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優秀で天然な魔法使い、魔王と戦う。


 魔王城、初日の夜。

 月明かりが一切届かない地下牢。

 唯一の明かりである松明が消えれば、そこはただの濃厚な暗闇に包まれる。


 コルディは鍵を握りしめ、頭の中で作戦会議を繰り広げた。


「今すぐ魔王を暗殺するべき? それとも計画を立てるべき? …いや、寝るべき?」


(でも、こんな寒い場所で一晩過ごすなんて無理! やっぱり今、行っちゃおう!)


 コルディは持っていた鍵で牢獄の扉を解錠すると、やや急ぎ足で最上階へと向かう。

 時刻は深夜二時。

 地下牢を抜けた先もただひたすらに長い暗闇と静寂に包まれていた。


 コルディは「"イルミネート" 光よ、世界を照らせ―――」と囁くように魔法を唱えた。

 すると彼女の視界がぱっと照らされ、一瞬にして深い夜闇を消し去った。

 一見すれば迷路のように入り組んだ魔王城だったが、日中にエリオットに隅々まで案内してもらったおかげで、迷うことなく最上階へ辿り着くことができた。


 魔王城、最上階。廊下の奥に鎮座する扉。

 そのひときわ大きい扉は黒曜石でできている。

 結界すら難なく通り抜けたコルディは、重厚な扉の前で一呼吸置いた。

 細く息を吐くと、ゆっくりと扉へ手を伸ばした。

 

 暗殺―――。暗殺とは不意を突いて、密かに殺害する行為のこと。

 だがコルディの辞書には、もう「隠密」という言葉は存在しなかった。


「―――こんな時間帯に奇襲…?」


 寝室に足を踏み入れた途端、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。


「ゼ、ゼインさん!?どうしてあなたがここに?」


 コルディの視線の先にはパジャマ姿の面接官―――、もとい魔王ゼファ・ベーゼがいた。

 ゼファはベッドから起き上がり、悠然とコルディに近づいてくる。


「僕は寝付けない体質だから、この時間帯はいつも起きている」


「でもここって魔王の部屋じゃ…」


「まだ分からないのか」


 気だるげで冷ややかな視線。

 コルディは難解なパズルを解く時のように、頭をフル回転させた。

 しかし辿り着いた答えはまたしても天然全開なものだった。


「まさかゼインさんって、私の協力者!?」


「―――違う。もういい」


 ゼファはコルディの逃げ場を塞ぐように、その背後の壁へ無造作に手を突いた。


「ななな何ですか?こんなの恥ずかしいです!」


 物理的に縮まった距離感に戸惑いを隠しきれないコルディは、両手で顔を覆いながらゼファを見つめた。


「君は鈍感すぎる。僕は――― 魔王だ。


魔王ゼファ・ベーゼ。君の暗殺ターゲットだ」


 正体を明かしたゼファは続けて「さあ、どうするんだ?」とコルディを問い詰める。


(ゼインさんが魔王!? 魔王ってもっとこう、黒い翼の生えた怪獣みたいな存在じゃないの!? ゼインさんは私を採用してくれた優しい人だし、魔王暗殺のことも……)


「あ」


「あ?」


「私を騙したのね!面接の時に何も言わなかったじゃない!」


 コルディはゼファを睨み付けながらそう言い放つ。

 相変わらずアホな言動に、ゼファはため息を吐くことすら忘れていた。


「いや、君が突然僕を暗殺すると言い出したんだろう。魔王城の面接で普通あんなこと言わないよ。とんだアホが来たと思った」


 表情を変えずに淡々とそう告げる。

 真実を知ったコルディは不満げな表情を浮かべたまま、固く口をつぐんだ。

 静けさが再来した空間には時計の音だけが響いていた。


 中々攻撃を仕掛けてこないコルディに、しびれを切らしたゼファは再び口を開いた。


「重力の檻、"グラビトン・ジェイル"」


「―――っきゃ」


 重力の檻"グラビトン・ジェイル"は上級の拘束魔法だ。

 全身に不可視の重圧が降り注ぐと身体が鉛のように重くなり、身動きが取れなくなる。


「―――っ、体が…重い」


 重圧に耐えきれず、床に膝を突くコルディ。

 まるで強力な磁石に吸い寄せられるかのような感覚だった。


「黒き世界、"ゼロ・ヴィズビリティ"」


 状況を把握しきれていないコルディに対して、ゼファは容赦なく次の魔法を唱える。


「何これ、視界が見えにくい…!」


 黒き世界"ゼロ・ヴィズビリティ"

 視界を物理的な暗闇で覆い尽くす闇魔法だ。

 相手の攻撃命中率を下げることができる。


「どうだ? 何もできなくて辛いだろう」


 「この程度か」と冷たく呟いた魔王の言葉にコルディの身体がぴくりと反応した。

 それは光魔法の優秀な使い手、コルディ・ホープの躊躇いが消えた瞬間だった。


 反撃のターンだ。


「"ノーブル・ホーリーソード" いでよ、気高き聖剣―――」


 コルディらしからぬ真面目な声。

 彼女が光魔法を唱えると、空間上に眩い輝きを放つ無数の聖剣が姿を現し、ゼファ周りを取り囲む。

 闇を切り裂くような純白の聖剣。

 その閃光が、ゼファの目を眩ませた。


「何だこれは」


 床に膝をついたままでも、コルディは威厳ある声で続ける。


「闇を断つ聖剣です。

これ以上、攻撃を続けるのなら一瞬で終わりにしますよ。魔王ゼファ・ベーゼ」


 重力と視界を奪う二重拘束を受けても、平然と振る舞うコルディに、魔王は思わず眉をひそめる。

 本来なら口を開くことも困難なはず。

 しかし闇耐性持ちのコルディには、本来の効果が発揮されていなかったのだ。


「どうしますか?ここで終わらせましょうか?」


 余裕すら感じるコルディの挑発。

 魔王は冷静さを保ちながら再び闇魔法を唱えた。


「―――深淵の闇、"ダーク・アビス"」


「"ダイヤモンド・ウォール"絶対結界」


「―――なっ、」


 ゼファの顔に、初めて明快な驚愕が走った。

 コルディを覆う守りの壁が彼の放った闇を跳ね返したのだ。


「僕の魔法を通さない、だと?

はは、君みたいなやつは初めてだ…(こいつ、その辺の魔法使いとは比べものにならないほど魔法一つひとつの精度が高い。隙を見せたら本当にやられるかもしれないな)


 ゼファの背筋を未知の戦慄が駆け抜けた。

 生まれて初めて感じた焦りだった。

 コルディ・ホープは勇者パーティーとは格が違う。

 自分に匹敵する唯一無二の存在だと、ゼファは改めて悟った。


「魔王ゼファ、少しずつ魔力を失って何もできなくなるのはあなたですよ。早く私を解放してください」


「解放?君、エリオットに拘束魔法をかけられた時には解除したのだろう?僕のは無理なのか?しかし上級魔法は防御している。おかしい。何か企んでいるのか?」


 ゼファが怪訝そうにコルディに問いかけると、彼女は何の躊躇いもなく弱みをさらけ出した。

 アホ丸出しの瞬間だ。


「…私、同じ魔法は一日空けないと使えないんです!だから拘束解除の魔法はもう使えなくて…早く解いてください!」


 その一言が放たれた途端、室内は水を打ったような静けさになった。


「―――はぁ… 本当に、君はどうかしている」


 ゼファは仕方なしに拘束魔法を解き、コルディの身を自由にした。

 全身に圧し掛かった重圧が消えたコルディは、床に仰向けに寝転がりながら息を整える。


「はぁ…はぁ… 怖かった。けど、あまいわね。魔王!


―――"ペネトレイト" 聖剣よ、魔王を貫け!」


「無に帰す希望、"ブラックホール"」


 隙を見て聖剣でゼファを貫く予定だったが、作戦は失敗に終わった。

 彼の防御魔法により、聖剣は闇に吸い込まれ跡形もなく消滅してしまったのだ。


「うそ…魔王…つよ」


 "ノーブル・ホーリーソード"気高き聖剣―――。

 それは上級の攻撃魔法だった。

 本来なら防御の闇魔法を貫通する力を持っている。


 だが、ゼファとコルディには目に見えぬ力の差があった。

 つまりゼファがレベル100だとすればコルディは80くらいなのだ。

 常識を超えた桁外れの戦闘力を見せつけられ、勝機と魔力を失ったコルディは気絶するように眠ってしまった。


 魔力を激しく消耗したコルディの変装は、徐々に解けていく。

 漆黒に染め上げていた髪は、まるで光を取り戻すかのように輝く白銀へと戻る。

 頭の角はぽろんと落ち、床に触れると消滅した。

 その変化をゼファは静かに、しかしどこか興味深そうに観察していた。

 今夜、初めて、彼の前に完全な素顔を晒すことになった暗殺者―――コルディ・ホープ。


(光そのものだな)


 眠る暗殺者の横で、ゼファは静かにそう呟いた。


「―――魔王様ぁ!!!ご無事ですかぁあ!?…ん?おぉ!暗殺者をやったのですね」


 騒ぎを聞きつけてやってきたのはエリオットだった。

 倒れているコルディを見て、ふっと勝ち誇った笑みを零す。


「こいつは魔力の使いすぎで寝ているだけだ」


「では私がとどめを「駄目だ」


 魔法を放とうとした瞬間、ゼファに阻止され思わず目尻をひきつらせる。


「な、何故?生かしておくつもりですか!?また命を狙われてしまいますよ!?」


「確かに危険だが、久しぶりに楽しいと感じた。僕の魔力を三割も消耗させたのはこの魔法使いが初めてだ。明日から僕の専属メイドにする」


 魔王ゼファ・ベーゼの口元には、わずかに微笑が浮かぶ。

 彼にとって、魔力をこれほど奪われる戦いは久しぶりだった。


「魔王様!?専属にしたら更に危険では?命を狙われることも増えるのに、本当に大丈夫でしょうか?」


 眼鏡の奥の瞳はただ不安そうに瞬きを繰り返している。


「案ずるな。こいつは僕より魔力値が低い。それに致命的な弱点がある」


「弱点… とは?」


 エリオットが眉を寄せながら尋ねると、ゼファはコルディを軽々と持ち上げながらこう答えた。


「こいつは質問に対して何でも素直に答えてしまう。アホだ」


 吐き捨てるような言葉。

 自分の腕の中で無防備に寝息を立てるコルディを、漆黒のシーツへと休ませる。

 暗殺者をそっと寝かせているその行為に、エリオットは頭に疑問符を浮かべながらも「あ、あぁ…同感です」と、共感の意を示した。


 優秀、しかしド天然な魔法使いコルディ・ホープ。

 魔王ゼファ・ベーゼにとって、彼女は未だかつて出会ったことのない、()()()()貴重な存在だったのだ―――。






♦ ♦ ♦


 深い夜の帳が魔王城を包み込む。

 ゼファはベッドの端に横たわり、人一人分の距離を空けてコルディを見つめた。


 普段なら寝付けず、何度も寝返りを打つゼファだが、今夜は違った。


(何だ…… この眠気は)


 光の魔法使い、兼暗殺者のコルディ・ホープの穏やかな寝顔と、静かな寝息。

 本来なら光と闇、相容れないはずの彼女を前にして、ゼファは奇妙な安心感に包まれていた。


(眠い……)


 やがて、これまでにない深い眠りが、静かに彼を誘っていった―――。


♦今日の魔法♦


【イルミネート】

光の基本魔法。

周囲を明るく照らす。


【重力の檻、"グラビトン・ジェイル"】

重力の上級拘束魔法。

全身にのしかかる重力により、立っていることすら困難になる。

抗おうとするたびに、重力は力を奪い、体力を削ぎ落としていく。


【黒き世界、"ゼロ・ヴィズビリティ"】

闇の行動制御魔法。

対象者の視界を暗闇で塞ぎ、あらゆる行動を制限する。

技や魔法の攻撃も命中しにくくなり、戦闘能力は著しく低下する。


【ノーブル・ホーリーソード】

光の上級攻撃魔法。

闇を断つ鋭い一撃。

空中に無数の聖剣が出現し、対象者を取り囲む。

通常、発動魔法と組み合わせて使用される。


【ペネトレイト】

発動魔法。

準備していた魔法を解き放つ。


【深淵の闇、"ダーク・アビス"】

闇の上級特殊魔法。

命中した対象者の魔力や体力を徐々に吸収する。


【“ダイヤモンド・ウォール"絶対結界】

光の上級防御魔法。

全身を囲うようにダイヤモンドの壁が出現する。

意思を持つかのように対象者を守り、あらゆる魔法を跳ね返す。

絶対的な守護の力。


【無に帰す希望、"ブラックホール"】

闇の上級防御魔法。

あらゆる魔法を静かに飲み込む漆黒の渦。

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