第16話:温泉卓球後編 死闘再び
前回に引き続き卓球の話。
貴之との死闘を制した裕也は少し休憩を取り、戻ってくるとさっきまでいなかった女子たちが来ていた。
そこで裕也は女子にも経験者がいるのに気づき、一段落したところをみて近寄ってみると、智子と静香だった。
「へぇ、二人とも卓球得意なんだ。意外だな〜。」
裕也がそう話しかけると、
「それは北方くんだってそうだよ。あまりスポーツとかやらなさそうなのに実は卓球うまいなんて。聞いたよ、さっき田野口くんと死闘を繰り広げたんだって?」
智子が笑顔でそう話す。
「ああ、37−35でオレが勝ったが、まさに死闘と呼ぶにふさわしい激戦だった。今までそんな点数になったことないからね。」
裕也も笑って話すと、
「今はもう体力回復した?」
智子が急にまじめな顔になって裕也にたずねる。
「ああ、大丈夫だよ。おっ、勝負する?」
裕也も智子の意図に気づき、そう持ちかける。
「ええ、やりましょうよ。私は高校時代女子の部で全国ベスト16よ。」
智子が実績を披露し宣戦布告の代わりにする。
「オレは一応全国行ったが男子の部でベスト64止まりだな。だけど、負けないぜ。」
裕也もさっきは言わなかった自らの実績を披露し、宣戦布告にする。
「「いざっ、勝負!!」」
二人の声がそろい、再び死闘の幕が上がろうとしていた。
「対女子用必殺サーブ、ジャックナイフ!!」
裕也がそう叫びながら放ったサーブはかなりありえない回転を見せ、返そうとした智子のラケットの周りを1周し、智子の腕の周りをすべるように移動していった。そして肩のところまで行って床に落ちた直後、智子の右腕の部分の服がナイフで切り裂かれたように破れていた。
「な、なんなの今のサーブ……服を切り裂くほどの回転なんてそんなバカな……」
智子は今の1本でかなり驚きを隠せない。
「いいぞー北方ーそのままストリップショーだー!」
速人がのんきにそう叫んでいる。と、その直後、智子の服が元に戻った。
「裕也くん、女性の服を破くのはどうかと思うよ?私のイタズラよりたちが悪いと思うんだけど、どうかしら?」
麻美が魔法で智子の服を元に戻しながらそう非難し、速人はまたしても雪子に制裁を受けていた。
「うっ……」
その非難を受けて裕也が周りを見ると、女子全員がブーイングを飛ばしていた。
「わかった、わかりました。ジャックナイフは使わないよ。……たぶんね。」
裕也がそう言い、1−0で裕也リードから試合再開となった。
その後、またも死闘と呼ぶにふさわしいような試合展開となり、またもデュースにもつれ込み、激しいシーソーゲームの果て、スコアは31−30、裕也のマッチポイント。
「ぜえ、ぜえ、2試合続けてこんな展開は疲れるっての……」
裕也はすっかり息が上がり、苦しそうだ。
「はあ、はあ、高校時代は男子にさえも完封で勝利したことあったのに、北方くんは強いわ……でも、まだ終わるわけには行かない!」
そう言って智子が放ったサーブは、紛れもなく最初に裕也が使ったジャックナイフだった。
「まさかオレのサーブを模倣できる人材がいるとはな……だが、オレ自ら編み出したこのサーブ、対処法くらい身に着けているっての。自滅しな!」
裕也は感心しつつ、ジャックナイフを切り返した。より複雑な回転になったジャックナイフは智子のラケットを弾き飛ばし、おそらくパジャマかなんかだったのだろうTシャツを切り裂いて床に落ち、死闘に幕を下ろした。
「言っておくが、これは井上さんが自ら使ったジャックナイフであって、オレが使ったわけではない。だからこれも自業自得だ。」
裕也はふらつきながらそう言い、その場に座り込んだ。
服を切り裂かれて呆然としている智子に対し、理性を失った男子たちが襲いかかる寸前までいったが、観戦していた他の女子が総力を挙げて智子を守り、雪子たちも男子を抑える役に回ってくれたので、智子は無事だった。麻美がまた智子の服を直して卓球大会は幕を閉じ、親睦旅行最後の夜は更けてゆくのだった。
えーと、よい子はジャックナイフをマネしちゃいけません(いや、できないだろ)
これで2日目も終了、あとは3日目を残すのみ。
といっても帰るくらいしかないけど……