神の遣い・・・
何もできないまま時間が経過した。
―プッ―
小さな音が聴こえた。
私以外の皆にも分かったようでそれぞれ顔をあげて、何の音なのかを探っているようだ。
そしてその音が何なのかは、すぐに分かった。
《皆さん。》
黒板の上についているスピーカーから声がした。
女なのか男なのかは、分からない。気味の悪い声。
《きっと皆さん、驚いているだろうね。今眼の前で起こっている光景と、私達の存在に。》
「何・・・これ。」
私は身震いした。
それにこのスピーカーは各教室についている。
という事はこの光景を眼の前にしているのは私達だけでは無いという事なのか・・・?
何だか・・・嫌な予感がする。
《私達は・・・そうだな。・・・“神の遣い”とでも言っておこうか。
皆さんにはこれから講堂に集まってもらう。
理由は後ほど説明する。直ぐに集まれ。時間は・・・そうだな。
50分までにだ。私達の言う事を聞かず好き勝手な行動をとった者は・・・
どうなるだろうね・・・?》
―プッ―
それだけ言って神の遣いと名乗る声は消えた。今の時刻は1時43分。
嫌な沈黙が教室中を駆け巡った。それを破ったのはクラス会長の園田だった。
「皆っ。ここで突っ立っててもしょうがない。一先ず、講堂に急ごう。」
本田の言った事に反論するものは勿論誰もおらず、私のいる教室1年2組は全員で
講堂へと急いだ。
その途中、2年3組の前を通ると何やら騒がしい様子だったが
他の皆は気にせず講堂に向かっていたので、私も止まって確認する事は出来ず
そのまま足を進めた。
講堂に着くと、1年1組と2年1組、2組。3年も全員が揃っていた。
居なかったのは2年3組の人達だけだった。
1時50分前。もうすぐで時間になりそうだったその時、2年3組の人達が講堂の中に
入ってきた。一番後ろにいた人が入り終わるとすぐ講堂の扉はガシャンッと音をたてて閉まった。
講堂のスピーカーのスイッチが入る音がした。
―プッ―
《時間だ。皆集まった・・・と思ったら・・・2人足りないね。》
神の遣いがそう言った後、ステージ上からスクリーンが下りてきた。
講堂の中はざわめく。
そしてスクリーンに映像が映ると、一瞬のうちに静まり返った。
画面に映し出されたのは2人の男子生徒だった。場所は多分・・・非常階段扉の前だ。
「おいっ、早くしろよっ。」
「分かってるって!でも、開かねぇんだってば。」
男子生徒は非常階段の扉のドアノブを、ガチャガチャと何度もひねっている。
しかし左右に何度動かしても、扉は開かないようだった。
「はぁ・・・無理だって。」
ドアノブを回していた男子生徒は、諦めたように、こちらの顔を向けて座り込んだ。
顔が分かった時、2年3組の方で声がした。
「おぃ!あれって。」
「あぁ、硫矢だよっ。」
「・・・って事はもう一人は雄大。」
私はこの会話から、先ほどもめていた理由が分かった気がした。
きっとこの2人は、講堂へは行かないと反論したんだろう。
3組の皆は止めたが時間が近くなり、しょうがなく2人を置いて講堂へ向かったと・・・。
座り込んだ硫矢という生徒の横に、雄大よ呼ばれる生徒も座り込んだ。
「ありえねぇ。何で開かないんだよ。」
「鍵もちゃんと開いたのに・・・。」
「やっぱり、皆と一緒に講堂に行った方が良かったのかな?」
「今さら何言ってんだよ!行ったら死ぬかもしれねぇんだぞ?」
「でも、行かなかったら・・・どうなるか分かんない訳だしさ・・・。」
「そんなの、全員をおびき寄せる為の罠に決まってんだろ?」
「・・・でも・・・。」
ここで硫矢が会話を止めた。
目を見開いて叫んだ。私達には見えない何かを見つめ。
雄大もそれに気づき立ちあがった。
その瞬間。
2人の口から何リットルになるだろうか、大量の血が噴き出した。
その後すぐ、映像は切断された。