過去編3
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「なるほど」
サングラスにヒゲを蓄えた、どうみても「あっち」の人にしか見えない人が腕を組んで、書斎の中で、深刻そうな顔をして、大量にある資料を見つめている。その顔はどことなく、険しそうな顔をしている。
「いかがなさいますか?」
資料を手渡した、黒服の部活らしき人が支持を促す。
「このままで言いわけがないだろう」
間髪を入れずにドスの効いた声で答える。
「いくつか手は考えている。とりあえずお前は――」
そう言って部下らしき人に指示を出す。
「はっ!かしこまりました」
「引き続き、監視も続けさせろ」
「わかりました。では私はこれで」
部下は一礼して、部屋を退出する。そして、部屋の中に残されたのは、一人だけとなった。
「待っていろ、いづみ…このままではすまさんぞ…」
不穏。
不穏――それは前触れ。
それは予兆。
不確定な未来に対する、何か予感めいたもの。
しかしそれは、決して幸福な未来が来ることはない。
大なり小なり、自身にとって不幸な現実が待ち構えている。
サイフを落とす。
テストで赤点を取る。
リストラにあう。
これだけ見ても、決して幸福とは言えない代物であるだろう。
そして、やっかいな事にそれは決して気付こうと思えば気付けるようなものではない。まるでかくれんぼをしているかのように、意図的にその姿を隠しているのではないかと感じるほどだ。
見つかったら終わりのかくれんぼのように、自分自身がその異変に気付いたら手遅れなのだ。
そして、後悔する。
――あの時に気付いていたらよかった――
不穏。
不穏――それは前触れ。
決して気付く事が出来ない不幸の前兆――
「……」
「どったの?」
突然立ち止まった事を不審に思ったのか、不思議そうにこちらを向いてくる。
「……いえ、何でもありません」
少々歯切れの悪い受け答えになってしまったが、一応の返答はする。
「そう?ならいいけど」
どうやらそういった心配は奇遇だったらしい。元々対して興味がなかったのか、すぐに前を向いて歩き出す。
今日は秋葉原でコスプレをした日から数日。場所は再び秋葉原。今日は二人とも私服であり、この前と違い、手荷物もほとんどない。また、平日ではないため、歩行者天国もなく、中央通りは車が行きかっている。
「んじゃ、今日は何処行こうか?どっか回りたいところあり?」
「とりあえず私は、とらのあなで少し同人誌を見たいかな…後はゲームを少しだけ」
「りょーかい。私もそんな感じかな。後は今月の新刊のラノベを買いたいから、アニメイトにも寄りたいかな。後は適当にぶらぶらしよっか」
「はい、そうですね。では行きましょうか」
二人で行きたい場所を確認しあって、ある程度行き先を決めてから出発する。
秋葉原には色々なゲームショップや漫画店などが多く、予定を決めないとしっかり回れない。というか目移りしてしまうのだ。だから、ぶらぶらも行動の内。
「それじゃ、まずはとらのあなに行きますか」
「わかりました。では行きましょう……!?」
突然視線を感じて、振り向く。後ろにあるのはさっきと同じで、人、人、人。特別にこっちを向いている人なんて誰もいない。(容姿に惹かれて見てくる人はいるけれど)
いるわけないのだ。
「気のせいかしら?」
そう思いながら首をかしげる。
「どうしたの?さっきからちょっと変だよ?」
心配するように声をかけてくる。
「う、ううん。何でもない。気のせいみたい」
出来るだけ心配させまいと、優しく声をかける。
「……そう?ならいいんだけど」
納得している表情ではなかったけれど、追求するのも気が引けたのか、それ以上聞かれる事はなかった。きっとこの違和感もすぐになくなるだろうから。
まただ。
これで何度目だろう。10回を超えたあたりから、数える事を辞めてしまったから、確かな数はわからない。
けれど、不快を通り越してある種の恐怖を感じてしまうには十分であった。
あれから秋葉原の町を転々として、両手がいっぱいになるまで歩き回った。
その間、最初に感じた違和感――視線――は何度も感じた。
散策している間しばらくは違和感を感じる事はなかった。 ふと思い出したかのように周りに気を配るとやはり感じるのだ。
しかし、その視線の先を見つめても、そこには何もない。粘っこい視線は霧散してしまっている。
違和感は視線だけではない。
この秋葉原の町自体に違和感を感じるのだ。
それは、町から萌え文化が消えたとか、世界が変わったとかそういうレベルの話ではない。もっと単純な些細な変化。
例えば普段よりも5mmだけ髪を短く切ったような、注意しなければ気づかず、見逃してしまうようなもの。
だから、この秋葉原で何が起こっているのかは、実際のところ、分かっていない。ただ、違和感だけ感じるのだ。それは、アニメイトにいる時もソフマップやとらのあな、ラジ館などにいる時にも感じた。
一体、この町で何が起こっているのだろう。
「今日もたくさん買った買った。満足満足♪」
「……」
「…もう!一体何なの!?今日一日、変だよ?」
いつまでも何も言わないかったので、少し怒られてしまった。
「何かあるなら言ってみな?」
そう言って優しく微笑みかけてくる。この人を不安にさせてはいけない。そう、唐突に思った。
「そ、そんな事より今日はまだソフマップに行ってませんでしたよね?今日は中古ゲームが安売りしているらしいですよ!?」
だから、話題を変えて誤魔化す事にした。
「さ、早く行きましょう!」
そう言って手を引く。
少し強引すぎたため、帰って怪しかったのではないか、と思ったのはそれからすぐの事だった。
こうしてその場は忘れる事にした。そして、不思議な事にこの後に何とも言えない違和感を感じる事はなかった。
また、買い物を続ける内に次第にこの違和感があった事を気にする事はなくなり、遂には忘れていった。
友達と駅のホームで別れ、一人電車に揺られながら今日仕入れたラノベを読む。読んでいるのは乃木坂○香の秘密。読んでいるところは、オタク趣味を隠し通してきたが、ついにそれが父親にばれてしまい、絶体絶命のピンチに陥っているところだった。
「……」
これは小説の中の話。現実とは違う。そう分かってはいるものの、その物語を見ていると人事とは思えない自分がいた。そんな事は絶対にありえないのに。
だけど、フィクションの話に、まったく無関係な事なのに、人事のようには思えない。そんな気が心の奥底で感じている。
「(気にしていてもしょうがないですね)」
そう、心の中で無理矢理折り合いをつけて納得させる。
しかし、その考えはまたしても裏目に出てしまう。しかも考えうる限り、最悪の形で。
現実は小説とは違う。小説はハッピーエンドで終わっているが、現実はそうではない。救われず、小説よりも酷い現実となって現れる。
それに気づくのはほんの数日後。そして、振り返って思うのだ。
――あの時に気づいていればよかった――
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過去編は三部で終わらせるつもりでしたが、もう少し続きます。