いざ、定山邸へ!
◇◆◇◆◇◆◇
「……」
「定山さん、今日は休みなんだってさ……」
翌日、定山の教室を覗いてみたら定山は教室にはいなかった。
その後、周りの話しを聞くと、どうやら定山は今日は休みらしい。
体調不良で今日は休みだそうだが、それは嘘だろう。昨日あんなに元気で――しかもあんなに全速力で、大声で叫んで――いたのに、今日に限って調子が悪くなるなんてありえない。
(やっぱり……昨日のあれが原因なんだろうな……)
どう考えてもそれしかない。あの教室スターライトブレイカー事件(僕命名)。おそらく、自分がそういう趣味である事を周りには知られたくなかったんだろう。
「なぁ、まさ。お前までどうしたんだ?朝から変だぞ?」
正直な話し、定山の気持ちは頭では分かるが、根本的なところで分かっていない。
「おーい」
「……」
オタクというのが、世間一般では風当たりが強いのは、誰よりも分かっているつもりだ。
でも僕はオタクである事に誇りを持っているし、過去にそれによって救われた事もある。
「まさ……無視しないでくれよ……」
「悪い悪い。ちょっと考えごとしててさ。後、無視されたくらいで泣くなよ」
また思考に没頭してしまった。本当、悪いくせだな。
「な、泣いてないやい!!」
「じゃ、さっきぬぐった水は何かな、君」
「き、気のせいだろ!」
「……」
その後、恭平と他愛もない話しをしていると先生が来たため、恭平は席に戻って、僕は次の授業の準備を始めた。
(今更うだうだ考えたってしょうがないよな。明日、定山が学校に来たら話そう。明日になればさすがにくるだろう……)
結論から言うと、僕はあまりにも楽観的に考えすぎていたのかもしれない。
なぜなら、定山は翌日になっても、その次の日になっても定山は来ることはなく、結局この一週間姿を見せる事はなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
「……」
今、目の前には凄い豪邸がある。いや……これを家と呼ぶのはおこがましいかもしれない。僕には西洋風の城にしか見えない。
「……これ、マジで定山の家か?」
そう、これは定山の家である。今まで定山の家を知ろうとした人は誰もいなかった。追跡しても撒かれるらしい。
それなのになぜ、僕が定山の家?を知っているかというと――特に理由はなく、先生に住所を聞いただけだ。何でもこれまで尋ねてくる人はいなかったそうだ。
……なぜ追跡(という名のストーカー)をするのに先生に聞かない。単に聞き忘れたのか、追跡する状況に酔っていたのか分からない。だが、何にせよ――
「バカすぎるだろ……」
とりあえずそういう背景で僕はここにいる。それにしても――
「マジで乃○坂家みたいだ」
オタクっていうのも合致してるしな。
「……」
やっべ、入るの緊張してきた……
「ていうか、呼び鈴何処だ?」
そんな感じに入り口付近であたふたしていると、後ろから声を掛けられた。
「あの、どちら様でしょうか?」
「おわっ!」
突然声を掛けられて、大声を出してしまった。ちょっと恥ずかしがりながら振り返るとさらに驚くべきものが――
「……メイド?」
「?はい、そうですが?」
うん、まぁあれだ。予想はしていたよ。でも本当にいるんだな、メイド。
「……用件は?」
そうだった、僕、不審者に間違われてるんだっけ。
「あ、えっと、僕は黒田将史っていいます。あの、定山……さんの家がここで、えっとだから、休んであのっ、言いたい事があって――」
何かぐだぐだだった。死にたい。これで理解出来るやつはいないだろう。
「つまり、いづみ様に話したい事があってこちらまでいらっしゃったご学友、ということですね」
「……」
わかっちゃったー、何で分かるんだー……。
「……」
顎に手を当てて考え始めるメイドさん。
(うーん……何か迷ってる?ていうか、困ってる?まっ、そりゃそうだよな。完全に僕、変質者の変態だったからな……)
「あっ、えっと、何か突然押し掛けちゃったみたいなんで、また出直し――」
迷惑そうに見えたので、丁重にお断り願おうとして、そう言いかけたところ(決してこのでかい家?にびびったわけじゃないからね!)
「わかりました、ではいづみ様のもとへご案内します」
「してきま――えっ?」
「ですから、ご案内します」
そういうと、あのばかでかい門が開いた。自動のセンサーでもついているのかね。
「では、ついてきて下さい」
「……」
そろそろ本当に覚悟を決めたほうがよさそうだな。
「私の傍から離れないで下さい。遭難するかもしれないので」
「……えっ?」
家の中で遭難とか(笑)、でもそれを笑い飛ばすことができない敷地がここにはある。
「おわっ!」
時には、まさしく藪から蛇に襲われたり
「……ここは何処だ?」
予想外に歩くのが早いメイドさんに置いていかれ迷子(遭難?)になるなど、家?までの道のりは散々であった。
そして、ようやく家の前までたどり着いた。
「ぜぇぜぇ……」
「ここが家の扉です。……どうしましたか?」
「ぜぇ……いえ、ぜぇ、何でも……はぁありません」
何でこの人はまったく疲れてないんだろう。
「では、中へどうぞ」
そういって、家の中に入って行くメイドさん。僕もそれに習ってついていく。
「……うわ」
外観から想像していたけれど、中もまるで城みたいだな。
「……」
定山までの道のりはまだまだ遠いみたいだ(物理的に)。
「こちらがいづみ様のお部屋になります」
何度か迷子になりかけたけれど、その度にメイドさんに助けてもらってようやく部屋にたどり着いた。
「はぁ、ありがとう、ぜぇ、ございます」
例のごとくメイドさんは涼しい顔。
「……いづみ様は先週からずっと部屋にとじ込もっています」
「……」
「ご飯も余り食べておられないみたいで……」
「……」
そこまでの状況……か。
「ですから、いづみ様をよろしくお願いします」
「……善処はします」
そういって、メイドさんは一歩後ろに控える。
「……」
ここは乃○坂のラノベを参考にやらしてもらおう。といってもほとんど参考にする事なんてないんだが、とりあえず部屋に入れさせてもらわなければどうしようもない。
ラノベであったように、部屋から出ない可能性は高い。とりあえず乃○坂を見習って出てこなければ、好物で誘ってみよう。
「……ふぅ……よし」コンコン
深呼吸して気合いを入れてノックした。
「あ、えっと……黒田だけど、覚えてるかな?同じ学校何だけど……」
さすがにこれだけじゃ、返事もくれないか?
「えっと――」
「……将史くん?」
話しを切りだそうとした時、予想外に定山のほうから声が聞こえた。
「……!!」
「……」
メイドさんも驚いているみたいだ。こんなに簡単に返事が来るとは思わなかったのだろう。
「えっと……ほら、もう何日も休んでるから心配でさ」
「……」
「……だから、その」
周りくどい言い方はだめみたいだな。なら、直球勝負でいこう。
「……」
「……あの時の……先週のあれのことで、定山に話したいことがあるんだ」
正直、これは定山の傷をえぐってしまい、余計に部屋に引きこもってしまう可能性がある。
なのに、どうしてそこまでしたかというと、特に理由はない。強いて言うなら、このままではいけないと、漠然と思ったにすぎない。
「……」
(やっぱり、だめだったか……)
そう思って次なる乃○坂作戦を決行しようかどうかを思案していると――
「……将史くん」
「!!何!?」
また返事があった。
「話しってあの時の……教室のあれだよね」
「そう、そうです!その事で話しがしたくて。ここで話すのでもいいから、少し話しを聞いて貰えないかな!?」
今を逃したらもうチャンスはないと思った。だから、今この時に出来る事はやろう。
「無理なら返事もしなくていいから!だから、聞くだけは聞いてみてくれないから!?」
(……何も反応はないか。なら仕方ないな。)
「先週の――」ガチャ
扉を開けてくれないので、扉の前で話そうとした時、定山の部屋の扉が開いた。
「定山……」
「将史くん、入って……」
定山が少しだけ扉から顔を出しながらそう言ってきた。
「……いいのか?」
「はい……将史くんだけなら。それに、そんなところであの事を言われても困るし……それに……」
と言って、メイドさんのほうをちらっと見る。
(あー、成る程、聞かれたくないってことか……)
「分かった。じゃあ……」
そう言ってメイドさんのほうを向く。
「……」コク
頷いて、その場を離れるメイドさん。察しがよくて助かるよ。
「……」
その場からメイドさんが去ると、定山も部屋に入ろうとしてしまう。
「……失礼します」
さぁ、ここからが本番だ……
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