再び定山邸
一月ぶりの更新。これからも更新は遅くなるかもしれません。
◇◆◇◆◇◆◇
「……」
こんにちは、黒田将史です。今、僕は生まれて初めて黒塗りの車に乗っています。中は非常に広いです。何てったって大の大人が二人と僕が座っても広々している。正面に向かい合わせの席があるしね。
……まぁ、現実逃避していても仕方がないから、今の現状を報告すると、僕の両隣にはグラサン掛けた黒づくめのお兄さん方がまるで僕を見張るように、逃げられないように構えている。他には運転手がいるだけだ。……どうせ乗るならもっと穏便に、楽しく乗りたかった。
それに、半ば連れ去られるかんじに乗せられたので行き先も知らない。まさか、東京湾で海底探索ツアーにご招待とかないよな。
現実に目を反らしてばっかりじゃいられない。そろそろ聞き出さないとな……頑張れ、僕っ!
「……あ、あのぼ――いや私どもはいったい何処に行くのでございましょうか?」
「静かにしろ」
「はい」
すみません、無理でした。
そこ、ヘタレとか言わない。だってめっちゃ怖いよ。威圧感半端じゃないよ。何か言ったら物理的にぷちっとやられちゃいそうだもん。
「いづれ分かるから大人しくしていろ」
「はいっ」
顔に納得出来ないような表情でも浮かんでいたのか黒服の一人がそういった。いかん…顔に出したら不味いな。ポーカーフェイスだポーカーフェイス。
でも何も言わなくても、こっちに少なからず敵意みたいな物を感じる。僕、何かしましたっけ。
「……」
「……」
恭平ー。もたもたしてないで早く助けてくれぇ。
「……」
あれから車を走らせる事、数十分。僕の目の前には巨大な城がそびえ立っていた。ていうか、定山の家だった。また来てしまったなぁ。
定山邸に着いたら、黒づくめのお兄さん達によって車からポイっと降ろされ、そのままその人達は行ってしまい、現在、門の前に一人ぼっちである。さっきの状況よりは一人ぼっちの方が何倍もましだけど。
それにあの人達の僕を降ろす時のあの形相。サングラス越しからも分かる「何かしたら沈めるぞ」とでも言いそうな無言の威圧。やば、思い出しただけでチビりそうだ。一体僕が何をしたって言うんだ。それに、拉致紛いの事をして、定山は何を考えているんだ?
「…それにしても、一体どうすればいいんだ?」
目の前には相変わらず巨大な門。右を見ても、左を見ても家を囲っている城壁しか見えず、人っこ一人見当たらない。
ここで降ろされたって事はきっと定山に呼び出されたって事なんだろう(強制)。ま、話したくても学校では無視してたからなぁ。こんなことなら話しを聞いとけばよかったか?
「そうだとしても入れないよな?インターホンないし……」
人もいないし、無理矢理開ける何て余計に出来るわけないし。
「……もう、帰っていいかな。僕、正直、定山と会っても話す事ないんだよね…ていうか、会っても困る。何言われるか分かんないし、本当に帰ろう」
「お待ちしておりました」
「おわっ!!」
帰ろうとして、門に背を向けて歩き出そうとしたところ背後から光坂さんが声を掛けて来た。
「何をそんなに驚いているのですが?」
心底不思議そうな顔で尋ねてくる。そりゃ、ビビるよ。誰もいないと思っていたところに、いきなり気配を消して現れるんだもん。
……ていうか、さっき確認した時は誰も通りにいなかったよな。どうやって現れたんだこの人。まさか飛んで来たのか?
「いえ、将史様が帰ろうとした時に合わせて門を飛び越えました」
「忍者ですかあなたは!ていうか、人の心の中を読まないで下さいっ!!」
漫画でも基本的にはメイドさんはスペックが高いのが相場だけれど、現実のメイドさんってのもこんなにスペックが高いものなのか。
「……いや、それほどでもありませんよ///」
「……もういいです」
もう、人の心を読むなとか、顔を赤らめるなとか、照れるとこじゃないし誉めてもないって言う諸々のツッコミはなしの方向で。
「……結局、僕をここに連れて来た(強制)のって定山――さんの差し金なのでしょうか?」
このままでは本題から逸れてしまいそうなので、早速本題に入る。
「いえ、いづみ様は将史様を連れて来たことは存じておりません」
「?」
ん、どういう事だ?定山が呼び出していないんだったら、誰が呼び出したんだ?……まぁ、よく考えれば定山がここまで強行策に出る必要はないわけで。
「じゃ、一体誰が僕を(強制的に)連れて来たんですか?」
「誰だと思いますか?」
「……いや、分からないから聞いているんですが」
一体何なんだ、この人は。
「正解は私、光坂つくし本人でした。わー、ぱちぱち」
「……で、結局、何でここまで連れて来たんですか?」
話しが逸れすぎて忘れそうだが、光坂さんが連れて来たにしても何で連れて来たんだ?まぁ、多分……というか絶対定山のことだろうから行きたくないなぁ。
「立ち話も何なので中へどうぞ」
「いえ、おかまいなく。ここで結構です」
「立ち話も何なので」
二回目を言ったら家の門が開場した。
「……わかりました、ではお邪魔します」
もう逃げられそうにない。それならうだうだせずに光坂さんに従うのが賢いだろう。どうせ拒否権なんてないんだしね。
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案内されたところは、この前来た時の定山の部屋ではなく(当たり前だが)別の部屋に通された。定山の部屋ほどではないにしても、その大きさはかなりのものである。(もちろん僕の部屋よりもでかい)
部屋の中にはシングルベッドが一つに、テーブルとイスのセットが真ん中にあり後は本棚などが鎮座している。
しかし、注目するのはそこではない。部屋の至るところにくま、ねこ、いぬ、とりなどなど、様々な種類のぬいぐるみがところ狭しと置かれているすごいファンシーな部屋だということだ。
一体この部屋は誰の部屋なんだ?
「この部屋は私の部屋でございます」
「光坂さんの部屋なんですか?」
「はい、本当は客間のお通しするべきなのでしょうけれど、私の独断で連れて来てしまったので。メイドなのに部屋があるのは、当主の意向でメイドにも一部屋ずつ与えられています。まあ、そんなにいませんが」
成る程。つまり定山家当主はメイドさん一人一人に部屋を与えるほど器の大きい人ってことか。
そして、このファンシー使用の部屋も光坂さん使用か。光坂さんがぬいぐるみを抱いてかわいがっている姿……似合わねぇ。
「今、何か失礼な事を考えてませんでしたか?具体的には似合わない部屋だとか」
「い、いえいえ全然、まったく持って完璧にそんな事は思ってないでございます、はい」
そうだった、この人って心読めるんだ。迂闊な事を考えるのはもう辞めよう、うん。
「そうですか、それならばよろしいです」
そういって部屋の中に入って行く。二回しか会っていないから当然なのかもしれないが、この人まったく表情を変えないで段々と作業をこなしているな。何を考えているか分かりゃしない。そのくせ、冷たそうに見えるけど実はお茶目で可愛いものが好きだってわかる。
「……なんだかなぁ」
人を見かけで判断しちゃいけないって言うけど、本当のことだって最近よく思い知らされるな。
「……僕を呼んだのは定山さんの事ですよね?」
僕とこの人の接点なんてそれくらいしかないしな。
「お察しの通り、いずみ様の事でございます」
やっぱりそうだったか。多分、家族にもあの事は秘密にしているだろうから、何があったのか聞きたいんだろうしな。
「申し訳ありませんが、約束がありますので何があったのかは言えません」
「いえ、何があったのかは知っています。大方、教室でキャラまねしていたところを将史様に見られたってところでしょう。約束はそれをばらさない…とかでしょうか」
あれぇ?あの事――あの趣味――については秘密なんじゃなかったっけ?それとも僕の考え間違ってた?
「いえ、いずみ様はあの事を隠していますよ」
「では、何で知ってるんですか?」
「メイドたるもの、いつ如何なる時でも主人を守れるようにするものです」
そういって、エプロンの中から小型のトランシーバーのような物を取り出してこちらにどことなく、誇らしげに見せてくる。
「といっても、そこまで細かく知っている訳ではありません。将史様はいづみ様について何処まで知っていますか?」
盗聴機をつけていても、四六時中聞いているわけでわないのか。
「……別に、特に何も聞いてないですよ。知っている事は定山がああいう趣味を持っていて、辞めようとしているって事くらいです」
本当はその趣味を低俗だと思っていりらしいけど、そこまでは言わなくていいだろう。
「そうですか……」
「……」
一言そう言って、光坂さんは何やら考えごとを始めたようで、無言になる。
光坂さんが何を考えてるのかは知らないけれど、こっちは定山と話す事はないし、このまま此処にいたら定山と鉢合わせしてしまいかねない。
もしかして、この人はそれを狙っているのだろうか。
「将史様」
「はい?」
考えがまとまってのか、いつもの無表情な顔をこっちに向けて声を掛けてくる。
「これから話す事はあくまでフィクションです」
「は?」
いきなり何を言い出すんだこの人は。
「実際の人物とは何ら関わりはないので、そのつもりでお聞き下さい」
「はぁ、分かりました」
考えこんだと思ったら、急によくわからないことを言ってくる。一体何なんだろうね。
「このお話は、ある一人の女の子のちょっとばかり昔の話――」
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次は定山の過去話です。いつ投稿出来か分からないですが……感想くれると嬉しいです。