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過去編5

 更新遅れて申し訳ありません。これからもこれくらいのペースになりそうです。

◇◆◇◆◇◆◇




 なくなったというのは少し語弊があるかもしれない。

 

 怪獣大戦争やら隕石落下やらのイレギュラーなイベントがなければ、たった数日の間に町一つが消し飛ぶなんてあるはずがない。それこそ漫画やラノベの世界の話しだ。現実にはそんな超展開が、そうそう起こるはずがない。


 では、何故、ここで「なくなった」という表現をしたのか。


 例えば学校の文化祭などを考えてみて欲しい。

 お化け屋敷や屋台、野外ライブにキャンプファイアー等々、いつもならありえない光景が広がるだろう。

 それに、普段は憂鬱になる登校の時なども自然と心踊るものになっているのではないか。 つまり、何が言いたいかというと、それは一重にいつもと違うからだ。

 慣れ親しんだ学校でも、長い通学路も苦にならなくなる。

 同じ学校なのにだ。

 何故だろう。

 それは普段とは違うからだ。

 文化祭は普段の学校とは似て非なるものである。授業もない。部活もないのに登校しているのだから。

 非日常の世界、異界といってもおかしくないかもしれない。

 だからこそ、普段とは違う世界に刺激を求めに行くのだ。 

 つまり日常が「なくなった」のである。



 現在言いたいのはそういうことだ。

 

 普段見慣れたものとは違う姿に変わっている。それは変わらない。ただそれがプラスの方向には決して作用していないということだ。

 一体どういう事かというと、普段の秋葉原の町というものを一切感じないのである。


 大通りを見回してみると、一目瞭然だ。

 とらのあなやアニメイト、他にも数々と並ぶゲームショップやマンガやラノベの店。はたまた、ラジ館までも、今日は営業していなかった。

 それだけならまだしも(実際はありえないが)、全てに共通することがある。

 それは、全ての店にはブルーシートが覆い被さっているということである。

 サイゼリヤや、松店など、飲食店などの一部の店舗を除いて見渡す限り、全てにかかっている。 ソフマップにはかかっていなかったため、中に入ってみると、最上階のゲームショップにはシャッターが閉まっていた。



 まるで――これから取り壊されてしまうかのように。




 ソフマップを出た足で、そのまま裏通りに向かう。


「何で……」


 裏通りに行ってもそれは変わらなかったし、それ以上に酷い状況になっていた。

 開いている店は一つもない。全ての店にシャッターが閉まっており、通りには戸惑って、おろおろしている人が数人いるだけである。その様子はまるで、ゴーストタウンだ。

 店があったところには、シャッターがあり、その上には貼り紙が貼ってある。

 その中の1つをとって確認してみると、ただ「閉店」とだけ書いてあった。他の店も、どれも似たようなことが書いてあった。



 裏通りを抜けて、駅前に向かう。そこもやはり、コンビニなどの最小限のものを残して、ヨドバシ○メラなどの大手の店までも閉まっている。

 しかし、その様子はさっきまでいた、いわゆるオタクエリア側ほどは被害か大きくなっておらず、電気街などにおいても少しは開いている店なども見られるようである。



「いづみ!」


 再び大通りの中腹の、風○あたりまで戻って来たところで、声をかけられる。振り返るとこの間一緒に買い物をした子だった。


「これ……一体どうなってんの!?」

 かなり走っていたのか息も絶え絶えに話している。

 その様子を見ても、いづみと同じくらい当惑した様子であり、やはりどうしてこんなことになっているかは、知らないようだ。


「私にもわからない……私もほんの少し前に来たばかりだから……」


 こちらも当惑と悲痛な声で答える。

 しかし、こうやって悲観にくれているだけでは仕方ない。どうしてこうなったのかを知る必要があるだろう。話はそれからだ。


「何をするにしても、情報が足りなすぎます。秋葉原にいる人が何か知っているかもしれません。この町にいる人に、手分けしてどういった状況になっているのかを聞いてみましょう」


「そうだよね。悲しんでてても仕方ないよね。とりあえず今、どうなってるのかを知ることが先だよね。そうすれば案外、何とかなるかもしれないしね」


 いづみが前向きな意見を言うことで、こちらも元気を取り戻し始めたようである。



「そうですね。まだ諦めるのは早いです。私は駅周辺と大通りで聞き込みします」


「それじゃ私は裏通りと大通りのほうを中心にやっていくよ」


 大まかな指針を決めると、互いにもう一度頷きあい、互いに別の方に一斉に走り出した。










 結果から報告すると、まず皆が口を揃えて言うのは、誤差はあるけれど、「突然の事に戸惑っている」「どうなっているんだ」などの当惑している様子がほとんどである。そういった様子からも、誰一人事前に察知していた人はいないことが分かる。

 また、前日にも秋葉原に来ていた人もいた。その人の話によれば、前の日には閉まっている店などなく、突然今日のような状況になっていたという。

 

 つまり、自分達が来なかった数日の間にこういった状況になったのではなく、信じられないことであるが、たった一日で秋葉原の町からオタク文化を綺麗さっぱり取り払ってしまったということである。



「わかったのはこれくらいだね」


 秋葉原の中心の大通りに集合し、情報を出し合い、一段落したところで、議論に入る。といったところで、話し合うことなどあまりないのだが。


「色々わかった事もあるけど、結局原因は分からないままだな。どうなってるんだ……」


 声にも何処と無く、焦りのようなものも感じられる。


 そんな時、少しインターバルをおこうと、秋葉原の町を眺めていると、何か違和感のようなものを感じた。


「?」


 それが気になり、もう一度辺りを、今度は注意深く見回してみる。


「……!?」


 辺りを見ると、最初に見たときと同じ、ブルーシートが被さっている。

 最初は元々ブルーシートといったものは、たまに見かける事があったため、その存在を深く観察することはなかった。

 では、そこに違和感を感じたのは一体、何故だろうか。それは辺り一面といっていい程のたくさんのブルーシートがあるにも関わらず、全て同じ種類なのである。

 しかし、青いシートならば、ブルーシートと言えるため、普通だと思うかもしれない。

 だが、それは似ているのではなく、文字通り「同じ」なのである。何故ならそこには全て同じグループのマークが描かれていたのである。そう、それは――――










 定山グループの紋章そのものだった。









 





 

「そ……んな……」

 定山グループは世界に誇る有数の大企業であり、その規模は数百の分野にまで及ぶ程であり、いづみはそこのご令嬢である。


「(何で!?どうして家のグループが!?それに、つくしさんは何も……)」


 定山グループの紋章がある、それにほぼ全てにそれがある。これが意味することは、



 もし、つくしさんが知っていたとしたら、恐らく止められていたとしても、何らかの方法で伝えてきただろう。

 だから焦る。メイド長であるつくしさんに伝わっていないことなど、あるのだろうか。それに、令嬢であるいづみにも、まったくその情報は伝わっていない。家に住んでるのにだ。


 それは一体何のために?そんなの決まっている。それは私たちに、こうなることを事前に知られないようにするため。あるいは、それによって邪魔されることを防ぐためか。


 どちらにせよ、私に知られたくない理由があるのだろう。

 答えが出ないまま、考えを続けるが、結論がでない。

 



「こんなところで何をしているのだ?」


「!!」



 その時、背後から声が聞こえた。振り返らなくても分かる、昔から何度も聞いてきた声だ。

 驚きと焦りで、体が動かない中、声の主はもう一度声をかけてくる。


「何をしているのかと聞いているんだ、いづみ」


 有無を言わさぬ声、その声をもう一度聞き、恐る恐る振り返って見る。



「――!!」


 驚きはもうない。予想していた人と同じ人物がそこにいたからだ。

 考えれば分かることかもしれない。定山グループの令嬢である私に気付かれないで、事を運ぶ手腕、それを成し得ることが出来る地位と権力。それらをあわせもつ人物など、この世界には一人しかいない。



「お、お父様……」


 定山元流さだやまげんりゅう。定山いづみの実の父にして、泣く子も黙る世界的企業である、定山グループの現社長である。

 そして、おそらくこの事態を引き起こした張本人。


「お父様が……何故、ここに……朝から仕事のはずでは?」


「無論、仕事だ。ただし極秘の、お前には絶対に知られてはならない……な」


 

「はぐらかさないで下さい!!やはり秋葉原をこんな風にしたのはお父様なのですね!?」


 含みのある言い方に焦りと苛立ちからか、自然と語気を荒らげる。


「何でこんなことを――――」


「口を慎め。今質問しているのはこちらの方だ」


「っ!!」


「では、もう一度言う。何故こんなところにいるのだ?」


「そ、それは……」


 本当の理由なんて言える訳がない。ただでさえお父様はこういったことが嫌いで、「悪」だと断じてしまっているのだから、本当のことをいったらどうなるのか想像もつかない。


「なんだ、言えないのか?なら、こちらからもう一つ、別の質問をしよう」


「?」


 言葉をつまらせていた事を見て、何も思っていないかの様子で、いつも通り聞いてくる。


「お前は、このようなものが好きなのか?」


「!!」


 確信を突く言葉。あまりの直球に、驚きを隠せない。


「お前はオタクなのだな」


「……はい、そうです」


 秋葉原で見つかってしまったのだから、元々隠しようがない。隠す事を止め、素直に言う。


「私は、こういったものが好きです。アニメや、漫画、それにゲームだってそうです」


「……」


「お父様がこういった事がお嫌いなのは、重々承知しています。それでも私はこういったものが好きなのです」


 怯えながらではあるが、自分のありのままの気持ちを父に伝えようとする。ただ、父に認められたいために、いかに大切かを話していく。


「この気持ちは本物です。たとえ、お父様に何を言われようとも止めるつもりはありません」


 最後に確固たる意思を持ってそう告げる。


「言いたい事はそれだけか」


「はい」


 今度は怯える事なく、まっすぐに父を見て答えることができた。きっと、その気持ちは伝わっただろう。


「そうか……お前の考えは分かった」


「!!それじゃあ!」


 思いが伝わった。必死に自分の気持ちを正面からぶつければ、父にも通じる。そう、思った矢先――



「やれ」


「は!」


 父が一言入れると、部下の一人が何処かに連絡を入れ始める。


「一体何を……」


ドオォォォォォォン!


「!!」


 急に背後からけたたましい音が鳴り響く。それはまるで、建物をとりつぶすような。


「そ、そんな……」


 唖然。後ろを振り返ると、秋葉原のビルの1つが解体されていた。いや、解体はされつつある状態だが、それはもう、風前の灯である。

 


 血相を変えて、父に問う。


「何で……何でこんな事を!分かっていただけたのではないのですか!?」


「ああ、お前の気持ちは分かったさ」


「なら、とうして?」


「いづみ、お前は言ったな、止めるつもりはないと」


 確かに言った。でもそれと何の関係があるのだろう。


「それは、本心だろう。それにお前は私に似て、頑固だ。そうそう意見は変えまい」


 そこまで言うと、一息ついて、こちらを向いてくる。


「だから、別の手でいく事にした。お前が変わらないなら、世界を変えるまで」


「……まさか」


 そこまで言ってやっと気づく。何をしようとしてるのかに。


「世界を変える――つまり、世界からオタク文化を無くす」


「ちょ、そんな事、出来るわけないだろ!無茶苦茶だ!」


 友達が驚きのあまり、口を挟む。


 出来る。この人ならそれだけの手腕があるし、定山グループにはそれだけの力もある。


「だからまずは、その中心である秋葉原を作り変えようと思ってな」


「そ、そんな……お願いします!どうか、思いとどまって下さい!」


 説得を続けるが、まったくとりあってくれない。


「お前が何を言おうと、応じる気はない。……言葉ではな。それに、二つとも守るというのが、無理な話だ」


「……っ」


 何かに気づいたのか息を飲む音がする。


「今日はこの辺にしておこう。大規模な工事は明日からにする」


 そう言うと、部下を連れてそのままさっていく。


「そんなに神妙な顔するなって。これからどうするか、考えよう?」


 空気を変えるために、出来るだけ明るく言うが、いづみは依然、そのままである。


「……大丈夫です」


「え?」


 黙っていたが、やっと話しだす。その顔は決意に満ちていた。


「大丈夫です。明日からは、いつもと変わらない、元通りの世界が待っています」


 そう言うと、そのまま駅の方へ向かって行く。


「ちょ、ま、もう。また遊ぼうね!絶対だよ!」


 後ろからそんな声が聞こえるが、決して振り返る事はなかった。










 









 しかし、その約束は果たされる事はなかった。

 何故ならば、家に帰ったその足で、そのまま、元流に直接会いに行き、もうオタクは止める、そう宣言した。言葉では無理と言われたので、態度で――グッズなどを目の前で燃やした。


 さすがの元流もそれには納得し、秋葉原の町の全面改装を取り止めた。ちなみに目の前で取り壊したのは、元々取り壊す予定の建物であったそうだ。


 何はともあれ、秋葉原の町は一人の犠牲のもと、救われた。


 そして、いづみはその日から、宣言通り、オタクを止め、秋葉原にも通う事はなくなった。





◇◆◇◆◇◆◇










 感想お待ちしています。次回からはまた、主人公サイドに戻ります。

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