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優秀で天然な魔法使い、師匠と戦う。

 ルハは勇者パーティーを、一人ひとり観察していた。

 その中で、ふと妙な格好をした魔法使いに目が留まった。

 軽く首を傾げ、ルハはクスッと笑い、ため息を零す。


(…コルディさん、変装しているつもりなんでしょうが、オーラが隠しきれていませんね)


 光の魔法使い、コルディ・ホープ。

 その周囲には、目には見えない輝きが静かに漂っている。

 上位魔族のルハは、ほんの一瞬で気付いた。

 妙な格好をした魔法使いは、間違いなくコルディだ。

 勇者パーティーの中に紛れ込む、彼女らしい大胆さ。

 ルハは笑いの沼に引きずり込まれてしまった。


「随分余裕そうだな! 悪いが、手加減はしないぞ!」


 リックの声が空気を切り裂く。

 聖剣を握る手に力がこもり、戦場の緊張が一気に高まった。


「手加減なんて必要ありません! 僕も全力で行かせていただきますので!!!

―――さぁ、戦いましょう!」


 リックの威勢に応えるかのように、ルハ・シャドーの瞳が鋭く輝く。

 あらゆる魔法を愛し、知識と研究心にあふれる魔族。

 その実力は確かで、油断ならない相手だった。

 ルハは目を細め、両手をゆっくりと広げる。

 まるで、勇者たちの攻撃を心から歓迎しているかのような、挑発にも似た余裕の仕草だった。


「“スピリット・レクイエム”!!! 闇よ、永遠に眠れぇぇえ!!!」


 勇者リックが聖剣を片手に、地面を蹴って走り出した。


 ―――戦いの幕が、今、上がった。


 リックは光を放つ刃をルハに向けて振り上げる。

 その剣に込められていたのは、幾度も魔族を打ち倒し、眠らせてきた上級剣術の全て。

 彼の全力が注がれた一撃だった。

 だが―――

 ルハは微笑みを絶やさず、影魔法を唱えた。


「影の幽閉、“シャドウ・キャプチャー”」


「―――っな!?」


 次の瞬間、リックの体がピタリと止まる。

 目の前の光景に、息を呑むのは彼だけではない。

 勇者パーティーの他のメンバーも、思わず言葉を漏らし、身動きが取れなくなっていた。


「……影の…拘束魔法……」


 ウィンズが肩を震わせながら、小さく呟く。


 『影の幽閉“シャドウ・キャプチャー”』

 地面に落ちる影を利用して、対象者の動きを完全に封じる影の拘束魔法だ。

 影に捕らえられた者は、抗おうとしても、その場に立ち尽くすことしかできない。

 そのため、リックの聖剣ルシフェルは、無情にもルハのもとに届くことはなかった。

 圧倒的な力で戦場を支配する、ルハ・シャドー。

 勇者たちの力では、太刀打ちできる相手ではなかった。


 彼は大きくため息を吐き、呆れた表情を見せた。


「はぁ~~~。 やっぱり、この程度でしたかぁ~!」


 その瞳は冷たく光り、失望の色を帯びながら、勇者一行を見下ろす。


「おい、どうにかできねぇのか!?」


「何か考えなさいよ! くっ、脚が言うことを聞かない…!」


「…僕の風魔法では……どうすることも……」


 立ち尽くすしかない状況。

 完全に捕らえられたまま、言葉で抗うことしかできない勇者たち。

 だが、コルディの胸は熱く震えていた。

 師匠ルハの影魔法を初めて目にし、その力の凄まじさに、心から感動していたのだ。


「では、次の影魔法をお見せしましょう!―――虚空の常闇、“ネザー・フォール”」


 その言葉と同時に、勇者たちの足元の影が異様に膨れ上がる。

 まるで生き物のようにうねり、蠢き、抵抗する間もなく彼らの身体を呑み込んでいく。


「―――私たち、どうなるのよ!?」


「抗えねぇえ!!! 影魔法に弱点はないのか!?」


「くそっ… ここまで来て、終われるかよ!!!」


 それは、最上級の影魔法―――

 対象者を容赦なく底なしの闇へと引きずり込む力を持つ。

 視界も、感覚も失われる絶望の世界。

 勇者一行を待ち受けるのは、終わりの見えない精神的苦痛だった。


 影に呑まれ、完全に姿を消してしまった勇者たち。

 拘束魔法の巧みさに心を奪われていたコルディだったが、その恐ろしさが肌で感じられる魔法の前では、思わず顔が引きつる。

 恐怖、驚き、そして魔法への純粋な感動が入り混じった複雑な表情だった。

 

「弱かったなぁ~。勇者さんたち。

―――ね?コルディさん」


「師匠、気付いていたんですか?」


 ルハは軽く頷き、口元に笑みを浮かべながら「もちろん!」と答えた。

 そのまま言葉を続ける。


「それより、どうします? 魔王様のもとへ進みたいですか?」


「…はい、通してくれたら嬉しいです!

でも、勇者のみなさんは今どこに……?ここは一階ですから、地下でしょうか?」


 素直に地面に吞み込まれた勇者たちの行方を地下だと思い込むコルディに、ルハは大きく口を開けて笑った。


「ははは!!! コルディさん、今日も絶好調ですね!

勇者たちは今、暗闇の中に閉じ込めてます。僕が魔法をキャンセルすれば出てこれますよ」


 勇者たちがいる場所――― それは、虚空の常闇。

 果てしなく広がる闇、視界も感覚も奪われる絶望の空間。


「……キャンセル…してくれますか?」


 恐る恐る尋ねるコルディ。

 ルハのことは慕っているが、勇者たちを安易に見捨てるわけにはいかなかった。


 ルハはコルディの願いに条件を提示する。


「そうですね。では、この機会に僕と一戦交えませんか?

コルディさんが僕に勝ったら、勇者たちを解放してあげます!!!」


 光の魔法使いに向けるのは敵意ではなく、熱望。

 魔族が恐れる力、光との真っ向勝負。

 ルハの胸は、純粋な探究心で満ちていた。


「…師匠との、対決? 何だか……熱い展開ですね!!!」


 危機感をほとんど感じさせないコルディ・ホープは、ルハの期待に応えるように熱い視線を送り返した。


「でしょう? ふふ、では、よろしくお願いします。まずは、そうですね……

―――幻影解除、“ヴェルス・ミー”」


 ルハが囁くように唱えると、彼自身が巨大な影に覆われる。

 その影を見上げ、コルディは一歩退きながら防御の体勢を取った。

 やがて影が消え去ると、そこには見知らぬ人物が立っていた。

 

「―――え、だれ?」


 ゼファと同じくらいの長身の男は、コルディに爽やかな眼差しを向けて口を開いた。


「へへ、ルハですよ! 僕は魔法で姿を変えているんです! こっちが本当の姿ですよ?」


 幻影魔法による、いわば変身。

 普段は愛らしい少年の姿で生活しているルハだが、実際には立派な大人だったのだ。

 大きくなった師匠を見上げるコルディの瞳には、驚きと再びの感動が宿った。


「魔法で長時間も姿を変えていたなんて……師匠はやっぱりすごいです!!!」


 お互いに敵意はない。

 そこには、挑戦心と、ほんの少しの遊び心が混ざっていた。

 ルハはにこやかに笑みを浮かべた後、目の奥の真剣さを覗かせる。


「僕が教えた融合魔法、ぜひ使ってくださいね」


「もちろんです!」


 両手を高らかに掲げ、コルディは魔法を唱える。


「―――“シルヴァリー・レイン”水星の雨」


 目の前に楽しそうに佇む、魔法の探究者である師匠の指導のもと、習得した融合魔法。

 静かに降り注ぐ光の雨は、ルハの影魔法の力を確かに削ぎ、空気に柔らかな輝きを与える。


 しかし、ルハはその雨を受けても微笑みを崩さず、爽やかな表情のまま立っていた。

 攻撃するつもりはなく、コルディを研究対象として、そして頼もしい弟子として見守っていた。

 この勝負をどう運ぶか―――

 勝敗の決め方に答えを見つけられなかったルハは、コルディに聞いてみることにした。

 

「どのようにして勝敗を決めましょうか?」


「へ?……えっと、どちらかが行動不能になったら、ですかね?」


 ルハの問いかけに、コルディも首を傾げる。


「―――でも、そうすると――」


 その瞬間、ルハは自らの影にすっと溶け込んだ。


「もうすでにコルディさんは行動不能ですよね?」


 『隠密の遂行、“シャドウ・スパイ”』

 影と影の間を縦横無尽に移動する魔法。

 コルディの影の中から姿を現したルハは、彼女を優しく羽交い絞めし、にこやかに笑った。


「し、師匠ずるいです!!!」


「ははは、捕まえました~!」


 コルディはあっけなく拘束され、身動きひとつ取れなくなってしまった。

 その時―――

 厚く重々しい王座の間の扉が、平穏を裂くように音を立てて開いた。


ゴゴゴゴゴ……

 

 その扉から、怒りにも似た圧迫感を感じ取ったルハは、即座にコルディを解放した。


「……おっと、魔王様がお呼びのようです!」


「ゼファが……?」


「僕はここで引き下がりますね。勇者たちは戻してあげますから、安心してください」


 そう言い残し、ルハは闇の中へと滑るように去っていった。


「っうぉお、戻ってこれたのか?」


「はぁ、なんて気分が悪いの」


「コルディ、お前――― あの子どもを倒したのか!?」


 永遠の闇から解放された勇者たちは、無傷のコルディと、開かれた王座の間への扉を目にして、驚きと安堵の入り混じった表情を浮かべた。

 息を整えながら、勇者たちはわずかな喜びを胸に抱く。


「何だと!? やるじゃねぇか。ここに来て本気モードかぁ!?」


 ダリドは思わず、コルディの髪をぐしゃっと撫でる。


(…そういうわけじゃ、ないんだけど……ま、いっか!)


 コルディは苦笑いを浮かべながら、勇者たちの生還に心の底からほっと胸を撫で下ろした。


「――― 行くぞ、最終決戦だ!!!」


 勇者リックが先頭に立ち、気合を込めて歩み出す。

 第四の試練を突破した彼らの前に待ち受けるのは、これまでの何倍も深く、重く、冷たい真の闇。

 だが、今の彼らには、恐怖よりも希望が勝っていた。

 ようやくたどり着いた王座の間。

 その足取りには、確かな決意が宿っていた。






♦ ♦ ♦


 魔王城の最奥地、王座の間。

 闇と冷気に包まれ、静寂が支配する異空間。

 ここが、最後の戦い――― 最終決戦の舞台である。


 脚を組み、王座の椅子に肩肘をついて座る魔王ゼファ・ベーゼ。

 その隣には、忠実な側近であるエリオット・ローズ。


「―――ようこそ、深淵へ」


 勇者たちに向けられたゼファの視線は、鋭く、冷徹だ。

 その一方で、コルディにだけは特別扱いのように、どこか優しさのある眼差しが注がれていた。


「ここまでたどり着くとは……並みの勇者パーティーではないと、お見受けしました」


 静かに口を開いたエリオットもまた、勇者たちには冷徹で突き刺すような視線を向けている。

 

「私に勝てたら、魔王様に挑む権利を与えましょう」


 第五の試練―――

 闇黒の補佐官。

 鎖魔法の使い手、エリオット・ローズを倒さねば、魔王に挑むことはできない。


 ただならぬ気配に、勇者たちは息を呑む。

 それでも、ここまでたどり着いた彼らに、諦めるという選択肢は存在しなかった。

 互いに視線を交わし、決意を胸に、前へと足を踏み出す。

 それを戦いの合図と察したエリオットは、瞬時に魔法を放った。


「―――捕縛の首輪、“スレイヴ・チェイン”」


「っっ、何だ、これ……!」


「―――っ、……首が……苦しい……」


()()()()の鎖の拘束魔法です」


 『捕縛の首輪、“スレイヴ・チェイン”』

 対象の首に鎖の輪が浮かび上がり、瞬時に動きと魔力も封じる。

 必死にもがくほどに強く首を締めつけられ、深い苦しみに襲われる。

 鎖魔法の最高位に属するこの魔法は、ほとんど抗うことを許さない。


 コルディ・ホープに太刀打ちできなかったあの日以来、日々研鑽を重ね、魔法の腕を磨き続けてきたエリオット。

 その眼差しには確かな自信が宿っていた。


 鎖の支配下に置かれた勇者たちは、首を締めつけられる苦しさに眉を寄せ、思わず息を詰まらせる。

 地面に立ち尽くすことしかできない無力感―――


「くそっ……こんな力……!」


 恐怖と苛立ち、焦りが入り混じる。

 鎖魔法を解き、先へ進めるか―――

 第五の試練もまた、極めて過酷な試練であった。

 

(……また、私だけ拘束されていない…?)


 首に手を当てながら、コルディは不意に疑問を抱いた。

 周囲を見渡すと、ゼファの視線は一貫して自分だけを見据えている。

 何を考えているのか、まったく読めない―――

 相変わらずのドライな表情。


「力を喰らう闇、“エクリプス・チェイン”」


 そして、容赦なく次の鎖魔法を放つエリオット。

 全身を何重もの鎖で縛られた勇者たちは、抵抗の余地もなく武器を手から落とし、戦闘不能に陥った。

 光の弱点を除けば、エリオットはここまで手強く、圧倒的な力を持つ魔王の側近なのだ。


(……このままだと、みんな死んじゃう…!)


 戦う素振りを見せないコルディだったが、苦しむ勇者たちを庇うように、自然と前に立ちはだかった。

 その意味不明な姿に、エリオットは一瞬言葉を失う。


(…コルディさんは、魔王様に任せたいのですが……)


 そんな思いが、彼の胸をよぎる。


「“バード・イン・ザ・グレイス”加護の中の鳥。ごめんなさい!エリオットさん!」


「―――っく、来ましたか。光の拘束魔法…!」


 光の魔法に阻まれ、強制的に魔法をキャンセルさせられたエリオットは、わずかに苦悶の表情を浮かべた。


(居心地は良くない。しかし、不思議と耐えられる…)


 その後ろで、ゼファは光の中にあっても微動だにせず、王座に座したまま状況を静かに見守っていた。

 

「いいぞ!今がチャンスだ!!!」


「どりゃぁぁぁあああ!!!」


「はぁぁぁあああ!!!」


「……吹き荒れろ、“ヒステリー・テンペスト”!」


 聖剣を勢いよく投げ飛ばすリック。

 大剣を振りかざすダリド。

 短剣を手に地面を高く蹴り上げ飛び立つヘレナ。

 風の上級攻撃魔法を放つウィンズ。

 勇者たちは力の限りを振り絞り、闇に立ち向かう―――。


(あぁ!このままじゃ…エリオットさんが―――!!!)


 凄まじい強風が吹き荒れる戦場。

 勇者たちの殺気が、まるで刃のように空間を切り裂く。


 必死に光の中で意識を保つエリオットを見て、魔王ゼファ・ベーゼはようやく立ち上がった。

 そして、瞬時に彼の前へと移動する。


 ようやく魔王を倒せる―――

 勇者たちの口角が上がり、決死の一撃を放たんとしたその刹那。


 魔王ゼファ・ベーゼの瞳がぎらりと光り、口から闇の最上級攻撃魔法が解き放たれる。

 胸の奥で赤く光る危険信号が、必死に勇者たちに逃げろと警告する。

 しかしその警告は、もはや手遅れ。

 闇の力が一瞬にして戦場を覆い、勇者たちには終わりなき絶望が襲い掛かった。

 

♦今日の魔法♦


【“スピリット・レクイエム”魂の休息】

魔族を永遠の眠りに沈める奥義の剣技。


【影の幽閉、“シャドウ・キャプチャー”】

影の上級拘束魔法。

影が足を絡め取り、自由を奪う。


【幻影解除、“ヴェルス・ミー”】

幻影魔法を解除する魔法。


【“シルヴァリー・レイン”水星の雨】

水と光が融合した輝く雨を降らせる魔法。

雨に打たれた者の攻撃力を弱める。


【隠密の遂行、“シャドウ・スパイ”】

すべての影を通り抜け、自由に移動できる転移魔法。


【捕縛の首輪、“スレイヴ・チェイン”】

首元に黒銀の鎖を巻き付ける鎖の最上級拘束魔法。

もがけばもがくほど、苦痛は増し、抗う術を完全に奪う。

転移魔法で逃げても拘束は続く。


【力を喰らう闇、“エクリプス・チェイン”】

対象の全身を幾重にも鎖で縛り上げる上級攻撃魔法。


【“ヒステリー・テンペスト”狂乱の嵐】

風の上級攻撃魔法。

広範囲に猛烈な風を巻き起こす。

並みの魔族では抗うこともできず、簡単に吹き飛ばされる。


♦今日の登場人物♦

ルハ・シャドー/本来の姿(29)

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