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ガタガタと未だかつて体験したことのない揺れに
初めのうちは耐えられると思っていたが、
そのうち流れゆく景色だけでは気を紛らわせることができないくらいには、
馬車移動が辛いものだと知った。
この馬車移動の辛さは、
和薫がここにきてから、初めてまともに何かを理解実感できたものだった。
それ以外は、とんと理解できないうちに勝手に物事が進んでいた。
和薫は大学卒業後、地方都市の中小企業で事務職をしている、しがないOLだ。
学生の頃から勉強は可もなく不可もなし。
運動も特段できるわけでも、できないわけでもない。
自分なりにその時々を精一杯努力して、それなりの大学に進学し、それなりに社会人をしていた。
俗にいう上手いことやるタイプではないが、その分ひたむきに努力はしてきたつもりだった。
それなのに私はなぜこんなよく分からない状態で馬車に乗っているのだろう、と和薫は混乱する頭で思い出していた。
その日は、新卒からの同期である芽依と、飲みに行っていた。
会社勤めをしていると、どうしてもストレスは溜まるもので。
よくある嫌味な客からの言いがかりにパリンと砕けた心をお酒と芽依の明るさで修復してもらっていた。
「いや、確かにまぁお客さんが言いたくなる気持ちも分からなくはないんだけどさ。一応あっちはお客さんなわけだし、そういうこと言ってこっち側に融通効かせるのも仕事なんだろうし」
「いやいや。融通効かせるにしたってやり方があるでしょ!和薫にそんな嫌な言い方してやらせようってその魂胆が人間として底辺じゃん。言いやすい奴に強く出るタイプでしょあの客」
「まぁねぇ…。私咄嗟に相手の機嫌伺っちゃうからなぁ。」
「それは和薫の優しさであり美点なんだよ!相手を気遣えるって話!その優しさに漬け込んで嫌味飛ばしてくるあっちがクソなんじゃんよ。」
「芽依がそう言ってくれると私もなんだか報われるよ〜。」
「とはいえ、和薫も優しすぎるんだよ?自分のことは自分で大切にしてあげなきゃ。あんなクソ客、部長に報告してこっちからも吊し上げちゃえばいいんだよ!客とはいえ対等な関係での取引なわけだしさー。やっちゃえ和薫!」
「部長に言えば相手の上にも話通りそうだしね。まぁでも、あっちも切羽詰まっちゃったってとこなんじゃないかな、とも思うんだよね、私への言い方終わってたけど。繁忙期だしねあっち。一旦は私が通してあげれば今回は済むからこのまま倒してあげようかなーなんてね。」
「和薫ってば優しいんだから〜〜。芽依は和薫のそういうとこが好きだけどね。芽依だったらもうソッコー部長に言って相手の上司からクソ客刺してもらっちゃうね。我慢できない!」
「さすが行動派の芽依!やるねぇ」
「耐えられないよ〜芽依は!ねぇ、和薫!なんか燃えあがっちゃったよ!もう一軒いこうよ!」
「ありゃりゃ、私よりお怒りだね。でもありがとうね、代わりに怒ってくれて!よし、行こう行こう!」
そうして、次の店を探すべく、お会計をして夜の街を二人で歩いていたときだった。芽依は千鳥足だった。
多分なんだかんだ言って、すでにそこそこ飲んでたんだろう。
芽依はもちろんだが、和薫も芽依の話とお酒のペースに乗ってしまって、いつもより飲むスピードが早かったらしい。
もう、ほら芽依が二軒目って言い出したんだから次いくぞーう、なんて、千鳥足の芽依を支えようと肩を組んだつもりが、支えきれずに芽依と一緒にふらついた。
その時、強い光と一緒に右から何かが激しくぶつかった。




