表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

優秀で天然な魔法使い、魔王の仲間と対面する。


 翌朝、九時。

 コルディ・ホープがここへ来て初めて迎える朝。

 薄明りの中でゼファはうっすらと目を覚ます。


(僕は… 寝入っていたのか?)

 

 五時間の睡眠。

 それはゼファにとっては信じられないほど長い休息だった。

 もともと寝付けない体質のゼファは、眠りについても必ず三十分おきに目を覚ましていた。

 睡眠という睡眠はとれたことがない。

 最近はもう眠いのかどうかも分からないほど、感覚が麻痺している状態だった。

 そんな彼が、昨夜は一度も目覚めることなくぐっすりと眠ることができた。

 敵対関係にある光の魔法使い、コルディ・ホープの隣で。


「百億モンドぉ… 贅沢な暮らしぃ…… ンフふふふ……」


(は?百億モンド?贅沢な暮らし?寝言か?それよりもこいつ…)


 ゼファは眠ったままのコルディを見下ろす。

 反対側のベッド端に寝かせたはずのコルディは、なぜかゼファの腕にしがみついていた。 


(近い。しかし落ち着く)


 ゼファは眉一つ動かさず、静かに観察を続ける。

 その瞳は光の魔法使いを細部まで覗き込もうとしていた。


「………んん…」

 

 コルディが半分夢うつつで伸びをし、無意識にゼファの下半身に手を伸ばす。


「おい、や、やめろ」


もぎゅ


 寝ぼけた手が禁断の果実をぎゅっと握りしめた。

 思考が真っ白になる。


「……な、何をしている」


 低く言い放つはずの声が、わずかに掠れる。

 触れられた場所が、徐々に熱くなっていく。


 ゼファはコルディの頬を片手で捉え、「起きろ」と静かに命じる。

 しかし声はわずかに硬い。

 ぼんやり目を開けたコルディは、目の前のゼファの存在を信じられないように見つめる。

 そして―――

 

むぎゅううう


「―――っあ、やめろ」


「何これ?」


 ゼファのモノを掴んだまま、ぼんやりする意識の中で数秒間考え込むコルディ。

 その瞬間、触れてはいけないと悟り、顔を真っ赤にして反射的にゼファを押しのけた。

 

「きゃぁぁぁあああ―――!!!!!

えっちぃぃぃいいい―――!!!!!

スケベぇぇぇえええ!!!

へんたぁぁぁぁぁい!!!!!」


 ベッドの外に転がり落ちたゼファは、慌てて枕で下半身を押さえつつ、壁際へと後ずさる。


「うるさい。寝ている間に僕に近寄ってきたのは君の方だ。

その上、僕のモノを勝手に触ったくせに被害者面か?」


 冷静さの中に焦りが滲んだ口調。

 魔王ゼファ・ベーゼは珍しく動揺していた。


「…わ、わたしが?」


 後悔と恥ずかしさで更に顔を真っ赤にしたコルディは、両手で顔を覆いながらベッドの端に小さくうずくまる。

 その時―――


「魔王様ぁぁぁぁぁあああ!!!!!エッチィースケベェヘンターーーイという詠唱が聞こえてきましたが、大丈夫ですかぁあ!!??」


 重い扉がバァン!と、勢いよく開き、側近のエリオットが鬼のような形相で部屋に飛び込んできた。


「下がれ、エリオット。僕は大丈夫だ」


「魔王様、その枕は防衛行為ですか!?

―――っく、コルディ・ホープ!魔王様の秘所を狙うとはなんという卑怯者……!

今すぐ消して差し上げましょう!」


 エリオットは、コルディがゼファの寝込みを襲ったのだと完全に勘違いしていた。


「エリオット、もういい」


「…本当に、ごめんなさい。無意識だったんです。私… だ、男性と寝たことがなくて…!失礼なことをしてしまいました!」


 目を逸らしながら必死に謝罪するコルディ。

 無意識に触れてしまったことを、深く反省している様子だった。

 ゼファは呆れた視線をコルディに向けながらも、その無防備さに言い返す気になれなかった。


「―――コホン、」


 気まずい空気を破ったのは、状況をなんとなく察したエリオットだった。


「魔王様、本日の朝食はどちらで?」


 いつも通りの凛とした姿勢で立ちながら、ゼファに問いかける。


「食堂に行く。使用人たちに新しいメイドが入ったと伝えよう」


「新しいメイド?私のことですよね?」


「あぁ、君には僕専属のメイドとして働いてもらう。

滞在中は監視も兼ねて、この部屋で過ごしてもらおう」


(牢獄よりはマシね!それに同じ部屋なら暗殺もしやすい!)


 ゼファと同じ部屋にいることで、暗殺のチャンスも広がる――― そう考えたコルディは内心でほくそ笑みながら、次にどう仕掛けるか、静かに模索していた。


「嫌か?」


「いいえ、嬉しいです!」


 とびきりの笑顔を向けるコルディ。何かを企んでいるのが手に取るように分かる。

 ゼファはその様子を見ながら、次の対決を密かに待ち望んでいた。


「あ!食堂に移動する前に自分に魔法をかけますね。この姿は魔族っぽく見えないので」


 昨夜より、変装魔法が解けていたコルディ。

 自分に魔法をかけようと手を伸ばした瞬間、魔王は少し急いだ口調で制止した。


「待て。俺がやる」


「え?」「魔王様?」


 コルディとエリオットの声が重なる。

 二人はまるで「何を言っているのか分からない」と言わんばかりの表情でゼファを見つめた。


「君は魔力を温存しとくべきだ。僕を暗殺したいのだろう?」


 一見優しそうだが、計算された提案。

 それでもコルディにとっては好都合の話だった。

 「お願いします!」と笑顔で伝え、ベッドから降りた。






♦ ♦ ♦


「―――えっと、これは…… 魔王様の趣味ですか?」


 ゼファの手によって、魔族風の姿に変わったコルディ。

 黒のフリルたっぷりのメイド服に、頭には小さく可愛らしい二本の角。

 さらにスカートの後ろには先端が三角に尖ったしっぽまでついている。

 

「余計なことを言うな、エリオット。メイド服をイメージしただけだ」


(つまり小悪魔風メイド服をイメージしたと… 魔王様の隠された性癖を知れるなんて、仕える者として嬉しい限りです)


「かわいい服!とっても素敵!」


 コルディはくるりと回りながら喜んでみせた。

 しかし、自分の髪色と瞳の色が変わっていないことに気付き、ふと立ち止まる。


「あの、髪と瞳の色も変えられますか?」


「そのままでいい。君は人間と魔族のハーフ、という設定でいこう」


「な、なるほど?」


 コルディはゼファの提案を半分だけ受け入れた。

 その様子を見て、エリオットは苦笑いを浮かべつつ立ち尽くすしかなかった。






♦ ♦ ♦

 

 食堂にて―――

 四人の使用人たちの視線に見張られながら、コルディはパンを口に運ぶ。

 

「人間と魔族のハーフねぇ。髪色も瞳の色も光の魔法使いみたいだけど」


 核心を突いたのは魔王城のメイドの一人、シャノン・ヴェーネだった。

 切りそろえられた毛先が印象的な、毒々しいバイオレットのストレートヘアー。

 少し釣り上がった目からは、芯の強さを感じられる。  


「しかしこの嬢ちゃん、魔王様に採用されるってことは相当の腕利きだろうな」


 がっしりとした体型の中年の男が、腕を組みながら口を開いた。

 火焔色の髪は、無造作に逆立てられている。

 トレヴァー・イグニス。魔王城の一流料理人だ。


「………美味い」


 目の前の料理にだけ集中している男はジャスター・ハンド。

 霧に包まれたようなグレーアッシュの髪は、静かだが威圧的な存在感を放つ。

 門の番人として、魔王城の安全を守っている。


「…コルディさんはどんな魔法を使うのですか?僕、気になります!」


 目を輝かせながら好奇心全開でコルディを見つめるのはルハ・シャドー。

 柔らかく揺れる、神秘的な深緑の髪。

 見た目は幼いが、確かな魔法の知識を持つ研究者だ。


「私はひか―――」

「コホン!コルディさんは魔王様の専属メイドとして働くことになりました」


 ルハの質問に何の躊躇もなく「光魔法」と答えようとしたコルディに、エリオットは鋭い視線を向ける。

 この女は未だに自分の立場を分かっていない――― と、内心苛立っている様子だ。


「魔王様の専属!? あんたいったい何者なのよ!」


 シャノンはテーブルを叩き、椅子から立ち上がるとコルディを鋭く見据えた。


「専属に選ばれるということは、やはり腕利きの魔族!ぜひ魔法を見せてください!」


 ルハはさらに目を輝かせた。


「安易に魔法を使わせるな」


 ややざわめく場内、ゼファが静かに口を開いた瞬間、使用人たちは一斉に口を閉ざした。

 しかし―――


「うんうん、ゼファを倒すために魔力は温存しておかなくちゃ!」


 またしても、コルディ・ホープがやらかす。


「「「「「―――――ぷぁ???」」」」」



 魔王城、朝の食堂―――

 ド天然コルディ・ホープの直球すぎる爆弾発言に、一同は間抜けな顔をして驚いた。


「隠すつもりだったのに…!」


 エリオットは深く頭を抱え、憤りと困惑が渦巻くような表情で、言葉を詰まらせた。


「どういうことですか… 魔王様……」


 黙々と食事をしていたジェスターが、険しい表情を浮かべてゼファに問いかけると、ゼファは無表情のまま淡々と話し始めた。

 

「こいつの目的は僕の暗殺らしい。実際、勇者パーティーよりも手強い相手だ。闘い甲斐がある」


 戦闘狂の魔王、ゼファ・ベーゼ。

 退屈な日常に突如現れた、自分の命を狙う存在に抱くのは恐怖ではなく、好奇心と期待だった。

 コルディを見つめ、ゼファはかすかに微笑みを浮かべた。


「昨日は惜しいところでした。もっと鍛えなきゃですね」

 

 両手を握りしめ、コルディは真っ直ぐにゼファを見つめ返す。

 その瞳は燃えるようなやる気に満ちていた。


 命を狙う者と、それを喜んで受ける者。

 使用人たちは口をぽかんと開け、二人のやり取りをただ呆然と見つめていた。


 決して穏やかとは言えない魔王城の食卓。

 コルディは最後の一口を平らげると、にっこり笑ってトレヴァーに感謝の言葉を伝えた。






♦ ♦ ♦


 仕事内容を話すためにゼファ、コルディ、エリオットは席を外す。

 三人の姿が見えなくなると、残った使用人たちは一斉に肩の力を抜いた。

 

「あの嬢ちゃん、只者じゃないな」


 トレヴァーは椅子に深く寄りかかると、話を切り出す。


「光魔法… 僕たち魔族の脅威なる弱点。っく、今すぐ研究したいです!」


 ルハは魔族のピンチなど気にも留めず、魔法のことだけを考えていた。


「魔王様が心配だわ。隙を突かれて襲われないかしら」


 シャノンが不安げに声を漏らす。

 脅威そのものだともいえる、光の魔法使いの存在。

 ゼファの死は魔族の破滅を意味する。

 放っておくわけにはいかなかった。

 

 しばらく黙っていたジャスターは、シャノンの言葉に耳を傾けながら、重々しい声で口を開いた。


「……あの女、俺たちで始末しないか」


「俺はやめておく。万が一光魔法をくらってみろ。致命傷になるぞ」


 ジャスターの思案に、トレヴァーは反対の意を示す。


「あたしは賛成よ。ルハは?」


「僕はコルディさんの魔法を見てみたいので、観戦します!」


 いったいどんな強力魔法を拝見できるのか、ルハの胸は期待で高鳴っていた。


「じゃあ、あたしとジェスターであの子を仕留めましょう」


「……あぁ」

 

 シャノンとジャスターは互いに目を合わせ、小さく頷き合う。


 果たして、光に抗うことはできるのか。

 魔族の敵を討つため、二人は闘志を胸に立ち上がった。


♦今日の登場人物♦


シャノン・ヴェーネ(25歳)

・魔王城のメイド

・毒魔法の使い手

・コルディに敵意を剥き出しにしている

・結構演技派


トレヴァー・イグニス(45)

・魔王城の一流料理人

・筋トレにもハマっている

・炎魔法の使い手

・明るく柔軟、危機にも慌てず対応できる


ジャスター・ハンド(29)

・魔王城の門番

・霧魔法の使い手

・凄腕の槍使い

・魔王を慕っているがゆえ、コルディに当たりが強い


ルハ・シャドー(???)

・魔法の研究者

・影魔法の使い手

・世の中のあらゆる魔法に興味を持っている

・好奇心旺盛で、探求心が強い


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ