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トラップ・・・

 講堂は悲鳴に包まれた。

ただ茫然と立ち尽くす者もいれば、泣いてしゃがみ込む者。

友達にしがみ付いて、ガタガタと小刻みに震える者。

 私達には今現在。何が起こっているのか分からない状態だ。

「唯!」

誰かが私の名前を呼ぶ。辺りを見渡してみる。

「光兄ちゃん!」

声の正体は同じ学校に通う3年生の田中光。私のお兄ちゃんだ。生徒会副会長。

お兄ちゃんは後2人いる。所謂三つ子ってやつ。

「唯、大丈夫か?」

心配そうに私の顔を覗き込む光兄ちゃん。

「うん全然。あ、吹雪と嵩ちゃんは?」

他のお兄ちゃん達も気になって、光兄ちゃんに問う。

「あぁ。あいつ等もこの講堂にいる。」

少しばかり安心した。

「そっか。・・・でも・・・これ一体何なの?」

「・・・分からない。」

光兄ちゃんの表情が、険しくなる。


―プッ―

 スピーカーのスイッチが入った。

≪諸君。今の映像で分かっただろう?我らに逆らうとロクな目に合わないって。≫

皆は黙って、神の遣いの言葉を聞いた。

≪全校生徒をこの講堂に集めたのには理由がある。この学園にトラップを仕掛ける為だ。≫

少しばかり周りがざわつく。トラップって・・・。

≪まぁ簡単に言えば・・・消去法ってとこだな。引っ掛かった奴は死。助かれば生。

 それだけだ。まぁ引っ掛かったところで、命に別状は無いモノも中には含まれてる。

 何でこんな事するのかって?そんなの決まってるじゃないか。“いらない人間を消す”為だ。≫

神の遣いの言葉に恐怖を感じた。他の皆もきっと同じ。自然と震えが止まらなくなる。

不安で不安で。次、もし自分が先程の映像の様になったらって。

それだけで怖くなるんだ。嫌な汗が額に張り付く。生徒の大半の顔は真っ青になっていた。

≪さっき教師達が、倒れた花瓶を起こしに行っただろう?おかしいと思わないか?

 あんな安っぽい花瓶をわざわざ・・・。何の得になるって言うんだ?≫

 確かにそうだ。あんなの壊れたって他のを買えば良いだけの話し。

あ、でも先生が一度こんな事を言っていた。

『この花瓶は高いから、絶対に触らないように。』と。

値段が高くて高価な物だからって。それが理由で起こしに行ったんじゃ無いの?

私の疑問に答えるかの如く、神の遣いは言った。

≪・・・薬だ。あの花瓶の底には薬は張り付けてあったんだ。

 お前達生徒に触るなと言っていたのも全部、それの正体がバレない様にする為。

 家に置いておけば良いと思うかもしれないが、それじゃ我慢出来なかったらしいな。

 バカばっかりで困るよ。本当に。≫

 神の遣いは鼻で笑った。

≪今この日本には、18歳以上の人間は存在しない。皆我々が殺した。≫

・・・は?

神の遣いの言葉に驚く私達を嘲笑うかの様に、神の遣いは言葉を続ける。

≪まだ終わって無いのだからな。さっき言ったよな。トラップに引っ掛かったモノは死だと。

 これは儀式だ。運と知を持った者だけが生き残る。勿論確実に誰かが残る訳では無い。

 全員に死が下る事だってあるのだ。≫

 神の遣いの言葉は静かに、私達に圧し掛かった。

≪もうトラップを仕掛けるのは終わった様だ。まぁ人間の頭脳があれば引っ掛からない

 トラップもある。後、楽をしようとずっとここにいるのは反則だ。

 さぁ・・・君らの中から生き延びる者は、現れるのかな・・・?

 最後に、講堂からは出ろ。それでは・・・儀式が始まる・・・。≫


 スピーカーが途切れた。講堂に悲鳴が響き渡る。泣き喚く生徒達。

その時、ステージに立つ者がいた。

「吹雪?」

 田中吹雪。私のお兄ちゃんの一人。生徒会長をしている。

きっとその肩書きがあるから、吹雪はこの状況をどうにかしないといけないと思ったのだろう。

「皆落ち着いて!落ち着いて!」

 何度かそれを繰り返し、講堂を静まらせる。

「皆しっかり聞いて。絶対に今後、一人での行動は避けて下さい。

 2人・・・いや最低でも3人での行動を。何が起こるか分かりません。

 さっき神の遣いと名乗る奴が言ってた通りに、この講堂も直ぐに出た方が良い。

 トラップが本当に仕掛けられてるのかは分からないけど

 とにかく落ち着いて行動して下さい。俺が言えるのはここまでです。

 生徒会長として、全校生徒をまとめなければいけないと思うんだけど

 実際俺も、何が起こってんのか理解しきれて無くて。ちょっと混乱してる。

 ごめんなさい。・・・以上。」

吹雪はステージを降りる。吹雪の言葉を聞き、皆はどんどんグループを作っていく。

「唯、おいで。」

私は光兄ちゃんに腕を掴まれ、3年生の輪の中に。そこには嵩ちゃんがいた。

田中嵩弘。私のお兄ちゃん。

「唯!良かった。何ともないよな。」

「うん。」

「唯。」

「吹雪!」

後方にはいつの間にか吹雪が立っていた。

「絶対俺らと一緒に行動すんだぞ?」

「うん。」

3年生の輪の中に混ざった私。そのグループにいたのは私を合わせて11人。

女子の先輩が4人。男子の先輩が6人。


石田真央先輩。東奈々瀬先輩。高橋智子先輩。鳥原花香先輩。

松田忠義先輩。内木穂積先輩。道上秀介先輩。そして私のお兄ちゃん達。


皆お兄ちゃん達と仲が良いから、それなりに話した事はある。

「それじゃあ取り敢えず講堂からは出とくか。」

吹雪が言う。光兄ちゃんと嵩ちゃんが頷き講堂の出口へ。私と他の先輩もそれに続いた。

 

 講堂を出た生徒は私達だけではない。でも、出ない生徒もいた。

講堂を出ないと何が起こるか分からない。けど、出ても結局は何かが起こる。

そう思いどっちを選ぶのか迷っているんだと思う。


 私達は今、講堂の前の廊下にいた。下手に動くのは危ないと言う吹雪の言葉で

これからどうするかを考えていた。

「トラップって、どんなやつなのかな。」

腕を組みながらそう言ったのは、忠義先輩。

「うん・・・気になるよね。」

頷く真央先輩。

「怖いよ・・・人が死んじゃう位危ないトラップなんて。」

少し震えながら言う奈々瀬先輩。そしてその隣には、そんな奈々瀬先輩の手を握り

「大丈夫だよ。」と声を掛ける秀介先輩。この二人は付き合ってるのだ。

「なぁ、三つ位に分かれない?」

穂積先輩がいきなりそんな事を言った。

「何で?」

吹雪が眉を歪める。

まぁ、わざわざ組んだんだし。

穂高先輩は吹雪の怒りを買わない様、冷静に答える。

「11人で移動ってさ、余計に危ないんじゃ無いかなって。」

「確かにそうかも。それに何かあった時遅れて逸れちゃう人が出るかもしれないし。」

穂高先輩に同意する智子先輩。

「うん。人数を多くして不安を消すのは良いけど、全員に目が行きとどかないが弱点なんだ。」

穂高先輩の言葉に「確かに。」と納得する一同。

吹雪も頷く。

「確かにそれは一理あるな。」

私達は11人から三手に分かれ、四、四、三になる事に。話し合いの結果三つのグループが決まった。

・私、吹雪、花香先輩、忠義先輩。

・嵩ちゃん、奈々瀬先輩、秀介先輩。

・光兄ちゃん、智子先輩、穂積先輩、真央先輩だ。


「でも、これからどうする?」

吹雪が私達を見廻す。そうだよね。無暗に動くと何が起こるか分からないし。

かと言って立ち止っててもどうする事も出来ない。

ガシャンッ!

「何!?」

いきなり物凄い音が響いた。私達は音のした方に移動する。

講堂の扉が閉まったのだ。この講堂には・・・まだ生徒が残っていたのではないか?

たった今この中で、一体どんな事が起こっているのだろう。

『きゃー!』

中から悲鳴が聞こえた。ドンドンと講堂の扉を叩く音。

『助けて!開けて!』と尽きる事無く聞こえる声に私は恐怖を覚えた。

扉に手を掛け開こうとするが、全然ダメだ。

「何で開かないんだ。」

光兄ちゃんは眉を歪めた。そして、講堂内からの声は次第に消えて行った。

「中で・・・何が起こったの?」

智子先輩は絞り出した様な声だった。


-プッ-

スピーカーのスイッチが入った。

≪34人死亡。≫

スピーカーが途切れた。

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