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日常…やっぱりそうでもないです

◇◆◇◆◇◆◇




 一晩開けて翌日。昨日の事があって――認めたくはないが、定山のことを考えていて――ほとんど眠ることが出来なかった。

 それに昨日、定山の家にまで行って謝りに行ったわけだが、本当に今日、来るかどうかも分からない。結局、怒鳴りちらしちゃったしな。

 それに、恭平にも悪い気がする。定山が休んだ先週から恭平の姿は見るにたえないものだった。あっちでそわそわ、こっちでそわそわ。教室に誰かが入ってくるたびに、何かを期待して覚醒する。そして、入って来た人を見るとまた落胆して席に戻る。

 他にも色々と珍行動を恭平はとっていたけれど、ここでは割愛しておこう。恭平の名誉のためにも。

 そして、今教室の自分の席に座っている。色々前置きが長くなってしまったけれど、結論からいえば、定山は翌日から何事もなかったように学校に来た。


 ……何事もなかったというのは少し語弊があった。定山が登校してきた時は、さながら大名行列のようであった。


「……はぁ」


 結局、昨日までの悶々とした日々や、昨日の夜にあれこれ考えたことは無駄だったってことだ。


「ていうか――」


 昨日、僕が行った意味なかったな。時間を無駄にして切れただけだしな。

 それに、これだけ人気者なんだ。きっと僕が行かなくても、そのうち誰かが家を調べあげてお見舞いやら何やらしに行くだろう。定山とはそういう立ち位置にいる奴だ。

 さっき定山のクラスに行って覗いてきたところ、クラスメイトに囲まれて質問攻めにあっていた。昼休みの今もたいして変わらない――それどころかもっと大変なことになっているかもしれないな。


「まさ、一緒に飯食おうぜ~」


 恭平が飯の誘いに来た。片手には弁当を持っている。


「別にいいけど……」


 そういって手をぶらぶらさせる。


「あ、成る程。何もないってわけね」


「そういうこと。ちょっと購買に行って買って来るから待ってて」


「あ、じゃあ。飲み物買ってきてくんない?金は後で渡すから」


「……何買ってくんの?」


「サンキュー。ペプシ頼むわ」


「……りょーかい」


 そういって後ろ手を振りながら、教室を後にする。









 僕達の高校の購買は何て言うか、至って普通の購買だ。どこぞの漫画のように血で血を争うパンとり合戦(笑)なんてものもなく、名物になるような物もない。

 ただ、パンと軽食、紙パックの飲み物などが売っているだけである。

 余り料理が得意ではない僕はわりとここのパンで昼飯をすますことが多い。ちなみに僕のオススメは焼きそばパン。理由は冷たくても美味しく食べられるし、安いしね。


「え~と、確かペプシだったよな……僕はウーロン茶にしておこう」


 購買のおばちゃんにペプシとウーロン茶、あと焼きそばパンを注文しとお代を渡す。


「これで300円以内なんだから安いよな」


 貧乏学生には非常に嬉しい価格設定だ。……早く料理も出来るようにならないといけない。

 そんなことを考えながら歩いていると、前方に人だかりが見えてきた。


(…あれは)


 人混みの中心はほとんど見えないし、声も聞こえないけれど、大体誰があの中心にいるのかは想像がつく。


(あえて横を通る必要はないな。少しだけ遠回りになるけど、こっちの階段から行こう)


 そう決めて、曲がり角を右に曲がろうとした時、人混みの中から一瞬だけその姿が見えた。その瞬間、タイミングが悪く定山と目があってしまった。


「……」


 気にする事の話しでもないだろう。昨日あれだけの事を言ったんだ。もう話す事はないし、あっちも話したくないだろう。


「……せ……ん」


 後ろで何か話している声が聞こえる。そのままそれを無視して歩いていく。


「……」


 後ろから慌ててついてくる気配を感じる。追い付かれないようにペースを上げながら歩き去ろうとする。


「……くん」


「……」


「将史くん!」


「……」


「将史くん!!」


 無視し続けていたら定山が僕の前に来て声を荒らげる。


「……何でしょうか?」


 出来るだけ感情を出さずにそう言った。


「…!」

 しかし、定山は何かを察したのかひどく悲しげな、ちょっと怖がっているよいな顔をした。

 待つこと数秒、覚悟を決めた様子で定山が話しをしてくる。


「え、えっと昨日の…こと…何ですけど私のい――」


「昨日がどうかしましたか?僕達会いましたっけ?」


 定山の言葉を遮ってそういう。こいつは昨日、僕が定山の家に行ったことを普通に話そうとしていたが、冗談じゃない。そんなことしたら聞き耳を立てているギャラリーに取っ捕まって尋問と拷問をされるに決まっている。全部ゲロるまで何をされるかわかったもんじゃない。僕はゴメンだね。

 それに、定山とは話したく無ければ顔も見たくない。


「……二度と話しかけないでくれって言ったでしょ。それに状況を見て話して下さい」


 忠告の意味を込めて、周りには聞こえない程度の声で定山に話しかける。


「!!す、すみません」


 ようやく自分の迂闊さに気付いたのか小声で誤ってきた。これ以上の厄介ごとは御免なのでその場を後にしようとする。


「ま、待って――」


 定山の言葉を遮るように予鈴がなった。


「早く教室に戻ったほうがいいですよ。それとも僕を遅刻させたいんですか?」


 ここぞとばかりに話しを切り上げる。嫌味が入っているのはご愛敬だ。


「……わかりました」


 渋々といった、まったく納得のいっていない様子で定山は言った。


「では、僕はこれで」


 周りの人の羨望と嫉妬の視線もきつくなってきたし、そうそうにその場をとんずらする事にする。

 まったく、本当に何なんだろうね。




◇◆◇◆◇◆◇




 定山の家に行ってから数日がたった。もう関わる事がないと思っていた彼女の行動理由が分からない……まぁ、実際は何となく分かるんだが。

 飲み物を買う帰りのコンタクトの後も定山は僕に何かと話しかけようとしてくる。はっきり言って迷惑以外の何者でもない。出来るなら恭平と話してくれ。喜ぶからさ。ま、人前で話しかけることはかなり少なくなったけどな。

 とにかく、定山はあれから何度も話しかけてくる。そして、それを僕は無視する。

 最近の定山は僕のせいか分からないけれど、無視するたびに元気がなくなってきている気がする。ちょっと罪悪感を感じないこともないけれど、まぁ、それとこれとは話が別だ。


「まさ、一緒に帰ろうぜ」


「分かった。ちょっと待ってて」


 時刻は放課後。帰ろうとしていたところ恭平からのお誘いがかかった。拒否する理由もないので一緒に帰ることにする。


「よし、お待たせ。んじゃ、帰ろうか」










 






「今日、まさの家行っていいか?」


「?別にいいけど、どうしたんだ?」


「いや、今日は月曜日だろ……だから」「あー……成る程。ジャンプね、了解」


「あざーす」


 恭平はオタクではないと言ったけど毎週月曜日には僕が毎週購読しているジャンプを読みに家に来る。意外と漫画好きなのだ。そんなに漫画が好きなら自分でジャンプくらい買えって思う。

 恭平は僕と違って家族と一緒に暮らしているから小遣いを余り自由に使えないみたいだ。そういう時に一人暮らしの仕送り生活は便利だと思う。夜遅くまでアニメを見てても文句は言われないし、夜遅くまでゲームを買いに並んでも怒られないしな。……何か僕のせいでじわじわと恭平がこっちの道に踏み込んで来ている気がする。何か申し訳ない。

「……最近、遊びすぎて小遣い減らされちゃったんだよな……はぁ」


「……それは…何というか…御愁傷様です」


「……サンキュー」


 何か本当に申し訳なくなってきたなぁ。


「ま、実際小遣いが減っても困ってないけどな!!」


「さっきの反省を返せこの野郎!!もうジャンプ読ませてやんねーぞ!!」


「申し訳ございませんでした!!」


 そういって恭平は頭をものすごい勢いで下げてくる。まったくすぐ調子にのるのがたまに傷である。


 そんなくだらない事を話しながら、下駄箱に行き、靴を履き替えて下校する。


「……なんだありゃ?」


「どうした?」

 恭平が聞き返してくる。正面の正門には黒塗りの車(あんな長い車、初めて見た)があり、その周りにはこれまた黒服のお兄さん達がいる。そんな光景を周りの生徒達は遠巻きに眺めているという、何ともカオスな光景になっていた。


「うっわ。あんなの初めて見たぜ」


 相方も初めて見るらしく、物珍しがっている。興味津々で今にも近づいて行きそうだがさすがの恭平もあれに近づくのには抵抗があるのか、近づこうとしない。一瞬近づくかと思って焦ったが徒労だったようだ。

 波風を立てないように僕達は他の生徒達と同じく、遠巻きに見るだけにしてその場を後にしようとする。


「……目標を確認」

 ちょうど横を通った時にそんな声が聞こえる。ん?目標?はは、目標になる人はかわいそうだな。こんな黒づくめの人達にさらわれたら、きっと薬を飲まされ、見た目は子供、頭脳は高校生の某小学生にされてしまうよ。本当に不幸だな。


 ん?何か僕達の方に近づいてきたぞ。はっ!まさか目標って言うのは恭平の事か!いったい何をやらかしたんだ。


 んん?どうして僕を囲むんだい?何恭平を安全地帯までエスコートしているんだい?

 どうして距離を縮めて来るんだい?肩を掴むなよ、痛いじゃないか。

 そして、そのままズルズルと引きずられ、連れ去られていく僕。


「いやー!!た、助けてくれぇー恭平ー!!」


「まさーーカムバーーック!!」


「いーーやーー」


 何で僕?とか、このまま連れ去られて南国で社会福祉活動か?やらいろいろ頭の中に浮かんだけれど、何よりも――


(黒服がいると自分が拉致られる。テンプレってこういう事か)


 と、ちょっと感動している人がいた。ていうか僕だった。

 みんなの好奇な目線と恭平の見送りのもと、黒塗りの車に乗せられた。

 本当、いったいどこでフラグを立てたんだろうなぁ……







◇◆◇◆◇◆◇








 

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