第20話:始動の扉
紅魔館に謎の獣が襲来してから数日後のことだ
(・・・ん、ここはいったい?)
リグルが目を覚ました。
リグルは体を起こし、辺りを見回す。そこは普段見覚えのあるようなところではなかった。
屋内である。
天井は木製だ。
足元の方には壁があり、右を向くと外が見える。
それ以外は襖で閉ざされている。
床には畳が敷かれている。
そして自分は布団に寝かされている。
と、順々に状況を認識していく。
「あら、目を覚ましたようね」
リグルから見て右の外の方から声が掛かる。
見たことがある、博麗の巫女だ。
霊夢は履物を脱ぎ揃え、リグルの近くに寄る。
「大丈夫かしら?ボロボロになって倒れてたけど」
言われてみればとリグルは体の痛みを感じた。体の所々に手当のための包帯やらが巻かれている。しかし、リグルはその痛みの訳をどうも思い出せなかった。
「あの、私はどこで倒れて・・・?」
体を起こしながらリグルは尋ねた。
「あら?覚えてないの?いつもあんた達がいる森の辺りね。今朝散歩していたら倒れているあんたを見つけたってところかしら。何があったか思い出せないなら、まずは昨日の朝から思い出してみれば?」
「昨日は・・・」
リグルは昨日の朝から記憶を遡る。
いつものようにチルノ達と遊んでいたことを思い出す。その日はチルノが一際わがままだったのも思い出した。
昼も同じように遊んだり、寝たりもした。
夜になって虫達がやけに騒いでるのを聞いて、チルノ達から1人離れてその虫達の様子を見に行った。
それが発端だ。
様子を見に行ったリグルを待っていたのは、2、3体の倒れている妖怪。
そしてその中に立っている「ある人」だ。
リグルはその姿を知っていた。
リグルは「何をしているんですか」とその人に声をかけた。
するとリグルに背を向けていたその人は不気味な笑みを浮かべながら振り向いた。
直後、その人は右腕を前へ出し、その人から無数の電撃が放たれ、リグルを襲った。
「・・・ッ!」
そこまで思い出したリグルはいつの間にかうなだれていた頭をガバッと上げた
「どうしたの?何か思い出した?」
「思い出しました。いきなり襲われたんです。」
リグルは若干震え声になりながら答えた。
「襲われた?誰に?」
霊夢はがっつくように聞き直す。
「たしか・・・あの人は
『裏炎』っていう人です。
たしか外来人で紅魔館に住んでいるはずです。」
「・・・」
「あの、霊夢さん?」
「・・・大丈夫、知っているわ。」
霊夢は呆るような声になっていた。
「あいつ。レミリアにも見張っておくように言ってあったのに!」
霊夢は立ち上がって外の方を向き、どうしようかと考え始めた。
リグルはそんな霊夢を見てから、布団の方へと目を落とした。
「・・・あれ?え?」
いきなりリグルが声を出した。
「え?なんで?なんでなんでなんで???!!!」
次第にパニックが大きくなり、声もだんだん大きくなった。
最初の一声は考え事で気づかなかった霊夢もこれには気づいた。
「どうしたの!?」
「ダメ!ウソ!なんで!?キコエナイ!」
どんどんパニックは酷くなる。霊夢は声をかけ続ける。
「どうしたの!?まずは、落ち着きなさい!」
しかしリグルに声は届かなかった。
「イヤだ!イヤだ!イヤイヤイヤイヤイヤ!」
「いいから落ち着きなさい!!!」
頭を抱え下を向いていたリグルの顔を霊夢は持ち上げ、リグルの目に向けて鋭い眼差しを向けた。
「イ・・・ヤ・・・」
しばらくの間霊夢はリグルに目を合わせ続けた。
「あ・・・あの・・・」
「落ち着いた?」
「はい・・・」
ふう と霊夢は一息ついてリグルの肩から手を外し、リグルの目線に合わせたまま尋ねる。
「今度はどうしたの?辛くないところまででいいから話して?」
「・・・虫達の声が、聞こえないんです。」
「・・・どういうこと?」
「いつもだったら、少し耳を傾けると虫達の声が聞こえるんですけど、今は・・・。それに虫達にこっちにくるように頼んだりすることすらできませんでした。」
「それは・・・つまり『能力』を失ったということかしら」
「たぶん・・・」
霊夢は目をつむり フー と息を吐きだし、目を開け立ち上がり
「文!いるんでしょ?」
「・・・あやや、バレていましたか」
霊夢が一声かけると、そういいながら屋根より高い所から射命丸 文が降りてきた。
「それで何の御用でしょうか?まさかこの話を記事にするな、なんて言い出すんじゃないでしょうね」
文は右手に持っている手帳の背表紙を左手の上へポンポンと叩いて言った。
「場合によってはそうなるかもしれないわ。とりあえずリグルはここで寝ていなさい。それであなたは一緒に来てもらうわよ」
「どこへですか?」
「もちろん、紅魔館へ。殴り混むわよ」
〜〜〜
「・・・!ここは通しませんよ」
また珍しく起きていた美鈴が門の前方に降り立った霊夢に警告を発した。
「邪魔よ」
・・・瞬殺であった。
その後も霊夢は紅魔館内の妖精メイドや迎撃用魔法も蹴散らし、いつもレミリアがいる部屋へとたどり着き、その部屋の扉を壊れんばかりの勢いで開ける。
その部屋の中にはもちろんその館の主が、そしてそばにはその従者もいた。
「またずいぶんと暴れたようね。この前私を呼んでおきながら今度は紅魔館に来て何の用かしら?」
「あなたに裏炎を見張るように、その『この前』に言ったわよね。ちゃんと見張ってたのかしら?」
「ええ、もちろん。親愛なる博麗の巫女さんからのお願いですからね。」
目をつむって 当たり前でしょう? という顔をレミリアは見せた。
「そう、なら今朝のことを話すわ」
霊夢は今朝リグルが襲われたこと、その被害について、そしてリグルが証言した犯人のことを話した。
「・・・ということなのだけど。どういうことかしら?嘘をついていたのなら今ならまだ許すわよ」
神社を出たあたりからそうだが、霊夢の顔はマジだった。
しかし、レミリアはそっけなく返す。
「・・・残念ながら、彼にはアリバイがあるわ。少なからず、あなたに見張るように言われてからは、彼はこの敷地内を出てすらいないわ。」
「なんですって・・・」
「そうよね、咲夜」
「ええ、恐らく」
霊夢は一度その場で考える表情をとり
「いいわ、一応本人にも会わせてもらおうかしら。もちろん何も言わずに連れてきてね」
「ええ、いいわよ。咲夜」
レミリアがそういうと、咲夜さんはその場から姿を消した。
俺は洗濯物を取り込んで廊下を歩いていたとこで、咲夜さんに呼び止められ、レミリアがいる部屋へ連れて行かれた。洗濯物に関してはちょうど近くを通った妖精メイドに託した。
妖精メイドはとても嫌そうな顔をしていたが。
俺はレミリアのいる部屋へと着く。
咲夜さんがドアをノックし、「失礼します。お連れしました。」と言ってからドアを開け、部屋へと入る。それに俺も続く。
俺が部屋へ入ると部屋にいるべきレミリアの他に霊夢と文がテーブルのそばのイスに腰掛けていた。
「あれ?なんでお二人が居るんですか?」
「何でもあなたに聞きたいことがあるそうよ」
レミリアはそう答え、紅茶の入ったティーカップを傾ける。
「私からもいいでしょうか。先ほどは霊夢さんしか居なかったと思うのですが」
咲夜さんが尋ねる。それには霊夢が答えた。
「私が頼んでおいたの。一応あなた達が彼を出さなかったりしたときのためにこの館中を調べてもらうためにね。」
「霊夢さんも無茶言いますよ。こんな広い屋敷全部調べるとか無理がありますって。途中で探す必要が無くなったと聞いてホッとしましたね。」
「最速の称号をここで使わずしていつ使うのよ。」
今のやり取りで咲夜さんは理解したようだ。自分は咲夜さんから何も聞いていなかったのでさっぱりである。
「さて、本題に入ろうかしら。」
おもむろに霊夢はイスから立ち上がり、俺に目を合わせて
「昨日の晩は何をしていた?」
そう尋ねた。
その声はさっきまでとは違い、彼女自身が持つ強い意思のようなものがずっしりと乗ったようなものであった。そして言葉のニュアンスから自分に何らかの疑いがかけられている。そんな気がした。
加えて、自分の目に向けられる視線。この視線から目を背けないというのはなかなかキツイものがある。
しかし、もちろん自分が昨日の晩に何か事を起こしたという意識はないのでハッキリと
「特に昨日の晩は何かしていたということはありません。紅魔館で家事等の手伝いと食事をしたくらいで、あとは寝ていました」
そう言った。
依然霊夢からの視線は向けられる。俺はそれに応える。
少し経つと霊夢の方から目線は逸らされ、霊夢はため息を一つついてから口を開いた。
「どうやら。ホントに本当のようね」
レミリアが でしょう? といったような顔をしている。
「それで何かあったんでしょうか?今の感じだと自分に何か疑いがかけられていたようだったんですが」
自分から話を切り出してみると、霊夢は少し考えてから話し始めた。
「いいわ。一応話してあげる。」
俺が空いていたイスに腰を下ろすと、霊夢からリグルが襲われたことについて聞いた。
「そんなことが・・・。」
自分は少し息を飲む、が気になったことを聞いてみる。
「それって本当に昨日の出来事なんでしょうか?別に自分が犯人になりたいわけじゃないですけど、おとといだってことも」
そこまでいうと、すぐさま霊夢が答えた。
「それはないと思うわ。一応毎日大体同じ道を散歩しているもの」
「じゃあ、リグルが言っていた『やられていた他の妖怪』については?」
「ああ、それならリグルが倒れていたところから少しいったところに血の跡はあったけど、その場にはいなかったわ。でも別の妖怪に介抱されていたそうよ。ただ、彼らもリグルと同じようにそれぞれ力を失っているそうよ。」
そこから少しの間その場は静寂に包まれた。自分も含めそれぞれが考えることがあったのだろう。
静けさの中で最初に口を開いたのは霊夢だった
「さて、私は帰るけど、一応あなたは証言がある以上まだ第一容疑者に変わりはないわ。そこのところを考えて行動しなさいね。あとレミリアは引き続きこいつを見張ること。あとこのことに関して文に新聞記事にしてもらうわよ。」
それにレミリアが続ける。
「新聞記事にするなら、ちゃんと紅魔館にいる人物とは全くの別人ということを明記してもらおうかしら」
「そうね。文」
「はーい、分かりました。それじゃあ、一枚撮らせていただきまーす」
直後、俺の正面で眩しい光がでたと思ったら、文が写真を撮り終えた後だった。そんな一瞬で本当に撮れたのか、というくらいの早業だった。
「え、はや・・・」
俺の口から思わずそんな言葉が漏れた。
「今更なに言っても遅いですよー。幻想郷には肖像権なんてものはありませんからねー」
したり顔で文がそう言った。
「さて、用は全部済んだわ」
「私も早くこの記事を書きたいので、帰りますね。」
霊夢と文がそう言って部屋を出ようとする。
「玄関までお送り致します。」
「いいわよ、そんなことしなくても。」
さらっと咲夜さんにそう言い二人は部屋を出ていった。
しばらく部屋には静寂が漂った。
「・・・さて、霊夢が暴れた後片づけをしますよ。」
咲夜さんがそう俺に呼びかける。
「え?後片づけって?」
「霊夢さんが紅魔館に侵入した際にここまで来るのに暴れ回ってきましたからね、その後片づけです。」
ああ、そんなことが起こっていたのかと 俺は腰掛けていたイスから体を起こす。
が、俺の体はまだイスの上にいた。
正確にいうと、確かにイスから体を起こしたのだが、無意識の内に見えない力でイスの方へと引っ張られ、またイスの上にいたのである。
「どうしたのですか?早く片付けないと日が暮れますよ。」
咲夜さんが俺に呼びかけてくる。
・・・どうやら疲れているのかな と思いつつ、今度こそイスから体を起こして俺は咲夜さんの手伝いに向かった。
〜〜〜
その頃、紅魔館の庭では霊夢が一人佇んでいた。文は新聞を書くためにさっさと飛んで行ったのである。
「・・・裏炎は関係無かったわ。でもこれで多少は食い止められるかしら、紫?」
「ええ、いいと思うわ。問題は新聞が行き届かない人妖もいること、そして彼は今も襲い続けているわ。」
霊夢の隣の空間がばっくりと割れ、そこから紫が姿を現した。
「結局、居場所を突き止める方法は無いのね?」
「ええ、なんとなくの位置は分かるけど、そのなんとなくの範囲が広すぎてどうも」
「手遅れになる前に何とかしないと・・・」
霊夢はポツリとそう言って空を仰いだ。
既に日は暮れ始め、深い闇が幻想郷を包もうとしていた
あけましておめでとうございます。今後もよろしくお願いします。
というわけで20話です。ホントは年明け前に投稿したかったのですが、ダメだったね
ずっと思ってたけど「導入」→「バトル」→「導入」→(ry という単純構成ですね。そして今回は「導入」と。
さて、ぶっちゃけるとあと4話くらいで終われます。
こっから先が書きたかったといっても過言ではない・・・
なので近いうちにどんどん次の話も上げていきたいと思います。
といいたいところなんですが、高校3年生ですのでセンター試験やら二次試験やらが待っているので、先にそちらのほうを片付けていきたいと思います。
とにかく!落ち着いたらまた書いていきます