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秘密

◇◆◇◆◇◆◇



「定山さんと一緒に帰りたい!」


「……は?」


「だから頼む!この前みたいに力を貸してくれ!」


 あれから数日。すっかり調子を取り戻し、中間テストも終わり、いつもの日常に戻りつつあった。

 恭平はあれから定山の教室に度々(しょっちゅう?)行き、定山と楽しく話をしているみたいだ(恭平談)


 僕はというと、最初のジャージを渡して以来、定山のクラスには行っていない。行く意味もないし、行くのもちょっと怖いし。

 でも何でか分からないが、定山は僕を見かける度に、僕に話しかけようとしてくる。(その度に周りの視線がきつくなるから、無論逃げるが……)

 ちなみに、あんなに意気込んでいたが、あれから定山からのメールや着信は一回もない。

 そういう事情もあって、定山と恭平は結構うまくいってるんだと思っていたが……


「……いや、僕にじゃなくて、普通に定山に頼めよ。仲良くなったって自慢してただろ」


「そこまで仲良くなったわけじゃない!!」


「ドヤ顔で言うな!」


 仲は思いの外、進展していないらしい。正直、僕が協力しなくても定山なら誘えば一緒に帰ってくれそうなもんだけど。


「分かった。協力するって言っちゃったからな。協力するよ。ちなみに結構は今日」


 そういうと、恭平は驚いて飛び上がった(比喩ではなく)

「今日!?」


「一緒に帰るのに明日以降にしたって仕方ないだろ」


「でも心の準備が……」


「そんなこと言ってたら何時までたってもできないから。今日で決定。異論は認めない」


「わ、分かったよ……」


 こちらが強く言うと恭平も渋々了承してくれた。きっと恭平にも思い当たる節があるのだろう。


「……で、恭平は定山を誘うほど仲良くないんだよな」


「ああ」


「……ということは、一緒に帰ろうって誘うことは――」


「出来るわけがない!!」


 こいつ……考える気あんのか?あっ、ないから僕に頼んでんのか。

 でも、誘えないとするとやれる事は一つしかない。オタ知識もへったくれもない。


「……校門にはりこむ」


「えっ?」


「定山と一緒に帰るための作戦。誘えないならこれしかない」


 誘えない以上、これしか方法はない。

「作戦の内容は――」


 まずホームルームが終わったら校門まで急いで行く。その後、定山が出てくるまで僕と恭平は待機。出てきたら、偶然を装いつつ一緒に帰る、という実にシンプルな内容だ。

 教室にしないのは、教室でばったりって言うのは無理があるし、恭平の友達に囲まれる可能性があるし、何より知り合いが多くて恭平が恥ずかしいらしい。

 その内容を伝えると――


「やっぱすげぇよ!まさ!」


 めちゃめちゃ絶賛された。作戦と言えるほどのもんじゃないんだけどなぁ。


 作戦も決まった事だし後は放課後まで待つだけだ。


「しっかりやれよ、恭平」


「おう!」


 返事だけはいいんだけどなぁ。





◇◆◇◆◇◆◇




「来ない……」


「あぁ、来ないな」

「……」


「……」


「何で!何で来ないんだよ!!もしかしてもう帰っちゃったのか!?俺と帰るのはいやなのか!?」

「あぁー。うるさい」


 時は流れて放課後。自分のクラスのホームルームが終わってから、僕達はずっと校門に張り込んでいるが、そろそろ最終下校時刻なのに定山が通らない。


「帰ったって事はないだろう……教室も覗いたらホームルーム中だったじゃん」


「そうだけどよー……」


 僕達は待ちぼうけを食わないように、この間の反省を生かして、定山のクラスがホームルーム中である事を確認して出てきた。

 この学校には裏門はないから、必ず学校の何処かにいるはずだ。


「定山さんどうしたんだろう。定山さん……」


 恭平もさっきからこの調子で色々と限界そうだ。


「恭平はここで待ってて。ちょっと教室見てくるから」


「なら俺も――」


「あほ。入れ違いになったらどうする。もし僕がいない間に定山が来たら、僕を置いて帰っていいから」


「でもそれじゃ――」


「あほ。それじゃ、何の為に待ってたのか分かんないだろ」


「あほあほ言うなや……分かったよ。頼んだぞ」


 話しがまとまったところで恭平と一旦別れて、定山の教室に向かった。










 教室への階段をてくてくと歩いている。最終下校も近いせいか、今んとこすれ違った人は誰もいない。


(誰もいない学校ってやっぱり不気味だな……ていうか、定山は本当にいるのか?)


 恭平にはああ言ったけど、本当は裏門をなかったとしても、校舎から出る方法はいくらでもある。実は、定山が学校にいる可能性はあまり高くなかったりする。

 もう中間テストも終わったから残っている意味ないしね。

 程なくして、定山のいるクラスの教室に到着する。しかし、ここで僕は後悔する事になる。どうせ誰もいないだろうと思っていたため、中を確認せず。ためらいもせず、勢いよくその教室の扉を開けてしまったのだ。

 繰り返し言うが、正直、後悔している。



ガラガラ


「……」


「……」


 しかし、こういったシュチュエーションはよくラノベや漫画、アニメでよく見かけるな。

 例えば、は○ない。これは、ぼっちの主人公が図書館で遅くまで勉強していて、その後教室に戻ると、ヒロインの一人のめちゃめちゃ残念な姿を目撃してしまう。

 そして、なし崩し的にそのヒロインとその愉快な仲間達とのはちゃめちゃな生活に身を投じていく、という話だ。


「……」


「……」

 つまり、何が言いたいかと言うと、人には誰しも隠したい秘密の一つや二つあるってことだ。は○ないのヒロインはメンタルがたくましすぎたので問題なかったが、リアルではそうもいかない。

 だってそうだろう。例えば必死で隠していたエロビデオが見つかったら死にたくなるだろう。

 つまり、といいつつ話しがそれてしまった。で、結局、何が言いたいのかというと――


「……」


「……」


「……スターライトブレイカー?」







 そう、教室にいた生徒――定山が箒を持ちながらノリノリでな○はのキャラまねをしているのだ。ちなみに服装は普段の制服姿。それでも僕がスターライトブレイカーだって分かるってことは、かなりのクオリティであるということだ。

「……//」カァ


 定山の机の上にはな○はの漫画が置いてある。

 あぁ、成る程。あれに触発されて、つい教室でキャラまねしちゃったってわけか。

 と、予想外の事態すぎて逆に冷静になっていた。


「い……」


「い?」


「いやあぁぁぁーーーー!!!!」


「いたっ」バンッ


 定山は大声で叫んで、僕を押し退けてそのままものすっっっごい勢いで走りさって、教室を出ていってしまう。


「……」


(すごい大きな声だったな……ていうか、周りに誰もいなくてよかったな。こんなの見られたらフルボッコだよ……)



「っていうか、そんな冷静に考えている場合じゃねぇよ!!」


 あんな恥ずかしそうにして、しかも逃げ出したんだ。その様子は尋常じゃなかった。

 まるで、この世の終わりに直面したような絶望の形相だった。ノックくらいすればよかった。


(こういう時、現実を思いしらされる……)


 もし、写○眼があれば先読み出来たのに。瞬○があればあっというまに、定山に追いつく事が出来たのに。もし……もし、僕が主人公ならこんな逆境、すぐにひっくり返せるのに。

 たった一瞬の戸惑いが取り返しのつかない時もある。今がそうなんじゃないのか?

 しかし、そう思っても時すでに遅し。僕の足では定山にはもう追いつかない。

 これが主人公なら――それこそ恭平だったのならば、あるいわ定山のことを追いかけていたのかもしれない。「明日……また明日、定山と話せばいい」


 そう、妥協案にすがりつく。つくづく自分の事が嫌になる。



 そう決めて恭平のもとに戻った。もしかしたら恭平が定山と会ってるかと、びくびくしていたが徒労に終わった。

 やっぱり定山は正門を通らないルートで帰ったようだ。

 恭平は僕と合流した後も、「定山さんはいたか?」やら「定山さんと帰れるかな?」やら興奮していた。

 そして、最終下校の時刻をとうに過ぎてから、一時間近くたとうとしてから、ようやく僕達は帰路についた。恭平は僕の異変を気にしていたが、僕は終始上の空だった。



「……ふぅ」


 部屋に入るといつかのように身をベッドに投げ出す。


「……」

 僕は気になっていた。定山の事が。恭平のような明確な好意ではない、ましてやスターライトブレイカーでもない。


(あの時――)


 あの時、定山は泣いていた。

 何故だか分からないが、その事だけが、ずっと頭の片隅で引っかかっているのであった――





◇◆◇◆◇◆◇







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