もできたので、喜んで入らせていただきます。」
裕也はそう話し、卓球場を後にした。体育館を出ると、ちょうどいい具合に暗くなり始めていた。
裕也が帰宅すると、部屋の前で麻美が待っていた。
「おかえり、裕也くん。ジュースあるけど、よかったら飲む?」
麻美がそういってペットボトルを差し出すと、
「また何か仕掛けてるんじゃないですか?なんとなくそんな気がしたんですが……」
裕也は疑り深く、ペットボトルを受け取らなかった。
「ギクッ……と、とにかくゴチャゴチャ言わずに飲めばいいの!別に毒じゃないから。」
麻美はわかりやすく動揺を見せると、強気に出て一気に裕也の懐に潜り込み、無理やりペットボトルの中身を裕也の口に含ませた。
――ゴクン
「!?」
あまりに突然のことに驚き、裕也は口の中に流し込まれた謎の液体を飲み込んでしまったのだった。
サークルで敗北の悔しさを思い出した裕也はサークルに入ることを決意した。
ってか、変なクスリ飲まされて裕也はいったいどうなる?